「いい感じ」から始まった、ブリキおもちゃを集める生活とは?
好きな物について語る濱田さんは、とても楽しそうに見える
「自分の好きな物に囲まれている生活は楽しいです!」
「街角ブリキのおもちゃ博物館TIN's Cafe(ティンズ カフェ)」の館長である濱田昌宏さんは、とても嬉しそうに語る。
「保管できるスペースがもっとあれば、もっと集めたい。最近では、ブリキのおもちゃだけでなく、文房具、フィギュア、レコードなど、気になるジャンルが増えている。きっと、コレクターとしての終わりはないのでしょうね」
現在、ブリキのおもちゃ博物館では、ブリキのおもちゃをメインに、文房具、ミニカー、キーホルダー、珍しいコーラの瓶まで、様々な物が展示されている。その中心にあるのは、ブリキおもちゃである。
濱田さんがブリキのおもちゃを集め始めたのは、近鉄百貨店で見つけた1個の中国製のブリキのおもちゃがきっかけだった。
「20年以上前の話です。近鉄百貨店で中国の物産展が開催されていたので、遊びに行ったら3種類のブリキのおもちゃが売っていました。1個380円と手頃だったので、試しに1個購入しました。家に帰ってサイドボードに置いてみると、とてもいい感じだった。後日、残りの2種類のブリキのおもちゃも購入しました。当時、家には古いねじまき式の時計があり、そこの横に3種類のブリキのおもちゃを並べると、さらにいい感じだった。古い物と古い物が隣り合うと、とてもいい雰囲気になった。もっと並べたいと思い、そこから僕のコレクターライフは始まりました」
濱田さんにとって、”いい感じ” は直感なのかも知れない。言葉で表現するのは難しい。しかし、コレクションを集める上で大切な感覚なのである。
先見の明で買い集めた中国のブリキおもちゃ。今では、価値が高騰!
始めた買った中国製ブリキのおもちゃ。20年前に380円で購入
こうやって、濱田さんはブリキのおもちゃを集め始めたが、そこには大きな問題があった。
「当時、日本にはブリキのおもちゃを集めているコレクターが既にたくさんいたので、日本製やアメリカ製のブリキのおもちゃの価格が高騰していました」
そこで濱田さんは、中国のブリキのおもちゃを積極的に買い集めることにした。比較的安い価格で購入ができ、将来的には価値が上がり集めるのが難しくなると思ったからだ。
「20年前の中国の経済は今ほど発達していなかった。しかし、中国もいずれ経済が発展して人件費が上がり、ブリキのおもちゃ作りが衰退していくと予想しました。日本のブリキのおもちゃが辿ったように。先物買いではないですが、今のうちに集めておこうと考えました」
現在のようにインターネットが普及していない時代。中国のブリキのおもちゃを個人輸入している会社を雑誌などで探し、手紙や電話でやり取りを続けた。
並行して、日本製ブリキのおもちゃも少しづつ買い続けた。しかし、それらはオリジナルではなく復刻版である。当時メタルハウスという会社が、昔のブリキのおもちゃを復刻させて再販していた。
「私にとっては、作られた年月が違うだけで、おもちゃとしての価値は一緒。再販でもおもちゃのコンセプトが一緒なので、私の中ではオリジナルも復刻版も一緒なのです」
伊賀まちかど博物館との出会いがもたらした、新しいブリキのおもちゃの楽しみ方
一つ一つのコレクションが綺麗に展示されている。カテゴリー毎に分かれているので、見やすい
こうして集められたブリキのおもちゃは相当の数になった。ショーケースに飾るうちに、ちょっとした博物館のようになってきたのである。そして、そのタイミングで「伊賀まちかど博物館」と出会う。
新聞で偶然見かけた「伊賀まちかど博物館」の記事に共感して、濱田さんは代表の辻村さんに連絡をした。お互いの目的が一致しメンバーになった濱田さんは、「街角ブリキのおもちゃ博物館 TIN's Cafe」の名前でコレクションの一般公開を始めた。
一般公開を始めた当初は大変だったと語る。
「始めの頃は、近所の子供が毎日ように遊びに来ました。おもちゃは、触って、動いてこそ価値があるので、自由に触れる形にしました。そうすると、たくさんのおもちゃが壊れました。子供は手加減を知らずに触ります。例えば、ネジを巻くおもちゃは、加減を考えずに限界を超えてネジを巻こうとします。その結果、ネジが壊れました」。他人から見れば、子供ならではの笑い話になるが、おもちゃの持ち主からすると大変な事態である。しかも、そのほとんどが買うことが出来ない、おもちゃである。
「伊賀まちかど博物館」の知名度が上がるにつれて、日本中からブリキのおもちゃ好きな人が訪れるようになってきた。今では、遠方から来る来館者と、好きなブリキのおもちゃの話をするのが楽しみだと濱田さんは言う。
しゃべるのが大好きな館長が運営している博物館は、楽しいに決まっている!
キーホルダーのコレクション。集めるカテゴリーが年々、増えていくと言う
濱田さんは、ブリキのおもちゃを展示するだけでなく、ボランティアに利用する事を思いつく。特別養護老人ホームに昔のブリキのおもちゃを持って行き、手にとって遊んでもらうのだ。
昔のおもちゃを手にしたお年寄りの方は、昔を懐かしんでブリキのおもちゃを楽しんでくれるのだと言う。
自分が集めてきたコレクションが、誰かの役に立つ。
まさに、コレクターとして嬉しい瞬間である。
冒頭にも述べたが、「自分の好きな物に囲まれている生活は楽しい」と話す濱田さん。
そして、「同じ趣味の人と話すのも楽しいです」と付け加える。
ブリキのおもちゃに興味がある方は、ぜひ「街角ブリキのおもちゃ博物館 TIN's Cafe」に足を運んでいただきたい。そこでは、コレクションを眺めるだけではなく、濱田さんとの会話もセットで楽しめるはずである。
※注意
ブリキおもちゃ博物館は事前予約が必要です。
鉄腕アトムのブリキおもちゃ。奥様の実家にある蔵の中から発見し、譲ってもらった思い出の品
兵隊が銃を撃つように動く
特別養護老人ホームに持って行ったら、驚いたお年寄りが車椅子から反射的に立ち上がったというエピソードがある
ブリキおもちゃは、表情が豊かで見ているだけで楽しくなる
入り口には、昔のタバコ屋にあるショーケース。実際に使われていた物をオークションで購入
街角ブリキのおもちゃ博物館 TIN's Cafe
ロボット、ロケット、クラシックカーから福助まで、ノスタルジックなブリキのおもちゃが350点以上、ソフトビニール人形などの雑貨1000点を展示している。訪れる際には事前予約が必要。
コレクションを眺めるだけではなく、オーナー濱田さんとの会話もセットで楽しめるはず。
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日本と世界おもしろ玩具図鑑
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