トラウザーズ解体新書 第六回:股下を考える

文/飯野高広

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トラウザーズに関しては性別や世代に関わらず、どうしても気になってしまうのが股下の長さ。お直しの際にバッサリ切られてしまうことにコンプレックスを抱える人もいれば、長過ぎて既製品では対応し切れないと真逆の悩みを抱える人もいる。しかも何気に流行にも左右され易い。今回はそんな股下について、それらと関連する事柄も含めて色々と考えてみたい。

「股下」は数値だけで考えてはいけない?

そもそも股下とは、トラウザーズのインシーム上を最上端から最下端まで、すなわち股部の付け根から内股側の縫目に沿って裾まで測った距離のことだ。身長に対しこの値の比率が高いトラウザーズを穿ける人が、俗に言う「脚の長い人」であることは間違いない。しかし、同じ人のそれであっても、流行や全体のシルエット次第で案外変化する値でもある。

そう、実はトラウザーズの股下は、単独で絶対値的に考えるより、そのシルエットを踏まえた上で柔軟に捉えたい数値なのだ。そのためにはまず、シルエットを決める上でキーとなるトラウザーズの「横」を示す数値から理解する必要が出てくる。具体的には「渡り幅」「膝幅」そして「裾幅」から、どこを測るのかを含めて改めて解説したい。

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1.渡り幅

トラウザーズの股部の付け根で、前身頃と後身頃とのクリースラインの間隔を、水平に測った距離のこと。快適に穿けるための大まかな目安としては「着用者のヒップの値の1/3+対になるプリーツの数」程度の値が必要であることを覚えておいて損はしない。

例えばヒップ96cmの方がフラットフロント(ノータック)トラウザーズを穿く場合は、渡り幅には96/3+0=32.0cm、フォワード1プリーツ(イン1タック)の場合はそれが96/3+1=33.0cm程度以上必要となる。これ以下だと股関節部が食い込むようなシルエットになったり、脇ポケットの口が開いたりしがちで、要はタイトを越してみすぼらしくなってしまう。

2.膝幅

これは測るポイントを何気に間違えやすい箇所なのでご注意を。つまり股下の中間点、つまりトラウザーズの「股部の付け根から裾までの中間点」ではなく、そこから5cm上で前身頃と後身頃とのクリースラインの間隔を水平に測った距離だ。恐らく人間の大腿部と下腿部との長さのバランスを考慮した上での位置なのだろう。

ただし近年では、これよりもう更に上の位置でこの値を設定したトラウザーズも多く出回っている。後述する「美脚パンツ」なるものがその典型例だ。

3.裾幅

トラウザーズの裾口の前端から後端までを水平に測った距離を指す。前述の渡り幅や膝幅に比べると、この数値は穿く人の体格には影響され難く、寧ろ流行に左右され易い数値だ。ここが20cm未満であれば細め、23cm以上であれば太めと考えておけばほぼ、間違いない。

そして、詳しくは後述するが、ここは渡り幅や膝幅に比べて股下と遥かに密接にリンクする数値でもある。簡単に言えば、この値が大きい(太い)ものが流行の時は股下が長くなりがちで、逆にこの値が小さい(細い)ものが流行だと股下は短くなる傾向が顕著である。

ただしその一方で、ここと②の数値を小さくしても、必ずしもスリムに「見える」とは限らないことも合わせて知っておきたい。例えばO脚などの影響でこむらが張っている=下腿部の筋肉が後方に突き出ている方が、必要以上に②とこれを細めてしまうと、それが生地を後方に押し広げてしまい、トラウザーズの膝から下にかけ後方向への大きな横皺が張り出て、逆に不自然に太く「見えて」しまうことも多い。

トラウザーズのシルエットのおさらい

これらの「渡り幅」「膝幅」「裾幅」そして前回の記事で探求した「股上」も踏まえた上で、一般的なトラウザーズの様々なシルエットを「股下」との関連も交えて分類してみよう。なお、これらは上に合わせるジャケットなどの流行にも影響される傾向が高いことも知っておいて損はしない。

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1.ストレート

ヒップと渡り幅の差はともかく、渡り・膝・裾それぞれの幅が比較的均等であるため、側面から見るとその名の通り直線状になるものの総称。全てのトラウザーズの基本形。21世紀に入っても後述する②や③の要素を交配して膝の位置を意図的に高く設定した通称「美脚パンツ」の人気が定着するなど、その時々の需要に応じた変化・改良が続いている。

2.テーパード

ストレートに比べ幅が渡り→膝→裾へと穏やかに狭まるため、側面から見ると縦長で上辺の広い台形状になるものを指す。人体の脚部の構造に自然に沿うものなので、流行り廃りがあまりなく、落ち着いた印象に映る。着用者の体格に応じた股上・股下に素直に設定するのが最も美しく仕上がるシルエットとも言われている。

3.パイプドステム

ストーブパイプとも呼ばれ、ヒップも含めストレートが全体的に細くタイトになったものを特にこのように称する。1950年代後半から60年代前半のアイビーやモッズなど細身の若い世代が主導権を握ったファッションブームでは、彼らの体型を活かすべく積極的に採用された。見栄えのバランスを良くすべく、股上は浅く、股下は短めに仕上げるのがセオリーだ。

4.バギー

文字通り「袋」のイメージそのもので、パイプドステムとは逆にヒップも含めストレートが全体的に太くルースになったものを指す。昨今で言うところの「ワイドパンツ」もこの一例だ。こちらは股上を深く、股下を長めに仕上げるのが一般的(ただし、ごく最近のものは股下を敢えて九分丈程度に短くしたものも多い)。

1930年代後半から40年代にかけて特に流行したシルエットで、第二次大戦前後の物資不足が深刻なご時世だったにもかかわらず、布が多く必要なこれが受けたのは、何より勇ましく見えるからではないか? なお、「オックスフォード・バッグス」と呼ばれる極端に太いものも1920年代終盤にイギリスで瞬間的に流行した。

5.フレアード

渡りから膝までは幅が狭まるものの、膝から裾へは逆に広まるため、側面から見ると末広がり状になるものを指す。1960年代後半から70年代のトラウザーズ、いや当時の表現で言うパンタロンを代表するシルエットで、膝から裾まで大きく広がるものを特に「ベルボトム」、またストレートに近い穏やかなものを「ジェントリーフレアード」或いは「スライリーフレアード」と称する。またデニムの「ブーツカット」もこの派生系と考えられる。

視覚上ヒップを小さく見せる効果があるためか、婦人服の世界では今日すっかり定番だ。この効果を得やすくすべく股上は浅めとする一方で、股下は長めに仕上げる場合が多い。

6.ペッグトップ

「ペッグトップ」とは洋ナシ形状のコマのこと。それに似せてヒップ~渡り~膝までは幅に余裕を多く持たせる一方で、裾幅を一気に細めて側面から見ると下つぼみ状になるものを指す。簡単に申せばテーパードを極端にデフォルメしたもの。丸く包容力のあるシルエットは近年では1980年代に流行した。足首の動きに支障が出ないよう、股下は気持ち短めとする場合が多い。

股下の「長め」「短め」の目安は?

上記を「股下」の観点から整理すると、一般的に股下が長めのものは裾幅が太めのシルエットと相性が良く、逆に股下が短めのものはそれが細めのシルエットに似合う、と言えるだろう。ではその股下の「長め」「短め」は、一体何を目安にすれば良いのだろうか?

これには実は履く「靴」が大いに役に立つ。以下を覚えておくと、様々なトラウザーズを購入したり仕立てたりする場合の参考になるだけでなく、そのシルエットの特徴を活かした穿き方も可能になる筈だ。

機能面(=快適に穿く)と美しさ(=脚を長く見せる)双方の意味で「トラウザーズと靴とをどう一体化させるか?」の観点でも考えれば、自ずと最適解を得られるだろう。

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1.ノーブレイク

股下を短めに仕上げたもの。具体的にはトラウザーズの後身頃の下端が、一般的な紳士靴のアッパーのヒールカーブ上端には接しないかせいぜい触れる程度で、前身頃の下端も靴の鳩目部とはぶつからずそれを全く隠さない状態だ。直立静止時だと、少なくても側面からは靴だけでなく靴下も見えてしまうので、必然的に軽快で活動的な雰囲気となる。

裾幅が細い、大まかな目安としてはそれが20cm未満のストレート~パイプドステム系トラウザーズ、若しくはテーパード~ペッグトップ系のものとの相性に優れるので、1950年代後半から60年代前半のアイビーやモッズそれに21世紀以降~2017年頃までのように、タイトなシルエットが好まれると流行りがちだ。

逆に裾幅が広めのものでこう仕上げると、足が短くなんとも間抜けな印象に映る。更には歩く度にトラウザーズの裾がそこにパタパタとあたってしまい、全く快適な穿き心地にならない。とは言え、最近ではバギーシルエットのものでもこれを敢えて採用し、「ユルさ」「軽さ」を強調するケースも登場している。

2.ハーフブレイク

股下を中庸の長さに仕上げたもの。すなわちトラウザーズの後身頃の下端が一般的な紳士靴のアッパーの上半分程度を隠し、前身頃の下端はその鳩目部と軽くぶつかりその上部1/3~半分程度を隠す状態である。直立静止時には靴下は見えないものの、歩行時や着席時には見える場合もある。

中庸な裾幅の、大まかな目安としてはそれが20cm~22cm程度のストレート~テーパード系のトラウザーズとの相性に優れ、特に時代や流行に左右されずに好まれる傾向にある。選択に迷ったら、或いは長く穿きたい一本ならばこの股下の長さとこの裾幅、と覚えておけば大丈夫だ。

3.フルブレイク

股下を長めに仕上げたもの。具体的には、トラウザーズの後身頃の下端が一般的な紳士靴の(アッパーを越えて)ヒールの上端まで届き、前身頃の下端はその鳩目部と大きくぶつかりその上部3/4程度を覆い隠してしまう状態だ。当然ながら歩行時でも靴下は全く見えないし、靴も少ししか見えない。

裾幅がある程度以上太い、大まかな目安としてはそれが23cm以上あるトラウザーズとの相性に優れる。そのため、全体的に太くルースなバギーシルエットが好まれた1930年代後半から40年代にかけて、またフレアードシルエットが性別を問わず大流行した1960年代後半から70年代にかけて主流となった股下だ。

逆に裾幅が細めのものでこう仕上げると、裾部に皺が大きく出てしまう結果、他の人からの視点がそこに集中し足が短く、しかもだらしない印象に映る。更には、靴の甲部から足首周辺に余分な生地がまとわり付くので穿いていても不快だ。

裾の処理でも印象が変わる!

折角なので、トラウザーズの裾の処理についても触れておこう。これはフォーマルウェアを除いて原則穿く人の好みや体格、それにトラウザーズの持ち味に合わせての選択で構わない。なお、この処理を指す用語も典型的な和製英語なのでご注意を。

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1.シングル

折り返しを付けずに仕上げた処理。本来はプレーンヘムとかプレーンボトムなどと称する。軽快で活動的な印象を与えがちな一方、②が登場する以前に今日のものの基準が固まったフォーマルウェアの裾でもこの始末とするのがお約束だ。身体の下端に横を遮る線が出ないため、脚を長く見せる効果も期待でき、脚が短いと感じている方にも向いている。

なお、チノーズやデニムのように、折り返しこそ付かないものの余った布を裏返ししてミシンで縫い留めし、そのステッチを表面に露出させるような始末を、日本語では「タタキ」と称し、厳密にはこれと区別する(英語ではステッチドヘム若しくはステッチドボトム)。この日本語は恐らく「縫い叩く」が省略されたものだろう。

2.ダブル

折り返しを付けて仕上げた処理。本来はターンナップスとかカフドボトムなどと称する。起源には諸説あるが、いずれも「雨天時に」「屋外の泥道を歩行する際に」「裾をまくり上げた」点は全て共通で、それ故屋外での活動向けと考えるのが自然。また、身体の下端に横を遮る線が出るため、足下に安定感を出す効果も期待できる。こちらは身長の割に細身でかつ脚長の方との相性が特に良い。

なお折り返しの縦幅は、一般的にはトラウザーズの裾幅とは反比例の関係となるのも覚えておきたい。すなわち裾幅が細ければ折り返し幅は太めの4.5cm前後、太ければそれを細めの4.0cm以下とすると全体のバランスが安定しがちだ。ただし、これには着用者の体格も考慮する必要があるのを忘れてはならない。

3.モーニングカット

礼装のモーニング用のトラウザーズに暫し施される裾処理に因んだ命名。裾前方のダブつき感を防ぐ目的で前身頃の裾を後身頃より短く仕上げたもの。本来はアングルドヘム、若しくは欧米では軍礼装にも多く見られることからミリタリーヘムとも呼ばれる。

裾端に余計な皺が出難く靴との一体感も出てスッキリ纏まるのが特長で、主にシングルで始末するが極稀にダブルでも見受けることもある。また傾斜は直線的に仕上げるのが一般的だが、カーブを描いたものも見受けられる。


—おわり—

公開日:2020年4月20日

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

終わりに

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色々と書いては来たが、つまり、それぞれのトラウザーズの股下を決めるのに大きな手掛かりとなるのは、まずその裾幅だ。そしてその裾幅を踏まえて 靴とトラウザーズとを、余計な隙間や皺を無くしてスッキリ一体化させることを意識できれば、最適な股下の数値は自ずと決まるものなのだ。何でもかんでも長くしたり短くしたりするのは愚の骨頂。このように冷静に対応できれば、脚は自然に長く見せられる!

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