Deckelマウントレンズ

Deckelマウントレンズ

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Friedrich Deckel AGはドイツのミュンヘンに1903年に創設された機械メーカーです。レンズシャッターを作っており,レンズシャッターをベースとした一眼レフ用のマウントシステムを開発し,いくつかのカメラメーカーがこれを採用したカメラを1950年代の終わり頃から市場に投入しています。このシャッターやその周辺機構を含むマウントシステムがDeckel (DKL)マウントと呼ばれるものです。

DKLマンウントを採用したカメラの主なものには,コダックのレチナIIS, IIIS,フォクトレンダーのベッサマチック,ウルトラマチックシリーズがあり,これらのDKLマウントカメラは全部で100万台を超えたようです。Friedrich DeckelはDKLマウントをユニバーサルマウントとすることを目指したようで,実際,M42,Exakta (EXA)マウントと並ぶユニバーサルマウントとなり,ドイツを中心とする主なレンズメーカーが参入しました。

なぜかCarl ZeissはDKLマウントレンズを供給しておらず(ごく少数はあるらしいですが,まず目にすることはありません),Voigtländer,Schneider,Rodenstock,Steinheil,Ennaなどからレンズが供給され,ユニバーサルマウントであるM42やEXAとはやや趣が異なる交換レンズのラインナップでした。特に,Rodenstockの35mm判のレンズの多くはDKLマウントとして供給されており,M42,EXA,ライカスクリュー(L39)マウントのレンズは非常に限られています。

レンズビハンドシャッターのため,レンズの設計はレンズシャッターの径に大きく制約されています。レンズ後端の小さな径に光を通さなくてはならないため,最短撮影距離が非常に長くなる,という問題がありました。DKLマウントでもっとも広角であった28mmレンズでさえ,最短撮影距離は当初は1mもあって,一眼レフによって撮影対象を直接見ながらピント合わせができるメリットをほとんど享受できないものであったと言えます。

DKLマウントという場合,通常はベッサマチックやレチナIIS,IIIS用のものを指すことが多く,これらのカメラでは,絞り操作はボディ側で行うようになっていました。のちに露出などの自動化が進むとカメラからレンズを認識できるようにメーカー独自の爪が追加されるようになり,結果としてユニバーサルマウントとしての汎用性が失われます。DKLマウントの黎明期には一眼レフだけではなく,レンジファインダー機とも互換性があり,レンズには距離計連動機構を持つものが作られました。一眼レフが台頭するにつれてレンジファインダー機の需要が減り,ある時期からは距離計連動機構を省略したレンズが作られるようになります。それとともに,最短撮影距離が少し短くなるような改良がされています。

現代のミラーレス一眼カメラでこれらのDKLマウントレンズを使うには,メーカー独自の爪を回避し,絞り環をもつマウントアダプタを用いることになります。

ただ,ややこしいことに,DKLマウントには同じ物理形状でありながらレンズ側に絞り環を有するフォクトレンダーのビテッサTというカメラがあります。ビテッサT用のレンズとベッサマチックなどのレンズは互換性がなく,マウントアダプタもそれぞれ別に用意せねばなりません。

さらに,コダックのレチナIIa, IIc, IIIcといったカメラは,レンズ交換式ですが,レンズシャッターより対物側の前玉のみ交換可能なシステムでした。これらのカメラ用のレンズ銘にはDKLマウントレンズと同様にレチナoooというような名前が付いているものがあって混乱します。多くの場合,レチナIIIc等むけのレンズ銘にはCという文字が入っていることと,レンズの暑さも薄い(前玉だけしかないから),というようなところで判別するしかありません。

このようにDKLマウントレンズは,同じマウントでもメーカー間での互換性がないもの,同じ物理形状でも絞り環の有無の違いがあって互換性がないもの,似たような名前のカメラ用レンズでありながら全く異なるシステムであるものがあって大混乱の様相を呈しています。ここでは,レチナIIS,IIIS,ベッサマチック,ウルトラマチックなど,絞り環がボディ側にあるタイプのDKLマウントレンズを集めています。

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