日本文化は杉とともに。針葉樹を家具に活かす

取材日: 2019年6月14日

文/塚田史香

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ウォルナット、マホガニー、チークと聞けば、家具を思い浮かべる人は多いはず。しかし杉と聞いた時はどうだろう。まず連想するのは、残念ながら花粉ではないだろうか。針葉樹は家具には向かない。花粉を飛散させる。どうもネガティブなイメージがつきまとう。

太平洋戦争後の復興期に植えられた杉の木が、いま伐り頃を迎えている。当時、最優先課題だった住宅供給の需要に応えるべく国策として大量に植えた杉の木が、現在は上手く活用されず日本の森林管理を悩ませている。

グループモノ・モノ編集の書籍『杉でつくる家具』では、肘掛け椅子、ベビーチェア、サイドテーブルなど、いずれも素朴な木肌と洗練されたデザインが融合する魅力的な家具が紹介されている。ページをめくるうちにひとつの疑問が湧いてきた。

「本当に杉は家具に向かないのだろうか」

東京都国立市の公団住宅の一角にある、シェア工房「クミタテ」を訪ね、同著のテキスト監修をつとめた家具デザイナーの笠原嘉人さんにお話を聞いた。

杉でできた、「離乳食に便利な挟み脚のベビーチェア」。テーブルは脱着式であり、おうちの方が離乳食やおやつをあげるときにぴったり。座面や足置きは、組立時に高さを調節してから固定できる。

杉でできた、「離乳食に便利な挟み脚のベビーチェア」。テーブルは脱着式であり、おうちの方が離乳食やおやつをあげるときにぴったり。座面や足置きは、組立時に高さを調節してから固定できる。

針葉樹は本当に家具には向かないの?

「家具を作るなら広葉樹がベストです。いわゆる『洋家具』の設計を考える時、杉を使う事にメリットはほぼありません」

そう答えるのは、家具デザイナーの笠原さんだ。笠原さんの後ろの壁には、工具がかかっている。杉材の爽やかな香りがする。そして目の前には、杉で作ったスツールや椅子がある。

杉でできた、「筋交いが効いた2WAYスツール」。置き方を変えることで座面の高さが変わる。縦に置くと大人が座るのにちょうどいい高さに、横に倒すと子どもが座るのにちょうどいい高さになる。スツールとしてだけでなく、ソファの横に置くサイドテーブルにしたり、子どものお絵描き机にしたり、いろいろな使い方ができる。

杉でできた、「筋交いが効いた2WAYスツール」。置き方を変えることで座面の高さが変わる。縦に置くと大人が座るのにちょうどいい高さに、横に倒すと子どもが座るのにちょうどいい高さになる。スツールとしてだけでなく、ソファの横に置くサイドテーブルにしたり、子どものお絵描き机にしたり、いろいろな使い方ができる。

これらは『杉でつくる家具』のベースとなった書籍、1953年出版『アイデアを生かした 家庭の工作』に掲載されている図面をもとに製作されたDIY家具だ。元々のデザインを手掛けたのは、デザイン事務所「KAK(カック)」の創立者であり共同代表である河潤之介、秋岡芳夫、金子至の3人。過不足のない姿かたちで、部屋に1つあると、その空間の居心地が良くなりそうな美しさを備えている。

「おしゃれですね」と言うと、笠原さんは柔らかい口調で次のように教えてくれた。

「ここにある家具は、おしゃれにデザインされたというよりは、杉の弱点を補うべく杉の材料特性を計算し、アイデアと教養と経験から生まれた論理的な構造で組み立てられています。広葉樹に比べて弱点の多い杉を、いかにうまく人間が座っても壊れないようにするかに注力して考え抜かれているんです」

広葉樹で作られた椅子。このような椅子を杉で作ろうとすると、座った際に脚が折れてしまう。(Photo:Yuco Nakamura)

広葉樹で作られた椅子。このような椅子を杉で作ろうとすると、座った際に脚が折れてしまう。(Photo:Yuco Nakamura)

「一般的な家具はブナ、ミズナラ、カエデ、メープル、ウォルナットチェリーなど硬くて靭性がある広葉樹を用います。広葉樹ならばスタイルよく椅子の足を細くしても人間の重さを支えられます。しかし杉は柔らかい針葉樹。我々がイメージする『ふつうの椅子』を杉で作ろうとすると脚が折れてしまいます」

KAKのセンスとインテリジェンスをみる一例として、「挟み脚」という構造がある。

スツールは、ホームセンターでも手に入る13㎜の厚さの杉板で作られている。折れやすさ、ぐらつきやすさを構造で解決するためのアイデアが、2枚の薄い板で梁材を挟み込む工法だ。

MuuseoSquareイメージ

「広葉樹家具なら、細い所もホゾでつぎます。針葉樹でそれをしようとすると折れてしまいます。そこで杉が、木の繊維だけでできている特性を生かします。折れない程度に杉板をたわませて、先端を締めて留めるのです。常に強い摩擦で挟み込むと横揺れもせず、丈夫な構造になります。KAKの金子さんの師匠、アントニン・レーモンド(チェコ出身の建築家)さんは木造建築の屋根を作るときにこの挟み込む構造を使っています。そこからヒントを得たのでしょうね」

KAKの家具は、「すべて言葉で説明できる論理性でデザインされている」という。

「単なるおしゃれや個性ではない。だから70年近く前のデザインですが、いま見ても新鮮で、エバーグリーンな魅力があるんです」

日本文化は杉とともに

すると気になってくることがある。

——なぜKAKは杉を使うのか?

この疑問について笠原さんは、1953年の時代背景に触れながら説明する。

「KAKがアイデアを生み出した頃は、まだ既製品のない時代でした。お母さんは調味料も作るし、型紙を買って子供に洋服を仕立ててやりもする。そして各家庭には道具箱があり、棚や小机はお父さんが作った。杉の材料は近所の材木屋さんで簡単に手に入る。KAKは杉を使いたかったのではなく、身近に手に入る材料とアイデアで、一般市民の生活を潤したいと考えたんです」

原作『家庭の工作』を手がけたKAKデザイングループの3人。左から河潤之介、秋岡芳夫、金子至。グラフィックから光学機器まで幅広いデザインを手がけた。(写真提供:モノ・モノ)

原作『家庭の工作』を手がけたKAKデザイングループの3人。左から河潤之介、秋岡芳夫、金子至。グラフィックから光学機器まで幅広いデザインを手がけた。(写真提供:モノ・モノ)

登呂遺跡からは、杉の板を使った土木の跡が見つかっている。桶や樽など生活用品も杉でつくられた。現在にもつながる木造建築の柱の太さや基準は、杉が柱となる前提で設定されたものなのだそう。

「世界の木造建築にはログハウスやスイスのシャレーなど、丸太や板を積んで壁にする校倉式のものが多いのですが、杉やヒノキを柱や梁として美しく仕上げた上で軸組するのが日本建築の特徴です。まさに木を「建てる」のです。日本は気候的に良質な杉がとれやすい環境です。手に入りやすいことに加えて、杉は柔らかく加工しやすいので縄文・弥生時代でも、斧や刃物で縦方向に力を加えれば、パカッと割れて板に仕立てる事ができました。数㎜厚の板にすれば市松に編むこともできた。網代張りといわれる仕上げ方は、いまも高級旅館やお茶室の天井にみることができます。もう1つ杉の良いところ。それは軽さです。地震で天井が落ちてきても、杉の薄い板ならば命は助かります。家を建てる時も人力でまかなえます。日本人にとって、融通の利く素材なんです」

重量が同じならば、引っ張る力は鉄より強く、圧縮する力はコンクリートより強い。ただ細く加工すると折れやすい。

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放置林という問題

戦後の復興期に植えた杉の木が、60年を経ていま伐り時を迎えている。しかしその手入れをし、出荷する林業農家が足りていない。

「1964年、政府が外国からの木材の関税を撤廃しました。カナダ、北米、ロシア、ヨーロッパから外国産材が大量に輸入されると同時に、外国産針葉樹を主材料とするツーバイフォー工法の住宅が広まると、国内の林業業者を取り巻く事情が大きく変わりました」

「日本では木材を大切に育てるための手入れを欠かしません。植林の多くは深く急峻な山間にされているため、手入れや出荷のルートとして林道などの整備が不可欠です。良質な木材を得るために手間を惜しまないのです。結果として海を渡る輸送費を含めても外国産材のほうが安く手に入るようになったのです」

廃業する林業農家が増えると、手入れされない杉林が増える。杉の木は、手入れされずにいると次々に枝を出し、節だらけになる。節の部分は丸く抜けてしまうこともあり、材としての強度が下がるし見た目も美しくない。使いどころも限られてしまうのだ。

「国土に対する比率は約70%、フィンランドに続いて世界第2位なんです。70%のうち天然の林は約53%で、残りの多くは戦後に植えられた杉の木。日本の国土70%のうちの何割かが手入れのされない森になる可能性があります」

林野庁はこの課題に取り組むべく、杉を砕いてチップにし燃料にするという取り組みをしている。大手家具メーカーは、杉に圧力をかけて硬い材木にすることで、広葉樹でつくるような構造の家具作りを目指す。

これらの取り組みは、資材の活用の方法の1つとして有効であるとした上で、笠原さんは杉の特性を極力、生かした針葉樹家具のデザイン・製品開発にもう15年以上関わっているという。

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笠原さんは「杉の木がもつ親和性を活かしたい」と考えている。

「杉は軽くて柔らかく、温かみがある。軽いのは、同じサイズでも広葉樹より空気をたくさん含んでいるからです。外気より温度が下がらず、冬に素肌で触れてもヒヤッとしません。昔の日本建築の床には杉が使われていました。裸足で廊下を歩いても足の裏が冷たくなかったんです。それは人間に対する優しさであり、特に日本人にはもっとも合っている木材だと思えるんです。風合いや手触り、香り、古びていった感じも、日本人が共通でもつ美意識に触れるものだと思います。こういった杉と人の親和性を生かす方向を模索していきたい。日本人が培ってきた杉文化の継承を考えると、杉に敬意を持ったデザインをしたい。杉家具を1つのポータルに杉の魅力を伝えていけたらと思うんです」

—おわり—

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クミタテ つかえる木工所

クミタテは東京都国立市にある木工クラフトに特化したシェア工房。工房の会員になると、備え付けの機材や工具をシェアして趣味のDIYから商用の製品づくりまで幅広く利用できる。建築家・寺林省二さんの設計オフィス「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」が同居しており、相談会を定期的に開いている。また、クミタテに隣接している雑貨屋「ゆーから」と提携しており、棚借り・委託販売ができる。見学もできるので、興味がある方はまず問い合わせしてみよう。

国立市富士見台1-7-1 富士見台第一団地1号棟106

9時〜20時(イベント日・夏季冬季休業期間を除く)

*お店に足を運ぶ前に、HomePageで最新の情報を確認することをお勧めします。

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Writer Profile

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塚田 史香

東京在住。ライター。PRSJ認定PRプランナー。好きな場所は、自宅、劇場、美術館です。

終わりに

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子どもの頃、障子の木枠に触れるのが好きでした。和紙が破れるのでは?というスリルを楽しんでいた節もありますが、笠原さんの「杉と人の親和性」という言葉で蘇ったのは、障子戸が軽く滑らかに開閉するときの気持ち良さや、閉めたときの音の耳あたりの良さです。いまの住まいにも杉を使った建具がほしくなりました。

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