ミューゼオ・クラウド・ミュージアムは、モノを愛するユーザーと向き合ってきたMUUSEOが、モノを取り扱う企業向けに立ち上げた新サービスです。
多くの企業が抱える「新規顧客の獲得」という課題を解決するため、「ユーザーとの相互コミュニケーション」「ファン(製品を人に勧めてくれる人)の育成」といった、既存のマーケティング施策に捉われない、新しい価値を提供しています。
この連載では、導入企業の担当者さまに、サービス導入のきっかけや導入後の効果などを伺っていきます。
今回はJOSEPH CHEANEY(ジョセフ チーニー)、GLENROYAL(グレンロイヤル)といった英国ブランドの輸入総代理店である、渡辺産業株式会社の松井友輝さんにお話を聞きました。
松井さんは、渡辺産業株式会社に入社した当初からオウンドメディアの立ち上げに携わり、直営店であるBRITISH MADE(ブリティッシュメイド)のオンラインコンテンツの経由売上に貢献しています。巧みに施策を打つ松井さんが既存の施策で課題に感じていたことや、クラウド・ミュージアムを導入しようと思った理由、また導入によって得られた効果について伺いました。聞き手は、ミューゼオ・スクエア編集部の佐々木です。
コアなファンが集まり愛するモノについて語り合う独特のサービス空間
──松井さんは主にオウンドメディアの運営に携わっているとお聞きしました。
松井友輝さん(以下、松井さん):はい。具体的には記事制作や撮影、イベント運営、SNSの運営などを担当しています。
──オウンドメディア以外に、貴社ではデジタルの販売促進としてどのような取り組みをしていますか?
松井さん:プレスリリースを配信したり、WEB広告を配信したりしています。実際の数値分析においても基本的に自社で完結しています。
──マーケティングにおいて課題に感じていたことはありますか。
松井さん:弊社で扱う商品はスタンダードなアイテムが多く、毎シーズンほとんど変わらないんです。というのも弊社の理念に“使い続ける喜び、育てる楽しみを提供します。”という言葉があるんですが、扱っている商品の多くが1シーズンで役目を終えるものではなく、永く使える魅力を持ったものばかりです。そのため、一年を通して同じ商品を訴求することも多く、同じ商品でも視点を変えたアプローチなど、今までやっていなかった取り組みを試しています。
渡辺産業が運営する「ブリティッシュメイド」のオウンドメディア。現在公開されている“著名人と創るグレンロイヤル”。靴磨き初代日本チャンピオンであり、2年連続で日本チャンピオンを輩出しているTHE WAY THING GOのオーナー兼靴磨き職人の石見豪さんを筆頭に各著名人との別注のコンセプトや制作裏話など、英国製品のストーリーを深く知ることができる。
──クラウド・ミュージアムを導入したきっかけを教えてください。
松井さん:個人的に、ブリティッシュメイドのお客さまとミューゼオのユーザーさんのエンゲージメントに共通点があると感じたからです。まず、最初にミューゼオのサービスを拝見した時、ユーザーさんがアップしているモノの多様性に驚きました。例えば、ファッションアイテムというカテゴリの下にジャケット・コート、フライトジャケット、眼鏡・サングラスなどのサブカテゴリができている。実際にモノを所有していて、専門的な知識を持っているユーザーさんがたくさん集まっている印象を持ちました。
ブリティッシュメイドもミューゼオと同じように、特定のジャンル、例えば革靴に造詣が深いお客さまが多いんです。ブランドで言えばジョセフ チーニー、church’s(チャーチ)が好きな人がいたり、更に言えば木型のフォルム、靴磨きを極めたい人もいれば最古のミリタリーラストだからといった派生まで...広がる根っこの数はお客様の数だけあります。そこで同じような性質を持つミューゼオのユーザーさんに弊社を知ってもらえたらブリティッシュメイドにも新しいムーブメントが生まれるのでは、と思いました。
──そういっていただけるのはうれしいです。私たちは、ユーザーさんがモノの魅力を語り合えるようなサービスづくりを大切にしています。貴社が扱う製品は、思わず語りたくなってしまうようなエピソードを持った製品が多いと感じています。
松井さん:ミューゼオは、登録しているユーザーが皆、モノを愛するコアなファンで、ファン同士でフラットに好きなモノについて語り合っていた。そこも導入してみた理由ですね。例えばTwitterやインスタグラムにおいて、発言力のあるインフルエンサー、そして一般のユーザーの2通りに分けるとします。
中には一般のユーザーがインフルエンサーからの情報発信を受け取るだけの一方通行な関係性になってしまうケースもあります。 オンでもオフラインでも、人を通してモノ以上の価値が生まれると個人的に考えているので、コミュニケーションを取りながら好きなものを語ることは純粋にポジティブだなと感じました。
企業とユーザーさん。双方向のコミュニケーションの重要性
──クラウド・ミュージアムをどのようにマーケティングに活用していますか?
松井さん:弊社で扱っている製品を展示し、店舗ごとのNEWSを配信しています。投稿にはなるべく、「人」感を出すようにしています。その方がユーザーさんからリアクションがあるんです。例えば、そのスタッフしか語れない革靴のストーリーを掲載したり、方言を出してみたり...写真でいえば着用感が伝わるようにしっかりと履いているカットを撮るなどしてみたり。モノは人が使ってこそなんぼだと思うので。
──具体的にはユーザーさんとどのようなコミュニケーションをとりましたか?
松井さん:チャーチという革靴ブランドについて投稿した時に、ユーザーさんから「もうかれこれ35年前に、神田にはチャーチをかなり置いてある靴屋があり、一目惚れでした」とコメントをいただきました。ミューゼオのユーザーさんは靴や革製品などの知識がある方が多いので、私たちもイギリスの製品についてはなんでも答えられるよう、しっかりと勉強していきたいです。
BRITISH MADE MUSEUMには、色褪せない美しさを纏う英国製品が展示されている。
──企業とユーザーさんがフラットにコミュニケーションを取れる所も、本サービスの特徴です。企業から一方的に製品の魅力を語られても、購入する側からするとちょっと引いてしまうんですよね。
松井さん:そうですね。お客さまからの問いかけにしっかりした返答ができれば、お店の信頼は自ずと積み重なっていくと思います。反面それがないとお客さまはついてきてはくれません。そしてコミュニケーションを通してブリティッシュメイドが扱うブランドを好きになってくださった方は、友人や知人にも製品を紹介してくれる可能性が高いと思います。
──以前、「いま履いているトラウザーズ、kolorですか?」と松井さんに声をかけていただきました。その時「一見してブランドを当てるなんて、松井さんは相当洋服が好きなんだな」と思ったんです。そんな方が薦めてくださるなら、質の高さは間違いないと思い、ブリティッシュメイドでドレイクスのネクタイを購入しました。自分用と、弟の大学卒業祝いの2本。
松井さん:洋服が好きというよりも、良い意味で周りに影響されやすいですね(笑)。そのおかげでイギリスに限らず沢山のブランドを知ることができていますし、商品の見え方も変わってきます。例えばいま私が着ているドレイクスのシャツジャケットは、プレスの担当者がくたびれた感じで着ていているところがかっこよくて気になっていたんです。「そのシャツジャケット、どう?」と話を聞くと「ポケットがたくさん付いていて単純に便利だよ。」と旅が好きな人ならではの観点で答えてくれて。
着てみたら、大振りでインバーテッドプリーツ入りのポケットはカメラのレンズカバーも入るので撮影の時にすごく使いやすかったんです。日常生活でも、財布、名刺入れ、iPhone、必要最低限のものが一個に収まる。これは便利だなと。この話も一方的な提案ではなく、人とのコミュニケーションによって得られた価値ですよね。当然ですが実際に使っている人の言葉って、一番信頼できるんです。
松井さん:今の世の中的に、ワンクリックで購入する機会が多くあるのは効率的でとても良いです。「ポチッとした」なんて言葉があるくらいですからね。企業側は在庫と必要最低限の情報を用意しておけば良いだけなので作業としてもコストパフォーマンスが高い。最速最短で商品が手に入って、売上も生まれる。どちらにとっても大きなメリットです。でもそれって長期的な目線で考えたら、短期的な売り上げにしか直結しないのではと考えています。“バズる”とか“炎上”だとかそういった言葉がまさにそれを体現していると思っていて、一時期タイムラインに流れて影響しても、すぐに忘れ去られる。大きなメリットの裏側にはどんどん墓場へ葬られるようなコンテンツが多く見受けられます。
全てがそうとは言い切れませんが、最短距離で購入まで至ることは性質的にそれに近いのではと感じることが個人的にはあります。それを「なんでだろう?」と考えて出した答えの1つが、そうして買ったものは自分の手に1つも残っていないからなのかなと思いました。
誰かからもらった、何かの節目に買った、誰かに憧れて買った.....キッカケはなんでも良いのですが、今自分の手に残っているものは、やはり人というフィルターを通して手に入れたものなんです。だからこそ、大切な部分なのだろうと思います。
末長くブランドを愛してくれて、人にも自分の愛するブランドを勧めてくれる。そんな根強いファンを獲得することがこの先もっとも大切で、そのためにモノを伝えるストーリーテラーとして、ふさわしい知識を身につけて、常に情報をアップデートし続ける。そこで初めてファンと近い立場でコミュニケーションが実現できるものです。なにより信頼を獲得することがまず重要だと感じています。
──クラウド・ミュージアムはまさにそのような課題に貢献できるサービスです。新しいユーザーさんへの認知を取りながら、既にブランドを愛用するファンの方との絆をより強固なものにするお手伝いが出来ると思います。
松井さん:イギリス的には...ユーモアも大切ですね!真面目だけど遊び心があって柔軟に気が使える。それこそ理想の紳士像だと自分は思います。
取材した日の松井さんの足元はジョセフ チーニー。先日オールソール交換をしたばかりだそう。「GINZA SIXで行われたジョセフ チーニーのトークライブを開催した際、オーナーのウィリアム チャーチさんが、撤収作業を手伝ってくれたました。『なんて紳士的なんだ!』と思い、ブランドに一層愛着が湧きました」(松井さん)
松井さん:認知だけでなく、クラウド・ミュージアムを通して実際に商品が売れていることもすごくポジティブにとらえています。ファンの方とのコミュニケーション同様にさらに活用していきたいです。
二人三脚でつくる、人を動かすコンテンツ
──クラウド・ミュージアムを導入して、印象的だったことはありますか?
松井さん:弊社の実店舗で開催したイベント「ブリティッシュコレクターズマーケット」をミューゼオ・スクエア編集部に取材して頂き、弊社ミュージアムに記事コンテンツとして掲載しました。「出店しているショップそれぞれにイギリスの魅力を聞く」という記事の構成はイベントの魅力を伝えるのに的確で、集客効果も高かったと思います。
「ブリティッシュコレクターズマーケット」は、洋服に雑貨、伝統的な食べ物にフレグランスと、五感をフルに使ってイギリスを感じることができるイベント。この記事では、イギリスの文化を輸入する出店者の方々にご協力いただき、「イギリスらしさとは?」を聞いて回った。記事はこちら。
──イベントを担当しているスタッフの方がショップに足を運び、魅力を理解した上で出店を打診していると事前にお話をいただきました。そのため、編集部の主観だけのレポートではなく、お店の方々にお話を聞きたいな、と。ユーザーさんがあまり見聞きしない視点で記事を作ることで、ものごとに興味関心を持ってもらえるよう心がけています。
松井さん:それに、フィードバックに対して真剣に向き合ってくれて大変助かります。打ち合わせの際、私の上司が「ミューゼオ内でユーザーさんにアプローチするために、いいね機能があったらいいですね」とボソッとつぶやいたら、「社内で検討します」と答えていただいて。そういう話って、その後無かったことになることがほとんどだと思いますが、実際に検討して「いいね機能」を実装してくれたんです。
──ありがとうございます。マーケティングに営業、エンジニア、編集者と幅広い職種のメンバーを社内に抱えているので、フィードバックいただいたことはすぐに社内各部署に共有して改善しています。
今後はブリティッシュなオフ会を開催したい
──今後取り組んでみたいことはありますか?
松井さん:やはりこれだけ知識深いお客さんがいるからには、イギリス製品にまつわるオフ会をトライしてみたいですね。ミューゼオで、「イギリス」と検索すると、イギリス製品がたくさんヒットします。アナログレコードだったり、革靴だったり、スーツやタイだったり...。ブリティッシュメイドでは扱っていないものも数多くありますが、イギリスという国を愛する強烈な拘りのあるユーザーさんとコミュニケーションを取ってみたいですね。
家でじっくり個人で嗜む、なんてことは自分もよくやります。でも、同じモノを愛する仲間を見つけた時の感動って凄くないですか?そのためにはもっと磨かないといけないこともありますが。機会があればぜひ。
──ミニカーが大好きなユーザーさんが、ミューゼオを利用するうちに革靴に興味を持ったりと、それまで関心のなかったプロダクトに意識が向いているユーザーさんも出てきています。今後はさらに、ユーザーさんの興味がカテゴリーを横断して広がっていく仕組みも強化していきます。お話を聞かせていただきありがとうございました。
ーおわりー
【BRITISH MADE MUSEUM】は、こちらよりご覧いただけます。