Contax Cマウントレンズ
1910年にカール・ツァイスを辞してエルンスト・ライツに転職したオスカー・バルナックが最初のライカ(24x35mm)判フィルムを用いた小型カメラであるウル・ライカを完成したのは1914年でした。量産品が市場に登場するのは1925年のライカI (A)型が最初ですが,レンズ固定式でした。レンズ交換可能なライカI (C)型が1930年に,いわゆるバルナックライカの原型ともいえるII (D)型が1932年に登場します。オスカー・バルナックはこの4年後,ライカIIIaの発売1年後に亡くなっています。
ライカII (D)型の登場から1ヶ月後の1932年3月,ツァイス・イコンからContaxが発売されます。1936年にContax IIが発売されると初代ContaxはContax Iと呼ばれるようになります。Contax Iはライカに比べて遥かに長い101.7mmという基線長のレンジファインダーを持つカメラでした(ライカの基線長は38mm)。この長い基線長のおかげで,明るいレンズを装着しても高精度にピント合わせができました。あらゆる面で,ツァイス・イコンの総力を結集して完成されたカメラと言えます。Contax Iは短期間に多くの仕様変更がされ,様々なタイプがあるようです。このことは発売を急いだために十分な完成度に達していなかったことの裏返しなのかもしれません。ライカも高価でしたが,Contaxもとてつもなく高価でした。
ライカに比べてContaxは壊れやすい印象がありますが,レンズについてはZeissはライツに対して1日の長があるともいえ,Contax用に用意された交換レンズ群はいずれも素晴らしい性能のレンズでした。ライカにContaxのレンズを使えれば最高だ,と言われたこともあったようですが,それぞれのシンパに袋叩きにされそうな話ではあります。
昨今のライカブームでライカのレンズは不当に値上がりしているように感じますが,Contax用のレンズはその性能の割に価格はそれほど高価ではありません。50mm F2の標準レンズならContax Cマウントレンズ(Sonnar 50mm F2)はライカL39マウントレンズ(Elmar 50mm F2)の1/2くらいの価格でしょうか。Contax Cマウントが標準レンズは内爪式,それ以外が外爪式といういかにも使いにくい仕様になっていることもレンズがそれほど高価で取引されないことと無関係ではないと思われます。
ベネズエラ製のAmedeoアダプターの登場により,Contax CマウントレンズをM型ライカで使うことができるようになりました。ヘタをするとレンズよりも高価なアダプターですが,距離計にも高い精度で連動するため実用的です。ただし,Contax CマウントレンズのうちTessar 2.8cm F8を除く広角レンズは後玉が大きくはみ出しているため,アダプタ(カプラー)を用いてライカに装着することができません。標準から望遠レンズについては問題なく装着できます。
戦後のドイツの分断によりレンズ供給が不安定になったりした時期がありますが,当時のレンズには現代のZeissにはない「何か」があるように思います。ソ連に接収されたZeissの技術をもとにソ連で作られたZeissコピーのレンズやカメラも多数あって,ソ連のなかで独自の発展を遂げます。一部のソ連製レンズはZeiss製レンズの完全なコピーなので,銘板だけを挿げ替えた偽物が数多く出回っていることには注意が必要です。偽物の見分け方は簡単ではありませんが,一つの目安として,距離表示の単位がm (小文字)なのがZeiss, M (大文字)なのが偽物という傾向はあるようです。少なくともソ連製のZeissコピーレンズで距離表示が小文字のmのものを見たことがありませんのでおおよその判断基準になると思っています。ただし,アメリカ向けのfeet表示のみの個体はこの判定ができませんので手を出さないのが無難です。