アンティークを日常に。紅茶を味わいながら時代の交錯を楽しむ

アンティークを日常に。紅茶を味わいながら時代の交錯を楽しむ_image

文/成松 淳
写真/新澤 遥

実用性の高さだけを求めるのであれば、最新アイテムにすればいい。なのにあえて古かったり、手のかかったりするモノを選び、使い続ける理由とは何か。ミューゼオ・スクエア編集長の成松が、モノの持つ魅力や自分なりの楽しみ方をゆるりと綴ります。

職人の技と感性に触れる

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ロイヤルミルクティーに憧れた時期があった。小学校高学年くらいだったろうか。最初に作った料理と言えるほどのものではないが、台所でしばしば作っていた。ヨーロッパの小説が好きで『指輪物語』や『小公子』、『秘密の花園』などをよく読んでいたからその影響かもしれない。物語には必ずと言っていいほどお茶のシーンが登場するのだ。

大人になってさすがにロイヤルミルクティーへの憧れは薄れたが、紅茶は毎日欠かさずに飲んでいる。割合はだいたい牛乳90ml、紅茶130ml。ミルクをたっぷりと注いだ紅茶を飲まないと朝を迎えた気にならないものだから、旅先でさえ牛乳を買いにスーパーへ走る。ロンドンに着いて最初にやることは紅茶に合いそうなオーガニックミルクの調達だ。

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もっと紅茶を楽しむためにと、少しずつ道具を買いそろえてきた。アンティークショップで見つけた錫のティーポットは、銀製品ほどデリケートではないので日常使いしやすいところが気に入っている。店主が「1940年代のものだ」と言っていたような気はするが、詳細な年代は分からない。僕が好きなのはこの槌目の美しさだ。槌目とは専用のハンマーをたたいて一つひとつの模様を打ち出す手法のことで、たたく場所や力加減の変化でデザインが違ってくるため、さまざまな表情を作り出せる。

モノをコレクションしていくなかで、自分が職人の手仕事に惹かれることを知った。これらのティーカップの模様もよく見ると線が途切れていたり、斜めになったりしている。きっと職人たちがすべて手で描いているからだろう。Cauldon(コールドン)の前身であるBrown Westhead & Moore(ブラウン ウェストヘッド&ムーア)のティーセットを目にしたときは鮮やかな色使いに驚いた。150年も前に作られたティーカップにこれほどきれいなピンクを使ったものがあるとは知らなかったし、組み合わせにゴールドを持ってくる美意識の高さに感動したものだ。

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生活に芸術を、日常にアンティークを

これらのアンティークは、実は毎日使っているわけではない。日課のミルクティーはマグカップで飲んでいる。かといって、特別な日にだけ登場するわけではない。おいしいお菓子があるときや家でゆっくりと仕事をするときなんかに使っている。アーツ・アンド・クラフツ運動の先導者ウィリアム・モリスによる「生活に芸術を」という言葉のように、アンティークも日常の一部に取り入れることでちょっとだけ気分が上がったり、感性が磨かれたりするのではないかと思うわけだ。

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だからスコーンやパンケーキを食べるときは、アンティークのバターナイフを使ってみる。3本も必要ないが、ビクトリアンからエドーワーディアンにかけてデザインが一気に変わる様を眺めていると楽しいし、どれを使おうかと選ぶ時間が心に余裕をもたらしてくれる気がする。ローズウッドのティーキャディだってそうだ。200年前のものとは思えないほど木目が美しく、テーブルの上にあるだけでティータイムを贅沢な時間に変えてくれる。

イギリスの海軍をルーツに持つ家系からか、幼い頃よりヨーロッパの文化に触れる機会が多かった。海外の小説をよく読んでいたと言ったが、僕の好奇心は昔から「違い」を知ることにあったように思う。バターナイフを同じヴィクトリア時代のもので統一する人もいるけれど、僕は違う。細かいことを気にせずにいろんな時代のものを組み合わせて、違いを楽しむ。それをできるのが、アンティークの良さである。

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公開日:2022年5月27日

更新日:2022年7月25日

Contributor Profile

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成松 淳

当マガジン、ミューゼオ・スクエアの編集長。編集部きっての“モノ”好き。好きなモノを並べて眺めていると満たされた気分になる。「もう増やさない!」とコレクションの自粛を宣言したはずだったが、気づけばモノに囲まれた生活を送っている。

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