見るべきはケースコンディション?ケアーズで初めてのアンティーク時計を選ぶ

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取材・文/佐々木健人

初めてのアンティーク時計選び。デザインだけで選んでいいの?コンディションはどう判断すればいい?実用品として末長く使えるアンティーク時計を選ぶコツを「CARESE」の石川さんに聞きました!

アンティーク時計は敷居が高い?

こんにちは。編集部の佐々木です。


大学を卒業し、働き始めて3年が経ちました。職場で一人前の仕事人としての働きが求められるようになったことに伴い、プライベートでも一大人としてジャケットを着る機会が増えてきました。

ここは装いに合わせて、相性の良い時計を身に付けたい。せっかくなら、古いモノが好きなのでアンティークの時計で選びたい。(編集部注:礼服を着用するような場では、腕時計ははめないほうが望ましい。礼装を着用する場は「時間を気にする」のが失礼に値するため)


そう思うものの、時計選びって難しくないですか?時計雑誌を眺めてみると、キャリバー、ETA、ガンギ車など機械式時計ならでは専門用語が並んでいます。同じモデルでも、ムーブメントが異なることもあるみたいです。


デザインはシンプルな3針が好みなのですが、予算と見た目だけで選んでいいのでしょうか。ムーブメントの状態もやはり重要?

エントリーモデルでも10万円代〜20万円代がボリュームゾーンのアンティーク時計。決して安くない買い物です。末長く使える1本を選びたいところ。

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そんな思いを持ち、相談に訪れた先は老舗アンティーク時計店「CARESE(ケアーズ)」で働く石川智一さん。


石川さんはアンティークウォッチ業界に携わり10年以上。ショップスタッフとして店頭に立つ傍ら、バイヤー、企画担当としてオールラウンドに活躍されています。


今回、石川さんに初めてのアンティーク時計を選ぶ時に見るべきポイントなど、実用品として末長く使える時計を選ぶコツを伺いました。


(※取材をおこなった2018年2月26日時点で石川さんは森下本店に在籍されていましたが、2018年4月1日より東京ミッドタウン店にて勤務しています)

アンティーク時計はそもそも使い分けるモノ

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今日はよろしくお願いします!以前ケアーズを取材した時に100万円を軽く超える時計がたくさん出てきたので、予算的に購入できるモデルがあるのかそもそも心配です。
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よろしくお願いします。もちろん10万円代〜20万円代の時計も多く取り扱っていますよ。
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それは安心しました…!!本題に入ると、アンティーク時計を選ぶ時に見るべきポイントを知りたいと思ってお話を聞きに伺いました。
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そうですよね。初めてアンティークの時計を購入しようと考えている方のほとんどに心配事があります。
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心配事、あります。一般的に古い時計って新品と比べると年数を経ているぶん、故障しやすかったり精度が出にくいのではと気になっています。
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機械の時計で重要なことは、壊れる壊れないではなくてメンテナンスしやすいか否かだと思うんです。古い新しいに関わらず、機械で出来ているので、壊れずに動き続けるということはありえないですよね。古い時計はシンプルな機構で作られてますから、メンテナンスしやすい時計ですということは言えます。
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確かに…!!仮に不具合が出てもメンテナンスして動くなら問題ないですね。精度という部分ではいかがでしょうか?
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ケアーズでは進みでだいたい40秒以内におさめているんですけれども、普段使いであればほとんど生活に支障は出ないのではないでしょうか。作られた当時は最新の技術が使われていたことをわかっていただければ、歩み寄れるのではないかと思います。

他によく心配事にあがるのは防水性ですね。防水に関してはスナップバックとスナップ防水、スクリューバックの大きく3つに分けられます。
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防水と非防水の2種類ではないんですね。
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スナップバックというのは非防水です。スナップ防水というのは同じ構造なんですけれどもパッキンが入ります。スクリューはねじ込み式でパッキンが入るので、一番防水性が高いんです。

ただ、アンティークの時計は構造上の防水があったとしても全て非防水と思ってください。
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防水と書かれていても気をつけた方がいいんですね。「防水だから大丈夫だろう」と雨の日に身につける前に聞けてよかったです。
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普段使いしたいというお客様もいらっしゃいますが、真夏の室外だったり、スポーツだったりには向きませんので、お客様にははっきりそう申し上げてます。

スニーカーとドレスシューズも、服装やどこに行くかによって履きわけるじゃないですか。1足で賄えないのと同じで使い分けていただくと。しっかりと使い分ければ長く愛用し続けられます。

そういうところを踏まえた上では、あとはもうデザインなんですよね。40年代の特徴、50年代の特徴。メーカーの特徴はもちろんあるんですが、時代ごとの特徴を見た方がお好みのデザインを幅広く選びやすいです。
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作りの話で言えば、ムーブメントを自社製造しているメーカーと、他社から購入しているメーカーがありますよね。マニュファクチュールの方が技術的には上なのでしょうか?
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ムーブメントも外装も全て自分たちで手がけているメーカーを「マニュファクチュール」と言いますけど、マニュファクチュールの方が全て良いと言われると。うーん。
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判断の一つという感じ。
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そうですね。メーカーのこだわりを楽しみたい人向けというか。お蕎麦やさんでも自家製麺とか手打ちとか言いますけど、それが全部美味しいわけではないじゃないですか。ちゃんとした製麺所で打ってもらった方が美味しいものってあると思うんですよね。
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おお、すごくわかりやすいです。
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なんでもかんでも自分たちでやっていることがいいことだとは思いません。ただ、自社一貫でやることの魅力は、クオリティ全てに対し目が行き届いていることではないでしょうか。

逆に外注に出すというのはやはりコストを抑えている理由の一つですから、自社生産のムーブメントにはメーカーのこだわりが色濃く出ています。

30年代40年代はアール・デコ。50年代60年代はミッドセンチュリー。腕時計のデザインの変遷

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腕時計のデザインの変遷に話を戻すと、年代ごとにブランド問わず共通する特徴があるということでしょうか。
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時代ごとに特徴があります。ケアーズがアンティークと定義しているのはだいたい1970年代前後の時計まで。クオーツショックが始まる以前のものを指しているんですね。
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はい。
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実用のアンティークとして私たちは提案していますので、商品のほとんどは30年代から70年代前半の時計です。

30年代には30年代の流行りがあって、文字盤のインデックスと針のデザインの組み合わせも決まっています。その時代にしかないケース材もあります。

40年代、50年代、60年代、70年代とデザインの変遷がありますので、もし仮に1950年代の時計屋さんに行けば、ほとんど同じ顔をしているはずです。
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時代をうつしているんですね。面白いなあ。
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そうですね。30年代40年代前半はアール・デコ調やクラシックなデザインが多いです。50年代から60年代まではミッドセンチュリーと言われていますけれども、モダンで華やかなモデルが多いと思います。70年代は機能と視認性に優れたデザインに画一化されていく時代なんです。

個人的には30年代から60年代ぐらいまでに醍醐味があると思いますね。
1930年代 ジャガー・ルクルト(レベルソ)

1930年代 ジャガー・ルクルト(レベルソ)

1940年代 IWC(ラウンドモデル)

1940年代 IWC(ラウンドモデル)

写真提供:ケアーズ

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30年代は、円と直線のみで構成されたデザインです。40年代はアラビア数字を使用したモデルが多いんですよ。シンプルで洗練されたインデックスから、40年代になるとだんだん数字に移行していきます。

50年代に入ると、今度はアラビア数字のデザインがだんだんくさびに変わっていきます。50年代後半はどうかと言うと、全部がくさびになるんですね。60年代になると今度はくさびがバーになるんですよ。加えて秒針がまっすぐになると、完全に70年代になります。
1950年代 ロレックス(オイスターパーペチュアル)

1950年代 ロレックス(オイスターパーペチュアル)

1960年代 オメガ(コンステレーション)

1960年代 オメガ(コンステレーション)

写真提供:ケアーズ

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年代ごとにデザインが変わっているのは初めて知りました…!!ブランドごとに特徴があるのかと思っていました。
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年代でとても変化しています。変化しているということは、変遷があります。

例えば40年代後半と50年代前半。1949年に何かが終わって1950年にガラッと新しいことが始まるわけではないですから。文字盤は40年代の後半、針は50年代前半という時計もあります。

まず見るべきはコンディション

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石川さんはもともとアンティーク時計が好きでケアーズに入られたんですか?
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実は、アンティーク時計に興味を持ったのは入社してからなんですよ。
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そうなんですか!
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接客業に興味があったとか?
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もともとファッションやビンテージは好きでしたけどね。でも、23,24の若者がビンテージに興味があると言ってもなかなか買えるものではありません。

そもそもの入社動機は英語を仕事で使いたくて。「アンティーク時計店は買い付けなどで海外に行きやすいのかな」と。

アンティークウォッチに興味を持ったことがはっきりしたのは、ロレックスの時計を好きになってからですね。ロレックスの歴史は、時計の防水性能の歴史だと言っても過言ではないんです。マイルストーンというか。いまだに解明されていないような細かい仕様の変更がたっくさんあるんですね。
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おお…!!心なしか石川さんの顔がうれしそうに見えます。
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本当にたくさんあるんですよ(笑)。仕入れた時計はそれを1個1個確認しているんですね。
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石川さんご自身がですか?
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はい。例えば50年代のオイスターケースのバリエーションとか、文字盤の仕様とか。特別なデザインが入っていたりとか、入っていなかったりとか。ロレックスはヨーロッパだったりアメリカだったり、中南米だったり、色々な国で販売されていますので、そのお国柄が反映されているんです。

あと、オイスターケースが好きなんです。特にポリッシュが少ないケース。オイスターケースは磨くこと前提で作られたケースなんですね。メーカーにメンテナンスを出すと細くなっていくんですよ。アンティークとして見た場合それはマイナスなんです。
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削ることによって見た目が変わるからでしょうか。
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はい。アンティークの場合、お店で販売されたりオーナーが変わるごとに磨かれてしまうことが多くあります。でも、まったくポリッシュされていない時計は本当にずっと触っていられるほど美しいと思いますね。本当に。
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うっとりするようにお話されますね。
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本当にいいですよ!ノンポリッシュという言い方をするんですけど、全然磨いていないケースはもう奇跡のような感覚で見ています。

時計の形というのはケースの形なんですね。当たり前ですけど、研磨していけば減っていくじゃないですか。するとなんとなく貧相に見えたり、安っぽく見えたりします。逆にケースがピシッとしていれば、文字盤が経年変化していたとしても味のある文字盤に見えてくるものなんです。
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ムーブメントのコンディションは大事ってよく聞きますけど、ケースもポイントだとは知りませんでした。
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文字盤やムーブメントのコンディションはもちろんですが、ケースのフォルムが保たれているかはぜひ気にしてほしいです。傷を落として研磨をするということは、衝撃が加わっているわけですからムーブメントにも影響が出ているかもしれません。錆びが発生して研磨しているのであれば、文字盤も痛んで変化しているかもしれません。

磨いていないぶん傷は付いているかもしれませんが、アンティークを購入するならある程度は折り込み済みなはずです。フォルムが保たれているかで選んだほうが満足度は高いと思います。

いま私が着けているIWCもほとんど磨いてないんですね。40年代に作られた時計で、文字盤は経年変化してブラックから緑色に変わってきてしまってますけど、個人的にはケースが研磨されていないからかっこよく見えるんだと思ってます。
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そこまで印象が変わるものなんですね。パッと見ると、研磨されているのかされていないのかわからないのですが、ケースコンディションはあまり知識が無い人が見てわかるものなのでしょうか?
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難しいと思います。どこを見れば良いのか。最初はお店の人に聞いてほしいです。

初めてアンティーク時計を購入しようとお店にいらっしゃる方の中には、良くも悪くも控えめな方もいらっしゃいます。例えば革靴を初めて買うときに、定番のストレートチップから買う人が多いように、「まずはロレックスの定番モデルから買おう」と考えるお客様は多いです。

でも、誰かに決められたものとか、妥協したものってなんとなくしまい込んだりしてしまいがちです。愛用できないのはもったいないじゃないですか。

アンティークの時計は実用品ですから、定番モデルだとか気にせず「自分の気に入ったモデルを選ぼう」という気持ちで来ていただけると、私たちもお客様に合ったモデルをご提案できると思います。
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確かに定番品というか、無難なモデルを選ぼうとしていたかも。実物を見ながらわからないことを聞いて理解を深めていくのは、店舗じゃないとできないことですね。
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インターネットでは自分が知っているキーワードでしか調べられないと思うんです。よほど知識があれば別ですが、そこまで見られるモデルも多くないのではないでしょうか。

ケアーズではコンディションの良いもののみを扱っているので、目当てのモデルがなかったとしても好みの時計がきっと見つかるはずです。お店で実物を目の当たりにしながら比べた方が、仮にエントリーモデルを選ぶにしても特別なものになりますよ。
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いかがでしたでしょうか。個人的にはケースコンディションを気にしようと考えたことが無かったので、新しい発見でした。お話を聞く前はなんとなく「IWCがいいな」と思っていたのですが、1930年代のアール・デコの時計も素敵でした。うーん、しばらくお店に足を運ぶ日々が続きそうです。

ーおわりー

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ケアーズ森下本店

アンティークウォッチの修理専門の会社として平成元年に創業。

アンティークウォッチを販売するにあたり、リペアとアフターケアは必要不可欠なものであると考え、ショップオープンの前にまずは修理がしっかりできる体制を整えようと修理専門でスタートした。ショップ名 “ケアーズ” の “ケア” はアフターケアからとっている。

現在もそのコンセプトは変わらず、1階がメンズのアンティークウォッチ専門店、2階が修理受付、3階が修理工房というスタイルで営業しており、30代の若い職人からベテラン職人までの幅広い技術力を集結し日々数多くの時計を修理している。ちょっとした修理ならその場で対応し、すぐに持ち帰れるサービスはケアーズならでは。

販売している時計は欧米を中心に自社で直接海外買付けを行い、1930年代から1960年代までを中心に幅広いブランドを取り揃えている。また、時計は全てメンテナンスし、1年保証を付けているので安心して購入できる。

森下本店以外に東京ミッドタウンと表参道ヒルズにもショップがある。(表参道ヒルズ店はレディースウォッチのみ)

時計を一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

機械式時計のすべてがわかる、時計ファン必見の1冊

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機械式時計大全: この1冊を読めば機械式時計の歴史や構造がわかる

歴史や種類、内部構造、精度やメカニズムなどを詳細に解説するのはもちろんのこと、各メーカーのつくり手としての思想やこだわりなども伝える機械式時計の決定版。世界的に有名なブランドや機械式時計の名機、ヴィンテージウォッチ、ミリタリーウォッチなどを紹介するともに、選び方や買い方、メンテナンスのポイントなども詳しく紹介。手巻式腕時計の基本構造やゼンマイの構造などメカニズムの解説から、ド・ヴィックの時計や振り子時計の発明譚、日本の機械式時計発達史など歴史的側面も網羅するなど機械式時計の魅力を多角的に追求しました。

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腕時計一生もの (光文社新書)

今、単に必要にせまられて時計を買うことはほとんどなくなっています。町の至る所に時計は見つけられますし、携帯電話やPHSで、現在時刻を知ることはできます。自覚的に「腕時計を買う」ことの意味が変わってきた今、本書は「ただ一本の腕時計」を選ぶためのプロセスを演繹していきます。本書で語る「デザイン」「機械」「機能」「性能」「歴史」「素材」「イメージ」「ブランド」といった腕時計の要素は、みなさんの時計選びにおいて「これだけは譲れない!」というポイントを含んでいるでしょう。

公開日:2018年4月14日

更新日:2021年7月2日

Contributor Profile

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佐々木 健人

エディター、プランナー。1993年東京都生まれ。時計メーカーを経てミューゼオに入社。オンラインジャーナル「ミューゼオスクエア」のディレクション、ECサイト「ミューゼオファクトリー」の製品開発などを担当。

終わりに

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石川さんは丁寧に言葉を選びながら説明してくださるので、とてもわかりやすかったです。ケアーズでは販売スタッフが買い付けも行うそう。買い付けは時計の良し悪しがわからないとできないと思うので、目利きの方が接客してくださるのは初心者には心強いですね。

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