「私の制服はディレクターズスーツです。Smith Woollens(スミスウーレンズ)のトラベルスーティングコレクション『Finmeresco(フィンメレスコ)』のブラックでジャケットを仕立てました。『Finmeresco』の中でも、シワになりにくい4PLY生地を使っています。ベストはもちろんシルバーグレーです。主役はお客様なので、本当に黒子に徹するならばディレクターズスーツはありかなと。BESPOKEMANを立ち上げた時から変わらずこのスタイルです」
「トラウザーズはツータックのコールパンツ(ストライプのトラウザーズ)です。ブレイシーズ(サスペンダー)、インプリーツ仕様にしています。駆け出しのころ、仲の良い銀座のベテラン職人さんから『昔はコールパンツを履いて裁断をしていたんだよ』という話を聞いてから履くようになりました。仕立て屋が履くトラウザーズは汚れやすいのです。採寸の時に膝をついたり、縫製の時にミシンを踏んだり、裁断の時にテーブルに擦れたり。コールパンツは汚れが目立たない上に、ジャケットを羽織ればフォーマルな装いでお客様をお迎えすることができるので愛用しています」
「ロンドンのテーラー『Meyer & Mortimer』で働いていた時のことです。一緒に働いていた人たちはみんな、このような裁ちバサミで仕事をしていたんです。『それはどこで買えるの?』と聞いても『もう売っていないんだよ』『知人から譲ってもらった』と返事が返ってくることがほとんどでした。
ある日アンティークのマーケットに出かけた際、銀食器をメインに扱うお店で1本目の裁ちばさみ(奥)に出会ったんです。オーナーは1830年代のものではないかと言っていました。もし本当ならば約190年前のハサミということになります。即決で購入し、仕事で使えるようにロンドンの研ぎ屋に研いでもらいました。『もう一本でてきたら教えていただけますか』と店主に相談し、数ヶ月後に2本目を購入しました。本当は2本も裁ちばさみは必要ないんですけど、手前のハサミは生地を裁つために、奥のハサミは型紙を切るために使っています。1本目のハサミを持った時に『自分のお店を持つ時にはこのハサミと仕事をするんだ』と誓いました」
ーおわりー