第四回 自由を愛する身軽な旅人、スナフキン

第四回 自由を愛する身軽な旅人、スナフキン_image

文/萩原まみ
写真/柳沼康史

 ムーミンキャラクターのなかから今回ピックアップしてご紹介するのは、コレクターの対極ともいえる性質のスナフキン。物を所有することを嫌い、古ぼけたテントやズボンなど、身に馴染んだものを長く使い続ける。そんなスナフキンが大切にしている物はハーモニカと古ぼけた緑色の帽子ぐらいだ。

こう見えて、人間じゃなくて「ムムリク」族

 日本では「カッコイイ!」と高く支持されているスナフキン。キャラクターグッズでもミイに次ぐ人気で、主人公のムーミンを差し置いてミイとスナフキンしか作られていないアイテムもあるほどだ。

 昭和版アニメではパイプをくわえながらギターを弾き、ムーミンを導く渋めのお兄さんのような設定で、男性からの支持が非常に高かった。一方、平成版アニメではかわいらしさが増して永遠の少年といった風情になり、女性ファンが急増した。原作を読んでの私のイメージはその中間ぐらいの感じで、ムーミントロールの憧れの存在ではあるけれども、スナフキンが一方的にムーミンの上に立っているわけではなく、もう少し年の近い「友達」感覚なのではないかと思う。
 音楽が好きで、自分で作詞作曲もこなし、パーティではダンスの伴奏を買って出る。昭和版ではギターを愛用していたが、重くてかさばるギターはどう考えても旅向きではなく、原作ではハーモニカか縦笛、アコーディオンを奏でることが多い。

 ムーミン族がトロールなのに対して、スナフキンを人間だと思っている人もいるようだが、「ムムリク」という種族。ムムリク族のヨクサルとミムラ族のミムラ夫人の子どもなので、正確にはダブルだが、見た目も性格もお父さん似で、原作でも「ひとりのムムリク」と表現されている。
 原語の名前はスヌスムムリク、直訳すると「嗅ぎ煙草野郎」という意味らしい。

 ムーミン谷が深い雪に閉ざされる冬の間、ムーミンたちは冬眠するが、スナフキンは南に向けて旅に出て、春になるとムーミン谷に戻ってくる。夏の間も家を持たず、たまにムーミン屋敷に滞在することもあるけれど、たいていは川べりにテントを張ってひとり気ままに暮らしている。
 自由と孤独を愛し、基本的には穏やかな性格のスナフキンが許せないのはただひとつ。「〜するべからず」と強制、束縛することだ。気にいらない立て看板などを見かけると引っこ抜いてしまうなどの反抗的な行動をとることもある。
 おせっかいはするのもされるのも嫌いだが、小さいものに対しては思いやりがあり、面倒くさがりながらもときには子どもたちの面倒をみたり、ちいさな“はい虫”に名前を授けてやったりする。

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日本では人気者なのだが、本国フィンランドではなぜかそれほどモテていないスナフキン。アラビアのマグにも登場回数がとても少ない。左の「Snufkin」(2002~15)は長く定番として作られてきたが、今年に入って、右の緑色にリニューアル。真ん中の「Dark green(Moomintroll)」(1991~96)も名前のとおり、スナフキンではなくムーミンがメインのなのだが、ベースの緑色がスナフキンカラーだと日本では人気商品だった。

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3点ともアラビアの製品。左の八角形のウォールプレート(1990~93)は絵本『さびしがりやのクニット』柄で6枚のシリーズだが、2枚だけ所有。これは友人からのプレゼント。右上のミニプレート「Snufkin and little My」(1990~93年)も発売当時、友人が贈ってくれた宝物。右下のデコツリーは現在発売中。13枚のプレートを集めて壁に貼ると大きな絵になると仕組みで、総額を考えないようにしつつ、コンプリートをめざしている。

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平成版アニメ『楽しいムーミン一家』放送当時に販売されていた目覚まし時計(販売終了)。鳥のさえずりとともに、スナフキン役の人気声優、子安武人が甘い声で「おはよう、いい夢は見られたかい? もう起きたほうがいいよ」と優しく起こし、ニョロニョロの部分を押してアラームのスイッチを切ると「もう起こさないからね」または「おはよ、じぁあね」と囁いてくれる。他にムーミン、フローレンの目覚まし時計もあった。

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2013年から始まったユニクロとムーミンのコラボ。2014年の夏にはリラコ(女性用ステテコ)にムーミン柄が登場! ファンにはたまらない原画やヴィンテージ復刻柄が中心で、私もTシャツやリラコを大量に買い込んだが、2015年はミイがメインに起用され、スナフキンやムーミン柄は減ってしまったのが残念でならない。スナフキンのいる濃いめの色が履きやすくて特にお気に入り。いちばん上の紺色は大型店限定柄。

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ムーミントロールとスナフキンが初めて出会うエピソードが出てくる『ムーミン谷の彗星』。原作小説では2作目にあたり、ムーミンシリーズの評価をぐっと高めた名作だ。日本で作られた映画『楽しいムーミン一家 ムーミン谷の彗星』(DVD販売終了)は1992年公開。『劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション』(JVCケンウッド・ビクターエンタテインメントより発売中。写真左手前、奥は限定版に封入されていた特典のグラス)はポーランド製作のテレビシリーズを2010年に再編集した映画版。

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アニバーサリーイヤー限定ドール

ムーミン出版65周年を記念して、原作に忠実に作られた限定品のスナフキンドール。ぬいぐるみとは異なり、顔や手は硬めの素材でリアルに作られている。帽子は脱着できて、服を着せ替えることも可能。箱から出して飾っているため、詳細は不明だが、高額商品だった記憶がある。同じシリーズのリトルミイも所有。

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<トップ画像アイテム紹介>

トップ画像の左は海洋堂が原型を手がけた北陸製菓のムーミンズランチ、右は奇譚クラブのフィギュアマスコット。他に、ベネリックの原作フィギュアと指人形、千趣会マンスリークラブのフィギュアコレクション、ペッツ、キューブリック、フィンランドの菓子メーカーFazerのおまけ、ペットボトル飲料やガムのおまけ、おきあがりこぼし、フィンランドのぬいぐるみマスコット、バスボールに入っていたミニフィギュアなどなど。

トイ・フィギュアを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

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ムーミン全集[新版]全9巻BOXセット

大人気キャラクター・ムーミンの原典であるムーミンの小説の翻訳が、約50年ぶりに改訂されました。今までの文章を活かしつつ、[新版]として1巻ずつていねいに、間をあけながら刊行して参りましたが、このたびその完結と、トーベ・ヤンソン最初のムーミン小説『小さなトロールと大きな洪水』の出版から75周年を迎えたことを記念して、新版全9巻のBOXセットを発売致します。

スナフキンが教えてくれる、本当の自分らしい生き方

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ムーミン谷の名言シリーズ1 スナフキンのことば

1964年に翻訳出版されてから、ずっと愛され続けてきた「ムーミン」の物語。大人気のキャラクター「ムーミン」は、9巻の物語が原典となっており、今なお人を惹きつけてやみません。大きな魅力のひとつは、キャラクターたちが発する、真実を突く言葉にあります。スナフキンの名言を抜き出して、美しいヤンソンの絵と共に、ぎゅっとまとめた1冊です。

公開日:2015年10月2日

更新日:2021年12月6日

Contributor Profile

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萩原 まみ

フリーライター歴25年。イケメン俳優、北欧、ジェンダー、セクシュアリティなどが得意ジャンル。最近はムーミン愛好家としても活動しており、『ムーミンマグ物語』(講談社)の文章を担当。趣味は料理。

終わりに

萩原 まみ_image

クールでかっこいいスナフキン。日本ではモテモテですが、フィンランドにはびっくりするような変顔のグッズが売られていて、イメージの違いに驚かされます。個人的には『ムーミン谷の十一月』の、物分かりのよすぎないちょっとわがままなスナフキンが特に好き。小さな“はい虫”とスナフキンの交流を描いた『春のしらべ』(『ムーミン谷の仲間たち』収録)はとても人気の高いエピソードですが、ティーティ=ウーに共感するか、スナフキンに共感するかで、人は2つのタイプに分けられる気がします。……私はスナフキン。ファンの皆さま、生意気言ってすみません。こんなに物を持っている時点で、スナフキンとは似ても似つかないのですが(笑)。

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