なんとなく靴作りを始めてみた、いち素人です。この連載では、履ける靴を一足仕上げるまでをドキュメントスタイルでお伝えしていきます。靴制作の過程を見てもらう中で、靴マニアじゃなくても「なぜ、いい靴はこんなにも高いのか?」の疑問、さらには靴を愛したくなるヒミツがわかってもらえるのではないかと思います。靴の裏側がわかると、靴を見るのが楽しくなる! 今回はウェルテッド製法のキモとなるパーツ「ウェルト」を縫い付けて、「中物(なかもの)」と呼ばれる詰め物を入れます。
靴が完成してからではわからない、知る人ぞ知る工程
- 1.木型を選んでデザインを決める
- 2.型紙を作る
- 3.革を選んで裁断する
- 4.アッパーを作る(甲、側面、かかとを縫い合わせる
- 5.釣り込み(アッパーを木型に固定する
- 6.底付け ◀️今ココ
- 7.仕上げ
上記の作業工程には<底付け>、とひとことしか書いていませんが、今回は
・ウェルトをつける
・中物を詰める
・本底を貼り付ける
と大きく3つの作業があります。
上記の「中物」については、完成した靴を見ただけではわからない部分で(でも靴好きなら履いた瞬間にわかるとか…)、靴によってもさまざまです。
入れなくても靴としては成立します。入っていたら、またどんな物が入っているかにもよりますが、高い靴には「コルク」が詰められていることが多いようです。足あたりが良い悪いなどもこのコルクからきているのでしょう。そしてこのコルクも「粒コルク」と「粉コルク」があって、さらにコルクをまとめる接着剤の種類でも履き心地が変わるとか(私は違いがわかるか自信がありません…)。この「中物」が何なのかにこだわる方もいるので、あなどれない部分なのです。
前置きが長くなりましたが…、コルクの前にまずウェルト。縫い付ける前にひと加工します。ガラスでツルツルした銀を取り、すでに斜めに切り落とされている側を斜め部分が気持ち広めに&なだらかになるように包丁で漉いておきます。漉くことでアッパー(木型)に合わせた時にくっつけやすく、縫い上がった後に平らにするのがラク&自然な感じになります。
ウェルトの表と裏。ツルリとしている方が表で、溝のある方が裏です。中底を通した針がこの溝に出てくるよう縫っていきます。
すくいの作業に必要な道具。「すくい」(上)と「すくい針」(下)。微妙なのであんまり大きな声では言えませんが、まっすぐな針をすくいと同じカーブを描くように加工しています。すくい針は2本使います。糸の端と端に針を付けます。
麻糸(道具屋さんでは玉糸と呼ばれています)。靴では9本縒りと6本縒りがあります。ウェルトをつける「すくい」では9本縒りを使います。
糸にチャン(松脂)を擦り込んで使います。左端がチャンを擦り込んだ状態。チャンが染み込むことで切れにくい丈夫な糸になります。
穴を開けては糸を通し…の繰り返し。
かかとを付ける位置より8~10mm手前からウェルトを縫い付けていきます。
縫いの間隔は8mmにしたいので、写真ではわかりにくいのですが、8mm間隔のラインを書いてから作業しています。このラインがあるだけで迷いがなくなるので作業効率がグッとあがります。慣れてくればそれこそ感覚でわかるようになるところですけどね…。
糸の長さは両手を広げた長さの2.5倍、両端にすくい針をつけます。ウェルトも中底もいきなり糸を通したすくい針は通らないので、まず「すくい」で糸を通す穴を開けます。中底に作った溝に刺し、針先をウェルトの溝に出します。穴ができたら抜きます。そして開けた穴に糸を通します。
まずは右手で持った針をウェルト側から入れつつ、針先が中底を貫通したら、左手で持っている針を中底側から入れます。中底側から入れた針先がウェルトの溝に出てきたら両方の針先を引っ張り出し、糸を強く引きます。この引く作業(締めるという言い方もします)が重要で、緩いと底とアッパーにすき間ができてしまうので、中底にしっかりと、ピタリと縫い付けることが重要なのです!
「すくい」を突き刺したところ。ここで力が入って針を折ってしまうこともありました。工房内に「ポキッ」という音が響きます。憎らしいくらいいい音が鳴るんです…
針を両側から入れて、引き抜きます。ウェルト側から入れる針を奥、中底側から入れる針を手前と決めたら途中で入れ替わらないように気を付けます。入れ替わると見えないところで糸がクロスしてしまい、切れやすくなってしまうからです
グッと引っ張ります。しっかり締め上げるので、1周終わるとグッタリです…
ちなみにこんなスタイルでやっています。黒いバンドは自転車のタイヤのチューブです。しっかり固定して作業したいときの必需品なのです。
1周終わりました!シングルウェルテッドなので、かかと部分にはウェルトを縫い付けません。左が<シングル>で仕上げた靴、右が<ダブル>で仕上げた靴です。かかとのボリュームがだいぶ違います。
余計なものをそぎ落とします
無事に反対側まで辿り着いたらアッパーの不揃いな部分をカットしてきれいに揃えます。それからつま先部分のひだになっている部分も削いでできるだけ薄く(平らに)なるようにします。
かかとの部分はウェルトが縫い付けられていないため、緩まないように絡げます。先ほど使った糸の余りを活用します。絡げ方は適当です…。中底にも針を入れつつ絡げます。
見た目がキレイでなくてすみません…。本底を貼り付けるときに平らになっていればいいんです!(いや、ダメだ…)
シャンクとコルクをいれて、本底でフタをします
さて、いよいよ「中物」を詰め込みます!「中物」と呼ばれるものは主に2つ。ひとつは「コルク」、もうひとつは「シャンク」です。
シャンクは土踏まずあたりにいれる鉄の板で、しなったりまっすぐになったりと歩くときに負荷がかかる土踏まず部分の強度を上げるために入れられます。ただし、靴だから必ず入っているというわけではなく…、量産型の製品には入れられていないことが多いです。入れていなくてもきちんと靴としては成立するので不良品とか手抜きとかそういうことではないのですが、高級靴にはたいてい入っています(たぶん)。
確認するには分解するしかないですが…、ハイヒールのパンプスはわかりやすいかもしれません。土踏まずにピンポイントで圧を掛けてグニャっとなるようならシャンク不在、ある程度の耐性がある場合はシャンクは存在していると思われます。
シャンク話が長くなりました…。コルクを詰める前に、本底に接着剤を塗っておきます。次にシャンクを置いて、その上からコルクを敷き詰めていきます。適量をのせて、温めたヘラでギュウギュウ詰め込みます。少なくても多くてもダメ。<良い塩梅>というとってもファジーな感覚が求められます。
コルクを詰め終わったらコルクのないところに接着剤を塗り、本底を貼り付けます。一度貼ってからはがすとコルクも一緒についてきてしまうので、やり直しなしの一発勝負。ここも緊張するんですよね…。
貼り付けたらハンマーでしっかり叩いてくっつけます。端はすぐにはつかないので、セミと呼ばれるクリップで挟んでおきます。しっかりくっついたら最後に形を整えて今回の作業は終了です!
次回はいよいよ大好きな工程、出し縫い作業に入ります!(あ、まだ先は長いですよ〜)
シャンクは鉄の板です。カーブが掛かっているので、靴に合わせてカーブを調整します。またバリがあったりするのでテープを巻いておきます。余談ですが子ども靴のシャンクには某高級アイスクリームに付いてくるプラスチックスプーンがいいと聞いたことがあります。
つぶつぶのコルクにチャンを混ぜてコルク同士がくっつくように加工します。温めながらチャンを絡めます。冷えると適度に固まります。チャンではなく接着剤を使用したり、つぶつぶのコルクではなく板状のコルクが入れられることもあります。
まずは本底に接着剤を塗っておきます。ある程度乾かないと接着力があがらないのです。不思議…。余談ですが、少し乾かした後、温めて活性化させる(プツプツと泡が立つくらい)と接着パワーが最大限発揮されます。
コルク詰めにはケーキサーバーが便利。コルクをのせたら温めたケーキサーバーでギュッと押し固めます。周りと高さが同じくらいになるようにします。
本底をかぶせたら叩いて叩いて叩きまくります!コルクを入れすぎてしまった感があるので(笑)、落ち着かせるためにもしっかり叩きます…。
端はどうしても浮いてきてしまうので、接着剤が安定するまで固定しておきます
ウェルトと本底のラインが同じになるようにはみ出した本底部分は包丁でカットします。さらに理想の仕上がり幅に近づけるよう調整します。
終わりに
毎度なんですが、ついついコルクを盛りすぎて、底がぷっくりしてしまいます。履いているうちになじんでくるから問題ないと言えばないのですが、本底にさらに滑り止め用の底板を貼る場合に貼りにくくなってしまいます(際が浮いてきてしまう)。とにかくハンマーで叩いて叩いて平らにします…。