はやる気持ちを抑えて、まずは中底を作ります
- 1.木型を選んでデザインを決める
- 2.型紙を作る
- 3.革を選んで裁断する
- 4.アッパーを作る(甲、側面、かかとを縫い合わせる
- 5.釣り込み(アッパーを木型に固定する作業 ◀️今ココ
- 6.底付け
- 7.仕上げ
前回では革靴のアッパーを作ってきました。
さてさて、釣り込むぞー!と道具を用意してアッパーを木型に被せて気がついた。
「中底付けてなかった…」。
いつも序盤は前のめりになってしまって大事なことを忘れそうになります。釣り込みに入る前に<中底>という、足が直接触れる(厳密には中敷きがありますが)底をつける必要があります。
中底用には牛のお腹(エン)や肩(ショルダー)部分の革が使われています。アッパー部分の革より厚く堅く、4〜5mmほどの厚さがあります。革の中底は足へのなじみが良く、透湿・排湿性に優れています。
と脇にそれましたが…、まず中底を木型の大きさに合わせてざっくり切って、銀面(ぎんめん)と呼ばれるツルツルしている側の表面を適当な大きさに割ったガラスで削ります。この作業をしておかないと靴の中で足がツルツル滑ってしまうのです。中敷きを入れるにしてもツルツルしたままだと接着がしにくいので必ず行います。この削りカスがいつも「カツオ節みたいだな…」と思いながら作業をしています。
木型より若干大きく荒裁ちをしておきます。厚さややわらかさはさまざま。実際に手に取って見た方が間違いがないです。
銀面をガラスで削るとこのような感じになります。手で触ると少しフワッとした感じです。これがガラス。ガラス窓を割っただけのものです。…が、最近ではこの「普通のガラス」も希少になってきているとか。
木型に合わせたらクギで打ちつけます。前、後ろ、真ん中の順に三カ所です。全部は打ち込まず、3分の1くらいを横に倒しておきます。後で抜きやすくするためです。さらに木型からはみ出した部分を削りながら端を斜めに切り落として面取りします。最後にウェルト(靴の縁部分、押し縁といいます)を縫い付けるために、縁から9〜12mmのところに(部位によって変わります)溝を作ります。
クギで木型にとめて、木型の端とピッタリ合うように微調整していきます。さらにウェルト(押し縁)を縫い付けるための溝を掘ります。
さてさて、今度こそ釣り込み作業に入ります。
まずは羽根が広がらないようシューホールに糸やビニルテープを通し、シューレースのように縛っておきます。
アッパーをかかと側から被せ、つま先に向かって引っ張ります。強めに引っ張ったらタックス(仮止め用の釘のようなもの)で固定。その次にかかとを木型のかかと線に合わせてこちらは普通のクギで留めておきます。かかとは動かないようにしておきたいのでタックスではなく、まっすぐなクギを使ってしっかり留めます。
釣り込みには2段階あって、まずは革にクセをつけるというか、きちんと釣り込めるか、シワなどが寄らないかどうかをチェックするために仮釣り込みをし、問題がなければ芯材を入れて本釣り込みをします。
かかとを固定したらつま先に戻り、左上と右上を固定、またかかとに戻って引っ張ってはタックスで留める作業を繰り返します。底への巻き込み代は先ほど作った中底の溝くらいまであればいいので1〜1.5cmあれば充分なのですが、型紙の作りがよろしくないと写真のように部位によって革がもったいないくらい余ってしまったりします……。
まぁ足りないよりいいのですが、これは恥ずかしいレベルです……(ホントすみません)。
とりあえず釣り込めたら、サイドはもちろん、センターから見てウィングチップの尖った部分と羽根の合わさった真ん中の部分がまっすぐかどうか、羽根の左右のバランスなどを確認します。
羽根が必要以上に広がらないようにヒモでしっかり縛っておきます。釣り込みに必要な道具。タックスと呼ばれる特殊なクギと革を引っ張るために使うワニ。余談ですが国産のワニがなかなか希少なようで……。道具を作る職人が減っているという悲しい現実。
革を引っ張って、タックスで留めます。ワニの背中(丸まっている方)で打ち込みます。
このようなたるみ(左)を、引っ張って伸ばします(右)。
きちんと釣り込めることがわかったので、ひとまずここまで。靴っぽくなってきました!一度形作ったら、タックスを抜いて最初の状態に戻します。
かかとに形を固定する<芯材>を入れます
作業はいきなりここからでもまったく問題なしです。が、ある程度くせ付けしておいた方が作業が落ち着いてできるので、手間ではありますが、私は2段階踏んで作業をしています。
芯材(カウンターともいいます)とは、靴の形状を保持してくれる重要なパーツです。みなさんのお手持ちの靴、かかとやつま先だけ堅かったりしますよね?主につぶれやすい部分に入れられているのが芯材です。芯材が入っていることで美しい形をキープできるんですね。素材はもちろん革、ですが、最近では合成繊維などで作られた物も使われているようです。
かかとに芯材を入れて、硬化する<アクアセメント>を塗って釣り込んでいきます。ここで意識をするのはアッパーと底の境目に「エッジを作ること」。エッジを出す(アッパーと底の境目をつけること)、とも言いますが、このエッジをきれいに出せるか否かで美しさが違ってきます(エッジが必要な理由は後ほど)。
これが芯材。ちょっと厚めなので薄くして、水に浸しておきます。奥の缶は「アクアセメント」。若干の水を加えて接着剤のようにして使います。乾くとカッチカチに!
かかとに芯材を入れて、アクアセメントを塗ります。アクアセメントを塗ったら作業は素早く!
革ってビックリするほど良く伸びるんですね。引っ張りながら切れちゃったらどうしよう…なんて思うんですが、師匠にはもっとグーッと引っ張らないと!と毎度言われていました。一見どうにもならないようなシワやたるみも、師匠が引っ張るだけでウソのように消えてしまっていました。
型紙がダメなときももちろんありますが、木型から起こした型紙の場合、シワやたるみは引っ張りが甘いことが原因のことがほとんどです。なんで、シワやたるみが消えないときは、引っ張る方向や強さを変えて調整していきます。顔の話だったらいいんですけどねぇ…、残念ながら靴の革の話です。
さて。いよいよ形を固定する芯材をかかとから入れていきます。薄くしたのは表面が凸凹しないようにするため。表革とライニングの間に入れるので、端の方は特に薄くして段差が出ないようにします(薄くても乾くとしっかり固まります)。
そしてアクアセメントの量は多すぎると表革に染み出してしまうので要注意。シミができやすい革に限ってやっちまう、これあるあるです。かといって少なすぎるとしっかり固まらないのでそれもダメ。結局、良い塩梅に、としか言えないんです。経験を積まないと、ですね。修行あるのみです…。
まずはライニングだけを引っ張ってシワがないのを確認してから表革を引っ張ってタックスで留めます。さらに底とアッパーの堺目にエッジができるようにワニの四角い部分で叩きます。
つま先にも芯材を入れて釣り込みます
土踏まずあたりまで釣り込みができてきたら、つま先の芯材の用意をします。
つま先の釣り込みは難しいので、緊張感がちょっと高まります。かかと同様、ライニングから引っ張っていきます。そして忘れてはいけないのはつま先のブローグの抜け穴のフォロー。表革を薄く漉いたものを用意しておきます。
ライニングもしっかり引っ張ります。ブローグが抜ける部分には表革と同じ革を薄く漉いてはさみます。写真は革をあてる位置を確認しているところ。実際は芯材の上に入れます。
次にライニングにアクアセメントを塗って、芯材を入れて、その上にまたアクアセメントを塗ります。表革をかぶせて釣り込んだら終了です!シワ、たるみなし!つま先もなかなかツルリとした感じにできました。裏から見るとこんな感じ。つま先とかかとはひだの数が多いのでタックスも多めです。この後、中底の溝あたりまで、余計な部分をカットしてしまいます。
ライニングにアクアセメントを塗って、芯材を入れて、その上にアクアセメントを塗ります。つま先の丸みに沿うように、ブラシで撫でつけるようにします。
釣り込み終了です!つま先はシワを作らずにきれいに丸みを出すようにするのが難しい……。ギューッと引っ張って、ひだを寄せながらタックスでとめていきます。
◆エッジを出す理由とは◆
エッジを出さなければいけない理由(アッパーと底の境目をつける理由)は、次の工程の「ウェルトを付ける」作業に関わってくるからです。エッジを出したところにウェルトをあてて縫い合わせていきますが、靴底とウェルトにできるだけすき間が出ないようにすることが大切なのです。
この靴は「ハンドソーン・ウェルテッド製法」で作っています。中底の溝から針を通し、ライニング、表革、ウェルト(ヒモ革、細革ともいいます)を縫い合わせます。そしてウェルトだけをソール(本底)と縫い合わせていくのです。ウェルトというパーツをつけるので<ウェルテッド製法>。この製法はアッパーと中底はそのままにオールソール交換ができるのが特徴です。“一生ものの靴”と言われるゆえんです。ちなみにウェルトを縫い合わせる作業を機械で行っているのが「グッドイヤー・ウェルテッド(ウェルト)製法。高級靴に用いられる耐久性に優れた製法です。
終わりに
俄然、靴っぽくなってきました!ピタッとつり込めてまずはひと安心。実はつり込み用の機械というものも存在していまして、あっという間につり込めると現実もあります。ですが、手でつり込む方がその時使っている革に合わせた微調整がしやすいと言えるかと思います。ここまでの工程は製品になってからでも目に見えるところですが、次回の工程は、手製靴とそうではない靴の<目に見えない違い>が出てくるところです。本底を付ける前の、中物を入れる、というひと手間(いや、二手間か)掛かる作業を行います。