鮮やかな色調の表紙に、ツインリングとネイビーのゴムバンド。ロルバーン ポケット付メモは、年齢もジェンダーも選ばず使えるデザインで2001年の発売以来安定した人気を誇っている。
まだ使ったことがない方でも、教室や会議室、あるいはカフェの隣のテーブルの上などで一度は目にしたことがあるのではないだろうか。
しかしこのリングメモが、日本で生まれ、国内の工場で手作業により作られていることは意外に知られていない。『ロルバーン』シリーズの企画・販売を手掛けるデルフォニックスのオフィスに伺い、開発時のエピソードやプロダクトの魅力を広報の田中さんに訊いた。
サイズはM(横111×縦138×厚み15㎜、120P、¥350+税)とL(横143×縦182×厚み15㎜、140P、430円+税)の2種類からスタートし、現在はミニやスリムサイズ、タテ型のメモも発売されている。中のページはすべて共通で、クリーム色の用紙に5㎜方眼、ミシン目、透明ポケットが5枚ついている。(写真:デルフォニックス)
スイス・グラフィックとユーザー目線から生まれた新しい定番
ーー はじめに打ち明けますと、このプロダクトが日本のブランドだとは知りませんでした。
田中:日本のものと知らずに使ってくださっている方は多いようですね(笑)。
ーー 1ユーザーとして、今日は勉強させていただきます。はじめにブランド名についてお聞きします。「ロルバーン」とは、滑走路のことだそうですね。
田中:はい、“Rollbahn”はドイツ語で「滑走路」を意味します。旅先にでもどこにでも気軽にもっていってほしい。色々な場所でこのメモを開き、書きこんでほしい。その思いが込められています。
ーー ドイツ語の理由も伺えますか?
田中:弊社の代表 佐藤はヨーロッパのデザインが好きで、タイポグラフィやエディトリアルなどのグラフィックデザインにおいてスイス・グラフィックに少なからず影響を受けていました。そのスイスの公用語がドイツ語であることが理由です。
お話を伺った、デルフォニックス広報の田中さん
ーー スイス・グラフィックとは、どのようなデザインをイメージすればよいでしょうか?
田中:50年代や60年代のスイスのポスターに象徴されるデザインです。代表的なデザイナーとしては、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(Swiss, 1914–1996)。「グリッド・システム」の概念を提唱したスイスのグラフィック・デザイナーです。
グリッド(格子状の線)を意識したレイアウト、文字組みをしたようなデザインやタイポグラフィ、フォントではヘルベチカという書体が好んで使われていたのも特徴です。
佐藤は1987年に事業をはじめ、1988年にデルフォニックスを創業しました。80年代後半から90年代前半は、日本のサブカルチャーはヨーロッパに意識を向けるようになった時期なんです。たとえばヨーロッパ系の映画が流行ったりもしました。
ーー 『ベルリン・天使の詩』(1987年ドイツ)や『ポンヌフの恋人』(1991年フランス)の頃ですね。参考までに、デルフォニックスさんが創業された頃、一般的なステーショナリーはどのようなデザインが主流だったのでしょうか?
田中:たとえば手帳ならば黒やエンジのカバーですね。そうでなければファンシーなキャラクターもの。中間の選択肢がなかったんです。
ーー たしかに大人の手帳と言えば黒やエンジでした。
田中:アメリカ文化からヨーロッパ文化へ関心が移っていく流れの中、ステーショナリーに関して早い段階でヨーロッパデザインを取り込んでいったのが弊社だったのかなと思います。 ロルバーン ポケット付メモは2001年発売ですが、 グリッドを意識したレイアウトは1988年発売の弊社最初の商品である手帳の開発時からずっと変わらない部分です。
ーー グリッドを意識したデザインは創業当時からなのですね。
田中:表紙のサイズに合わせて、どの位置に、どのサイズでロゴをレイアウトするかには相当なこだわりがあります。1人1台パソコンを使えるという時代ではありませんでしたから、コピー機で倍率をかえたロゴを何枚も作り、切り貼りして検討を重ねたそうです。
ーー ユニセックスなデザインとカラーリングは印象的でしたが、その裏には緻密な計算があったのですね。
見た目だけではない、「中身が好き」と言われる理由
ーー ユーザーの方からはどんな声がありますか?
田中:長くご愛用くださっている方からは、「デザインだけでなく中身が好き」と言われます。メモ用紙の部分ですね。万年筆でも裏うつりしない。クリーム色とグレーの5㎜方眼が目に優しい。
ーー 先ほど「旅先にもどこにでも、気軽にもっていってほしい」と伺いました。持ち歩くという点について、どういった工夫があるのでしょうか?
田中:たとえば「ミニ」は、ちょうど片手に収まるサイズです。表紙も裏表紙も硬いので、立ってメモをとるのに向いていますね。
またメモの角が丸いところも初めからこだわった点です。私自身、鞄にぽんぽん放り込む方なのですが、角がないから引っかからず、ゴムでまとめられるから中でバラけないところも気に入っています。あとは、どのサイズにもミシン目があり、メモとして使えるところも。
ーー ミシン目は、すべてのサイズにあるのですか?
田中:あります。
ーー これ(編集部私物)にも?
田中:あります、あります。
ーー え!(試してみる)あ、本当ですね。ミシン目が細かくて、今まで気がつきませんでした。切れました!
田中:切り取ったそのメモは、後ろのポケットにちょうど収まるサイズなんです。ぜひ活用してください。
発売から16年。変わったことと変わらないこと
ーー ロルバーンポケット付メモの発売から16年。初期のメモと現在のもので、ロルバーンが進化した点を教えてください。
田中:カラーや表紙材のバリエーションが増えたことと、ロゴの下の文字は変わりましたが、基本は同じです。こちらが当時のロルバーンです。
ーー 見た目は同じですね。実際に触っても……、あ、田中さん。背表紙は少し違う気がします。
田中:え?そうですか? あ。並べて触りくらべると違いますね。
ーー 現在の方が、しっとりと滑らかな質感です。
フレッシュなフルーツ柄をステーショナリーにデザインした春の新作を詰めあわせた数量限定のボックスセット。定番カラーに加え、シーズンごとに新作のカラーが出ているのもファンが多い理由の一つ
ーー 工場も日本にあるのですね。
田中:日本製にこだわり、なおかつ、人の手で作るところにこだわっているんです。開発当初からの大きな違いとしては、やはり色ですね。表紙のカラーバリエーションは増えました。すべて、オリジナルで調色したインクをつかっています。
ーー これは、完全に手作業ですね。
田中:ミシン目を入れるところや、リングを通すところも手作業です。それから検品作業も人の手と目でしっかり行っています。
ーー ロルバーン作りに関わる方々の知恵と技術が活かされているんですね。発売から16年をすぎてもファンが増えつづけている理由がわかった気がします。
田中:そういっていただけてありがたいです。定番になるために大切にしていることは、まず使いやすいものであること。それから、飽きないデザインであること。
「飽きない」といっても、シンプル過ぎては退屈で反対の意味で飽きられてしまいますよね。ポケット付メモは基本のカラーに加えシーズンもののデザインもあります。年齢もジェンダーも関係なく、ピンとくるものを一度手にとってみていただきたいです。
ーおわりー
Rollbahn
ドイツ語で“滑走路”の意味を持つロルバーン。
「シンプルで飽きのこないデザイン」と「使いやすさ」が一体となったポケット付きメモ張が代表的である。
日本の工場で製造された後、最終工程は一冊ずつ手作業で組み立て、濃く鮮やかな色味が特長の表紙は、色ムラなく均一に仕上げるためにロルバーンのオリジナルカラーインクが用意されている。
使いやすさに納得するこだわりを実感してみては?
「今でも見返すことが多い」という、田中さんがデルフォニックスに入社した時に使っていたメモ。入社時のオリエンテーションで聞いた佐藤社長の言葉や、商品の基本情報などがメモされているそう。
「表紙や裏表紙が丈夫なところと、一冊使い終わった後は、次にどのデザインにしようかと考える楽しみがあるところも気に入っています。後ろのポケットはショップカードやノベルティ、ちょっとしたメモなど、なんでも気軽に入れておくストック袋としても使っています」
使い込まれたこちらのメモは、取材に同席されたスタッフの方が使っていたというもの。裏表紙に貼られたステッカーや表紙の傷も味になっていた。このカラーはすでに廃盤。
「ゴムでまとめることができるので、何でもこのロルバーンにはさんでいました。A4の書類は半分に折って、後ろの透明ポケットには映画のフライヤーを入れて。おかげで、結構な厚さになっていました(笑)」
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もちろん、ためになっておもしろい、小日向流の文具の使い方も盛りだくさん。
惚れぼれとした気持ちになる文具と出会い、使うことの意義と幸せを、しみじみ感じることのできる一冊です。
終わりに
「Rollbahn」の表紙に書かれたドイツ語を、翻訳機にかけてみました。すぐにでも旅に出たくなる言葉でした。さしあたり行きたい都市を、愛用のロルバーンにリストアップしてみようと思います。