なんとなく靴作りを始めてみた、いち素人です。この連載では、履ける靴を仕上げるまでをお伝えしています。手作りの靴はなぜ高いのかが少しわかっていただけるかと思います!今回はいよいよ「本底」を縫い付ける「出し縫い」という作業に入ります。
見せ場の工程(だと思っている)<出し縫い>作業
- 1.木型を選んでデザインを決める
- 2.型紙を作る
- 3.革を選んで裁断する
- 4.アッパーを作る(甲、側面、かかとを縫い合わせる
- 5.釣り込み(アッパーを木型に固定する
- 6.底付け ◀️今回もココ
- 7.仕上げ
今回の作業は前回に引き続き、「底付け」になります。
前回は「ウェルトをつける、中物を詰める、本底(アウトソール)を貼り付ける」という作業でした。今回は貼り付けた本底をしっかりと縫い付ける、ウェルト(細革)と靴底(本底)を接合する作業になります。
市販の靴には本底を貼り付けてあるだけの<圧着式>と呼ばれる取り付け方法もあります。貼り付けてあるだけ、といっても超強力接着剤で貼られているのでそう簡単にははがれません。ですが、コバに縫い目があるのとないのとではやはり高級感が違います。
そしてタイトルでわざわざ〝手縫いで〟と記したのは、出し縫いは専用のミシンで行われる場合もあるからです。
今回はハンドソーン・ウェルテッド製法で進めていますが、出し縫いをミシン縫いした場合、出し縫い以外の工程、全工程の90%が手作業になることから「ハンドソーン・ウェルテッド製法九分仕立て」と呼ばれます。ミシンを使うと手縫いで数時間掛かる作業が両足5分もかからず終了します(泣)。
機械で仕上げても強度などは変わらないようですが、それでも手縫いで仕上げられた靴を求める人は少なくありません。ピッチの細かさ&繊細さ、ひと縫いずつしっかりと締め上げられることで出る風合い、といったところに惹かれるのかもしれません。
まずは輪郭を削って全体のフォルムを整えます
前置きが長くなりましたが(毎度ですね)、出し縫い作業をする前に輪郭(コバ)を整えておきます。この後、出し縫い作業に必要な「ドブ」を作るために、コバを仕上がり時と同じフォルムにしておく必要があるからです。ギリギリまで最終ラインに近い状態にしておく方が後がラクです。
包丁でアッパーのラインをガイドにしてコバを削っていきます。ちまちまやっていると時間ばかり掛かるので、決めたラインを一気に削っていきたいところですが、削りすぎると取り返しが付かなくなるので…結局ちまちまと。5~7mmくらいにするのが目標です。ペンでラインを引いてしまえば確実なんですけどね。
削り方のダメな例と良い例。包丁の刃を自分に向けていては危ないのです。でも細かな調整をするときはつい自分に向けて作業してしまいます…。
縫い始める前に本底に縫いしろ(溝)を作る「ドブ起こし」
なんのこっちゃー!という用語の1、2を争う「ドブ起こし」。
本底に出し縫いのための溝を作るため、本底に切れ目を入れて端の革を起こす作業です。出し縫いをした後で起こした部分を伏せると縫い目が見えなくなります。これを「伏せ縫い」と言います。縫い目が直接地面に接しないので糸が擦れたり、糸をつたって水が入ってきたりを防ぐことができます。
またドブ起こしには「縦ドブ」と「横ドブ」の2種類があります。縦ドブは縁から2mmくらいのところから溝を掘る位置に対して包丁をやや立てて切り込みを入れていきます。出し縫いが終わった後、伏せる際に包丁を入れたラインが出ます。
一方横ドブは本底の真横から包丁を入れていきます。0.5~1mmの厚さで、溝にするところまで刃を入れていきます。横ドブはきれいに伏せられるというメリットがありますが、しっかり接着されていないとコバにすき間ができてしまう場合もあります。
見本が汚くて申し訳ありませんが…左が横ドブで伏せた靴、右が縦ドブで伏せた靴です。縦ドブだと伏せたラインが目立ちますが、本底に滑り止め用のソールなどを貼ってしまう場合は気になりません。縦ドブの方がコバの断面がきれいなまま進められるというメリットもあります。
今回は縦ドブで加工します。まずはどこに溝を作るかガイド線を引きます。引き終えたら包丁でガイド線に向かって切り込みを入れます。包丁の入れすぎに注意です…って言ったそばから深掘りしましたー(泣)。
切り込みをいれたらまずはマイナスドライバーで起こします。…とすくい縫いが見えてしまっています…。もう取り返しがつきません。すくい縫いの糸まで切らなくてよかった、と自分をなぐさめます。
------------やり直しました…---------------
縦ドブをやめて横ドブで再開しました。ぐるりと3/4周したら(今回はかかとまでは縫いません)切り込みをいれたところを水をつけたブラシで濡らします。革が柔らかくなったらハンマーでしっかり起こします。起こしたギリギリの位置に溝を作るためです。
しっかり起こしたら<ガリ>と呼ばれる道具で溝を作っていきます。一定方向に削って溝を作ります。溝の深さは、浅過ぎても深過ぎてもダメで、糸の太さよりも少し浅いくらいの深さを目指します。
今度は慎重に包丁を入れていきます。
このような感じで起こします。
水で濡らしてハンマーでしっかり起こします。
ガリで溝を作った状態です。
真ん中の道具が<ガリ>。これは折ってしまった<すくい>を加工して作ったものです。リサイクルで新しい道具を作る。靴あるあるです。一番下が<出し針>です。
やっと!出し縫いをしていきます
出し縫いには、前述の<出し針>という穴を開けるための道具と、縫うための糸の先端に付ける<毛針(イノシシの毛)>が必要です。
イノシシ?なんてびっくりしてしまいますが、出し縫いの場合、針となる部分がしなやかに曲げられることが重要なのです。曲げられるけどコシがある。その条件にぴったりなのがイノシシの毛なんだそう。毛先に糸を絡ませ、毛根を先端にします。
これがイノシシの毛。チャン(松ヤニを加工したもの)をつけて糸を絡ませて使います。イノシシの毛は現在では入手が難しく、釣り道具を活用している人もいるようです。前回出てきた「すくい針」も使えるように見えますが、土踏まずのあたりで針が通らなくなるので残念ながら活用できません。
出し針で穴をあけ、両側から糸を入れて締め上げます。縫いのピッチは好みですが、細かい方が高級感が出ます。ピッチのガイドを入れると確実ですが、ピッチはまぁまぁ揃うので、このまま進めていきます。ウェルトの最後まで縫いきったら終了!
出し針で穴をあけ、両側から糸をいれて締め上げていきます。穴をあけて糸を通して…の繰り返しです。ピッチはこのような感じになっています。
縫い目をとじます
最後に起こしたドブを伏せていきます。まず、ブラシで縫い目と起こした革の裏革に接着剤(スリーダイン)を塗る、というかすりこむようにしてつけます。少し乾かしてからハンマーで叩いて伏せる&接着をしていきます。縫い目がぽっこり出ないようにしっかり叩いて、今度こそ終了です!
縫い目にスリーダインを塗って、本底全体を濡らしてからハンマーで叩いて伏せていきます。
終わりに
今回の取材中に、連載監督・Hさんから何度も「底がかなりぷっくりしてますよね?」とツッコミを受けました。その度に「履いていくうちに潰れてくるんでしばらくしたらいい感じになると思います」と返すんですが、その後も写真を撮るたびに「いやー結構入ってますよね」と追い打ち…。なんで降参します。入れすぎました(笑)。作業途中ドブ起こしで不具合ありで、本底をはがさなければならかったのでコルクも詰め直しました。今度はいい感じ!のはずです。