最高のマテリアル(素材)革。その機能性を、革のプロに聞く!

最高のマテリアル(素材)革。その機能性を、革のプロに聞く!_image

取材・文・写真/ 野口 武

靴や鞄、革小物、家具など、身近な生活の中でさまざまに活用されている素材『革』。どんな動物が革にされるのか? 機能性はどれほどなのか? 合成皮革や人工皮革と、本革の違いとは? 革は良い素材という認識は何となくあるけれど、どこがどのように優れているのかは、意外と理解していないことが多いのではないだろうか。
第2回は、究極のマテリアルと称される「革の機能性」について、株式会社ストック小島の岩崎久芳さんに、さまざまな観点からお話をうかがった。

MuuseoSquareイメージ
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どんな動物が革になり、どんな特徴を持っている?

革は、食肉用に育てられた動物の副産物である。牛や豚、馬、羊など、人間が食べている家畜の多くが革にされている。それだけにとどまらず、珍しい哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類など、ありとあらゆる動物が革にされている。それぞれの動物の革は、どんな機能性や特徴を持っているのだろうか?

「激しい動きに適した革といえば、カンガルーの革が挙げられます。きめが細かく伸縮性があり、薄手で軽いため、よくスポーツシューズに採用されていますね」

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カンガルー革

野生で跳ね回るためキズが多く、それを隠すために顔料をぬられることも多い。キズが少ないカンガルー革は希少。

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鹿革(ディアスキン)

まるで布のようなやわらかさが特徴。銀面を除いて、床面を利用したセーム革もある。

「とにかく軽い革といえば羊の革です。上質な手袋や防寒具、袋物などに用いられています。肉食用のヘアーシープと、毛を利用されるウールシープで、革の表面の模様が異なります。子羊の革はラムスキンと呼ばれて、とても高級な革となります」

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羊革(ヘアーシープ)

肉食用のヘアーシープは、表面がなめらかできれい。

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羊革(ウールシープ)

表面にシボがあり、それを模様として活かして使用される。

「美しい光沢の革といえば、コードバンでしょうね。馬の革のお尻の部分をつかっている革で、実は表の銀面ではなく、裏の肉面を削り出すと、とても緻密で光沢のある美しい表情が出てくるのです。左右のお尻部分がきれいにそろったコードバンは希少価値があり、その形からメガネとも呼ばれます」

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馬革(ホースレザー)

馬の革を半身に切ったもの。馬はよく動くため、傷が多いのも特徴。

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コードバン

馬のお尻の部分からとった革。ベルトはメガネからでないと取れない。

「もうひとつ忘れてはいけないのが豚革です。輸入に頼ることなく日本で自給自足でき、海外にも輸出している、日本の誇る革と言っても良いでしょう。表面にシボがあり、摩擦に強く、通気性もあり、とても丈夫な革です」

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豚革(ピッグスキン)

豚の一枚革。表面にシボがあり、3つの毛穴が並んでいるのが特徴。牛よりも軽く、革小物や鞄など、さまざまな製品に使用される。

「機能性だけでなく、それぞれの動物が持っている柄も特徴であり、革の味わいのひとつです。爬虫類系の革、たとえばワニやヘビは、その独特の模様を持ち味として活かしながらなめし、革にされています。ダチョウの革は、クイルマークとよばれる突起を活かし、この突起が大きいほど価値があがります」

そのほか、サメ、アザラシ、ゾウ、クジラ、ラクダ、センザンコウ、ワニ、ヘビ、トカゲ、サケ、エイなど、思いつく動物はほとんどが革にされているという。流通される量は少ないが、その希少価値や柄のユニークさを求めて、靴や鞄、革小物などに使われている。

ゾウの鼻の革

ゾウの鼻の革

トカゲ革(リングマークリザード)

トカゲ革(リングマークリザード)

サメ革(シャークスキン)

サメ革(シャークスキン)

エイ革(スティングレイ)

エイ革(スティングレイ)

アザラシ革

アザラシ革

ダチョウ革(オーストリッチ)

ダチョウ革(オーストリッチ)

ワニ革(ナイルワニ)

ワニ革(ナイルワニ)

ヘビ革(ダイヤモンドパイソン)

ヘビ革(ダイヤモンドパイソン)

撮影協力:全日本爬虫類皮革産業協同組合

一番使われているのは、サイズが大きくて、活用の幅が広い牛革

そんな数ある動物の革の中で、幅広く利用されているポピュラーな革が牛革だ。

「牛は食肉としてたくさん生産されています。特に成牛はサイズも大きく、たくさんの革が取れるため、生産するのにも非常に効率が良い革です」

日本においては、牛革のなめしも行われているが、その原料となる皮の多くを輸入に頼っているのが現状。原皮の生産量は食肉の生産量とイコールで、アメリカ、オーストラリア、ブラジルなどの国が多い。日本の原皮も取引されており、「地生(じなま)」と呼ばれている。

もっとも良質な牛の原皮とされているのは、ヨーロッパの牛だという。特に、地中海沿岸の四季のある自然豊な場所に放牧された、のびのびと育つ牛は、ストレスフリーで、皮膚も健康に育ち、最高品質の原皮として扱われる。これも人間も同じことが言えるかもしれない。

「さらに牛革は、成長段階で革のきめ細かさが変わり、部位によっても柔らかさや厚さが変わるため、さまざまな使い分けがされています」

牛革の成長段階によるちがい。小さいほうが傷が少なく、きめ細かいため、高級品として扱われる。

牛革の成長段階によるちがい。小さいほうが傷が少なく、きめ細かいため、高級品として扱われる。

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牛革の部位による分け方

ベンズ
背中からお尻にかけてのベンズは、もっとも繊維の密度が高く、革も厚いため、靴底やベルトなどとして使用される。

ショルダー
首から肩にかけてのショルダーは、トラと呼ばれるシワがあり、それを活かして製品化される。柔軟性はあるが、やや密度が粗く、カバンなどの材料になる。

ベリー
お腹から脚にかけてのベリーは、やや繊維が粗い。面積が小さいため、革小物などに利用される。

最も分厚くて丈夫なベンズの革。こちらは靴底に使用したもの。

最も分厚くて丈夫なベンズの革。こちらは靴底に使用したもの。

牛革のベリーの部位(裏と表2枚)。面積が狭いため、使用用途は限られる。

牛革のベリーの部位(裏と表2枚)。面積が狭いため、使用用途は限られる。

ただし、このベンズ、ショルダー、ベリーという部位の分け方は、靴底の需要が多いヨーロッパのもの。日本では、1頭の革を半分(半裁)にしたサイドで取り引きされることが多い。

サイドの革。お腹と背中の方向に伸びる性質のため、ベルトやショルダーストラップなどを作る場合は、革が伸びにくい頭とお尻方向で使うのが基本。

サイドの革。お腹と背中の方向に伸びる性質のため、ベルトやショルダーストラップなどを作る場合は、革が伸びにくい頭とお尻方向で使うのが基本。

革の緻密な繊維構造が、さまざまな機能を生み出している

さて、ここで機能性について知るために、革の素材としての特徴や、仕組みを詳しく探っていきたい。まず最初に、皮から革へのなめしによって、何がどのような変化しているのか?

「なめしの工程の中で、皮の表皮と皮下組織が取り除かれ、真皮の部分がなめされたものが革となります。真皮は、タンパク質であるコラーゲンが束になって、複雑にからみ合う、とても密度の濃い繊維構造でできています」

つまり、革は、細かい糸が絡みあったような構造のため、とても強度があり、引っ張っても元に戻る。また、このような構造のため熱を逃がしにくく保温性も高い。そのうえ、衣服や靴などとして身にまとった場合、水分を吸ったり、吐いたりしてくれる。このような湿度を調整する働きを、「革が呼吸をする」という。

皮は、乳頭層と網状層に分けられる。乳頭層の方がより緻密にできているため、通常はこちらを表面として使う。

皮は、乳頭層と網状層に分けられる。乳頭層の方がより緻密にできているため、通常はこちらを表面として使う。

牛革の銀面(表面)。

牛革の銀面(表面)。

牛革の床面(裏面)。

牛革の床面(裏面)。

牛革の断面図。

牛革の断面図。

本革と、合成皮革や人工皮革のちがいとは?

さらに、人が人工的に作った合成皮革や人工皮革といった革がある。それらとの区別のために、動物の皮をなめして作った革は、本革や天然皮革とも言われる。合成皮革や人工皮革とはどんなものなのか?

「合成皮革(合皮)は、簡単にいうと布地に合成樹脂をのせて型押しなどをした、革のように見せた素材のこと。合成樹脂には、ポリウレタン樹脂や塩化ビニールを使っているので、プラスチックやビニールでできた素材です。変形が自由で加工しやすいのが特徴です。
人工皮革は、ランドセルなどに使われるクラリーノが有名ですが、革のコラーゲン繊維構造に似せて作ったフィルムと、ポリウレタン樹脂で作られたものです。風合いや弾力など、本物の革に似せた構造で作られています」
 
それでは、化学の力で作り出された合成皮革や人工皮革は、本革と比べると、とんな違いがあるのだろうか? 

「本革は水にぬれると形が戻らず、比較的重いですが、合成皮革や人工皮革は水に強く、本革よりも軽いです。用途によっては、とても便利な素材と言えるでしょう。ただし、本革に比べると、時間による劣化は大きく、使うほどに味わいがでるような経年変化も望めません。本革のような手触り感や、使うほどに体に馴染んでいく変化もありません。現代科学の力を持ってしても、そのような優れた革の機能には追いつけていないのが現状です」

合成皮革の手帳。

合成皮革の手帳。

人工皮革のランドセル。

人工皮革のランドセル。

人の弱点を補ってくれる、最高のマテリアル「革」

人間は進化の過程で、毛皮を失い無毛になった。革は、そんな人間の体を衝撃から守ったり、防寒に役立ってきた。人間にとって革は、まさに弱点を補うための最も理にかなった素材だった、というわけだ。

「身を適度に守ってくれ、生きているかのように湿度を調整して快適に保ち、使うほどにその人の体に合うように変形する素材は、革以外にはありません。ただし、革も万能ではない。水にぬれると型崩れしたり、カビが生えたり、アルカリ性に弱いなどの弱点もあります。だからこそ、使う人が、使用方法を気をつけたり、メンテナンスをしたりする必要があります」

洋服、靴、手袋など人が身にまとうものとして、また同時に、カバンや小物など人が身に付ける道具としても、革は最適な素材であることが良くわかる。雨の日などに気を使う必要があったり、お手入れの手間がかかったりするところも、より愛着を抱かせてくれる。まさに革は、人にとって最高のマテリアルと言うことができるだろう。

ーおわりー

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公開日:2015年12月20日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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野口 武

編集者・ライター。大学時代にバックパッカーとして旅する。編プロ・出版社に勤務し、ガイドブック、革などのグッズ系、インテリアなどの本を手がける。現在、編集プロダクションJETに所属し児童書を中心に多岐の本を制作。また、2015年には株式会社まる出版の立ち上げに参画。リアル遊びメディア『Playlife』の公式プランナーで100万PVを超える。著書に被災地等を取材した『タオルの絆』(コープ出版)がある。

終わりに

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人類の歴史の中での革の位置づけも含めて、革のマテリアルとしての機能性のすごさを、改めて実感することができた。革の構造も、とてもシンプルではあるけれど、現代の化学でも再現できない、奥が深いものだと実感。革の原点に立ち返ることで、「どうして革じゃないといけないのか?」という疑問が解消された気がした。
次回は、革のタンナー・栃木レザーを訪れ「タンニンなめしの世界」を紹介します。

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