第六回 ムーミン谷で共生する、個性豊かな仲間たち

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文/萩原まみ
写真/柳沼康史

 ムーミングッズに秘められた物語についてお伝えしてきた連載もいよいよ最終回。今回はこれまで紹介しきれなかった個性豊かな脇役たちにスポットを当ててみたい。私がムーミン物語に惹かれる理由のひとつは、多種多様なキャラクターたちがムーミン谷で共に暮らしている、というところ。ムーミン谷はけっして夢のような理想郷ではなく、そこに住むものたちはときにぶつかり、すれ違ったりしながらも、お互いを尊重し、程よい距離感を保っている。

マニア心をくすぐるレアすぎるキャラクターグッズの数々

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 ずらりと並べたのは、フィンランドで売られているアドベントカレンダーのフィギュア。12月、クリスマスを待ちながら日付の書かれたボックスを毎日ひとつ開けるとフィギュアが出てくるという商品で、ここ数年、毎年楽しみにしている。買い続けているとメインのキャラクターはダブるのだが、去年だと『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』で活躍した人物、2015年版にはコミックス『ジャングルになったムーミン谷』(筑摩書房『ムーミン、海へいく』収録)の動物たちが加わるなど、テーマが変わっていくのもおもしろい。
 ムーミンにはこんなにいろんなキャラがいたのか!?と驚かれた方も多いのではないだろうか。原作小説に登場するニンニ、コミックスとアニメにしか登場しないスティンキーや火星人など、本来は同じ物語で出会うことのない者も入り交じっているが、個性豊かなキャラクターがたくさんいるのだ。

 評伝や数々の資料によれば、ムーミンシリーズの登場人物の多くは原作者トーベ・ヤンソンが周囲の人々を架空のキャラクターという形で描いたものだという。
 ムーミントロールの姿も、弟と口喧嘩をしたトーベが腹立ちまぎれに弟の姿を醜く描いた落書きが原型だそうだ。
 モデルがはっきりしているのは、理想の母親像を体現しているかのようなムーミンママで、トーベの最愛の母シグネが投影されている。
 ムーミンパパのベースは彫刻家だった父親のヴィクトルだが、親戚のおじさんたちの要素もプラスされているらしい。
 スナフキンは哲学者で詩人、政治家でもあったトーベの恋人アトス・ヴィルタネンらがモデル。
 トゥーティッキ(おしゃまさん)は名前からもわかるとおり、トーベが生涯を共にしたパートナーのトゥーリッキ・ピエティラがモデルで、写真を見ると姿もそっくりだ。
 物語を純粋に楽しむにはモデルのことなどは不要な情報かもしれないが、子ども向けのファンタジーと思われがちな物語の奥には、生身の人間同士の関わり合いや著者自身の葛藤、反戦の思いなどが投影されている。それをそのままストレートに描くのではなく、ユニークな造形のキャラクターたちに託すことによって、読者の想像する余地が広がり、共感を呼ぶ作品となっているのだ。より深く背景を知りたい人には、作者評伝『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』(講談社)の一読をおすすめしたい。

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さまざまなムーミン谷の仲間たちが登場するアラビアマグのなかから、貴重なものを3点選んでみた。真ん中の「Tove's Jubilee」(2014)はトーベ生誕100周年を記念して、1年間限定で作られたもの。6個に1個しかプリントされていないめがね入りは特にレア。左は1999〜2000年に作られた「Milennium」。右は毎年冬季限定で作られているウィンターマグの「Snow Lantern」(2007)。名場面の反対側には名もなき小さなキャラの姿が。

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ムーミンを愛するプランナーがコアなムーミンファンのためにマニアックな商品ばかりを繰り出してくるPEIKKO(株式会社ドリーム・ぽけっと)のオリジナルアイテム。ファンに人気の高い「うま」をモチーフに、スワロフスキーを散りばめたブローチ&バッグチャームは3色のなかで悩んだ末にゴールドを購入。革のブレスレット、クリアウッドブローチ、パールキャッチピアスも同じブランドのもの。ヘアゴムはユニクロのリラコの布を使って友人が作ってくれた。

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フィンランドのテキスタイルメーカーといえばマリメッコが有名だが、老舗メーカー、フィンレイソンの商品も日本に進出しつつある。これはフィンレイソンの古い商品で、フィンランドのフリマや海外オークション、友人からのプレゼントで入手。ミーサやピンプル(インク)など、脇キャラも多数登場。主に子ども部屋のカーテンや布団カバーとして使われていたもので、くったりとした風合いがいい味を出している。

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ムーミンシリーズに登場するコレクターといえばヘムレンさん。ヘムレンとは「そのヘムル」という意味で、種族名はヘムル。アニメではおじいちゃんキャラで、虫眼鏡を手に植物や昆虫、切手などのコレクションを吟味している姿でおなじみ。署長さんや公園番もヘムル族で、ヘムルのなかにもいろいろなタイプが。SNSでは大量のヘムレンさんフィギュアを並べた写真の投稿が注目を集めている!?

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ムーミンに出てくるキャラクターについてもっと知りたいなら、まずは原作の短編集『ムーミン谷の仲間たち』をどうぞ。個人的にムーミン童話のなかでいちばん好きな1冊で、架空のキャラクターの姿を借りて描いてはいるものの、複雑な人間関係や心理を描いた大人向けの作品だ。さらに『ムーミン キャラクター図鑑』(講談社)は小説とコミックスに出てくるキャラクターを105項目で解説。ムーミン童話を読んだことがない人でも楽しめる。

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最近は人気キャラだけでなく、マイナーな脇役たちのぬいぐるみも作られている。メーカーはモンチッチで有名なセキグチで、表情はもちろん、触り心地、ポーズなど、とてもクオリティが高い。右からモラン、ご先祖さま(販売終了)、劇場版でも活躍したコミックスの狂言回し的キャラのソフス(シャドー)、ギフトボックスに座っているのはムーミンマーケットという物販イベントでしか買えないソフス(ホワイトシャドー)、トゥーティッキ、ミムラねえさん、フィリフヨンカ、スニフ。

トイ・フィギュアを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

プレゼントに、コレクションに最適なオリジナルBOXセット

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ムーミン全集[新版]全9巻BOXセット

大人気キャラクター・ムーミンの原典であるムーミンの小説の翻訳が、約50年ぶりに改訂されました。今までの文章を活かしつつ、[新版]として1巻ずつていねいに、間をあけながら刊行して参りましたが、このたびその完結と、トーベ・ヤンソン最初のムーミン小説『小さなトロールと大きな洪水』の出版から75周年を迎えたことを記念して、新版全9巻のBOXセットを発売致します。

童話・絵本・コミックスに登場する全キャラクターを、さまざまな登場シーンを盛り込みながら105項目で徹底紹介

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ムーミンキャラクター図鑑

ムーミンの童話9冊・絵本3冊・コミックス42冊(未邦訳分を含む)など、すべてのお話から105項目(人数だと105プラスアルファ)のキャラクターを紹介する「登場人物図鑑」です。童話に限定したキャラクター紹介はこれまでもありましたが、ジャンルを横断しての編纂ものは、本書が世界初の企画です。
おなじみの名場面を引用したり、作品を横断する出来事にも注目しつつ、それぞれの人物像に迫ります。
また、「あなたのまわりのスナフキン」「スナフキンになるには?」など、実生活にそのキャラクターがいたら…という洞察もユニークです。

<担当編集者から>
ムーミン谷の個性あふれる登場人物(105人プラスアルファ)がこの1冊に!
コミックスを拾い読みするも良し、童話の名シーンを読み込むも良し、フキダシに記された名言を噛みしめるも良し、カラー挿絵や美しい線画にうっとりするも良し、どのページからでもどうぞ!
ムーミン一家の基本から、人気者スナフキンの知られざるエピソード、忘れがたいひと言を呟く一度限りの通行人まで、さまざまなシーンから魅力あふれる登場人物たちが勢揃い。まだ原作の童話やコミックスを読んでいない人も、もう読んだ人も、たっぷり楽しめるビジュアル満載の図鑑です。

公開日:2015年10月16日

更新日:2021年12月6日

Contributor Profile

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萩原 まみ

フリーライター歴25年。イケメン俳優、北欧、ジェンダー、セクシュアリティなどが得意ジャンル。最近はムーミン愛好家としても活動しており、『ムーミンマグ物語』(講談社)の文章を担当。趣味は料理。

終わりに

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記事を書きながら、ヘムレンさんだけじゃなくてスニフも並べてあげればよかった!とか、フィンランドで特に人気の高いスティンキーにスポットを当てられなかった!とか、後悔がちらほら。いじめられて姿が見えなくなってしまったニンニ、愛されるよりも愛したい(!?)さいごの竜、飛行おに、ホムサ、ヨクサル、エドワード……。印象的なキャラクターを挙げるときりがないし、ムーミンファンそれぞれにお気に入りの存在がいます。豊かでリアルなムーミンの世界の魅力が少しでも伝わって、ちょっと原作を読んでみようかな、と思っていただけたらとても幸せです。

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