銀座伊東屋に聞く、実印オーダー6つのステップ

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取材・文/佐々木健人
写真/イトーアツシ

日本にはハンコ文化が根付いている。婚姻届を提出する時、銀行に口座を開設する時、車や土地を購入する時。ビジネスの現場では電子印鑑が導入されている一方で、私生活では印章を押す機会はいまだに多い。

今回、実印をオーダーする手順を体験しつつ印鑑選びのイロハを銀座・伊東屋で教えてもらった。

創業100年を超える文具専門店「銀座・伊東屋」で印章をオーダーする

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銀座・伊東屋は、創業から100年以上も経つ文房具販売店だ。2012年に銀座にオープンした別館のK.Itoyaは、平日夕方にも関わらずスーツに身を包んだお客さんや外国人観光客で賑わっていた。銀座K.Itoyaで印章担当として勤務する金澤さんは言う。

「K.Itoyaのオープンを機にショーケースを上から覗けるようにしました。印章に限らず、購入する前に下見したい日ってありませんか?そんな時には眺めてもらってまた来てもらえたらと思います」

K.Itoyaで印章担当として勤務する金澤さん。

K.Itoyaで印章担当として勤務する金澤さん。

伊東屋ではいわゆる「町のハンコ屋さん」のように、カウンターで対面で販売する形式ではなく、四面どこからでも印章や朱肉を見られるようにディスプレイされている。取材当日は下見が終わってすでに目星をつけているお客さんが多いのか、金澤さんも忙しそうにしていた。

「最近は外国人旅行客の方がお土産にオーダーしていくことも多いです。ホテルのコンシェルジュの方から相談を受けることもありますよ」

伊東屋では実印、銀行印、認印などのほか、朱肉やケースなど印章に関係するアイテムは一通り揃う。ネーム印のスタンプカバーなど、伊東屋オリジナル商品も見逃せない。

今回は実際に実印をオーダーする手順を踏みながら、印章をオーダーする時のポイントを教えていただいた。

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これで迷わない!実印オーダー6つのステップ。

ステップ1:まずは用途を確認

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まず、印鑑は必要があって購入を検討している方がほとんどなのでご用途を確認します。個人用ならば、大きくわけて認印、銀行印、実印の三種類になります。

実印とは、住民登録している市区町村役所に印面を登録したはんこのこと。それに対し、認印とは印鑑登録を行なっていないはんこ全般のことを指す。銀行印はその名の通り金融機関に登録する印鑑のこと。

今回は実印をオーダーすると仮定して進めていく。

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ステップ2:使うのは男性、それとも女性?

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用途を確認したら、使う方が男性か女性かを確認いたします。お作りになるお客様が使うとは限りませんよね。女性の方が来ていても息子さんのためにとか、男性の方が来ても娘さんのためにということもあります。そのため、実印の場合は男性なのか女性なのかということを確認いたします。

男性と女性では手の大きさが変わってくるので、持ちやすい印章のサイズも異なってくる。よく選ばれるのは、女性は平均13.5mm〜15mm。男性は15mm〜16.5mmがほとんどだそう。

18mmよりも上を注文する人はほとんどいないが、最大で21mmまで注文することができる。

なお、印鑑登録のできる実印のサイズは役所ごとに規定があり、一般的には「8mm以上25mm未満」とされていることが多い。

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特に実印の場合は、大きい金額が動く場合が多いです。その契約の場で三文判とかで押しちゃうと、「大丈夫かなこの契約」と心配されてしまうので、しっかりした印面を選ぶのが重要なんです。

ステップ3:彫刻する文字を決める

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男性、女性問わず基本的にはフルネームでの彫刻をおすすめしています。実印の登録の規約としてはフルネームでなければいけないとは特に決まってはいないんです。苗字だけとか名前だけとかでも大丈夫です。しかし印章は個人を証明するもの。そのため、フルネームの彫刻をおすすめしています。

ステップ4:オーダーするならこだわりたい、材質選び

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彫刻を決めたら、その後は材質を選んでいただきます。予算もあるでしょうし、高いものはどんどん高くなっていくので好みで選んで問題ないです。材質は木、鉱物、金属、動物の4種類あります。柘(つげ)、黒水牛、牛の角(白)、あとは象牙というのが代表的な印材です。

コストパフォーマンスに優れる柘(つげ)

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柘は木材の中でも、もっとも印材に適したものです。中でも、質・硬度・色つやがいい薩摩柘を使用しています。柘は動物の素材を使うのに抵抗がある方にはおすすめです。加工もしやすく硬度もある素材なので、普段使いには全く問題ありません。

朱肉との相性がいい。動物を用いた印材

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黒水牛をはじめとする、動物を素材にした印章は柘植より重く、強度もしっかりしています。また、角や牙は油の馴染みがいいんです。朱肉は油で練られていることが多いので捺印しやすいです。柘植と象牙を比べるとわかると思います。

女性に人気。美しさが際立つ石材

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水晶をはじめ、石材の特徴はやはり美しさです。石材によって光の反射が全然違うので、好みの物を選んでいただけるといいかと思います。

石材は他の印材と比べると若干欠けやすい傾向はあります。特に印面の枠の細いところですとか。石って結晶がつながってできていますよね。そのため、ひどい時は真っ二つに割れてしまうこともあるんです。衝撃を与えるとケースで保護されていても欠けてしまうことはあります。もちろん、捺印して普段使う分には問題ありません。

耐久性に優れた先端素材、チタン

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チタンは印材の中ではもっとも頑丈です。また、素材の特性として鉱物や金属は油を弾く傾向にあります。チタンは朱肉が付きにくい部分をカバーするために自重を重くして、押しやすいように設計しているんです。重さがあるので落としてしまうと印面が歪んでしまうこともあるので、注意が必要です。

印材の中には、マンモスやカバなど珍しいモノも。伊東屋では、銀行印/実印問わず黒水牛が一番売れている。また、見た目がきれいな石材は女性に人気があるそう。

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柘と象牙を押し比べてみる。柘の軽くソフトな手触りに対し、象牙は手に馴染むしっとりとした心地よさを感じた。

印鑑を押す際は印鑑を持っている手の反対の手の親指で押すように抑えて、少し回すようにグリッと回すときれいに押せるそう。

ステップ5:基本は篆書体。偽造されにくい書体選び

伊東屋では4つの書体から選ぶことができる。古印体、隷書体、篆書体(てんしょたい)、そして八方篆書体(はっぽうてんしょたい)の4つだ。可読されにくく、偽造されにくいので実印で使われるのは篆書体が多い。ただ、古印体や隷書体でも注文することはできる。

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篆書体と八方篆書体をどちらを選ぶのかは好みです。書体の中でもっとも古くから使われていた書体が篆書体です。国宝に指定された"金印"といわれる漢委奴国王印(かんのわのなのこくおういん)で刻まれているのはこの篆書体です。
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八方篆書体は比較的新しい書体でして、円に対する文字が接する点を多くしており、隙間がより少なくなるような形なんです。八方に広がるから、末広がりで縁起がいいとして選ぶ方もいらっしゃいます。別名は吉相体ですね。印相鑑定など験担ぎ的なことも含んでいるのがこの書体です。

ステップ6:最後に目印をつけるのかを決めてオーダー終了!

最後に上下の見分けがつきやすいように目印をつけるのかを決める。”無地”と目印をつける”アタリ”、”丹”の3種類から選ぶ。アタリはくぼみを作って目印をつけるのに対し、丹は金属がつけられている。

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ケースは好みで選んでください。1点、気にするのは内張の色でしょうか。パステルカラーの生地を外布に使用している場合は、内張にも明るい色を使用していることがあります。すると、捺印したあと拭かないでしまうと汚れが目立ちます。当たり前ですが、内張は赤とか黒とかの方が汚れが目立ちません。
印鑑ケースにも上下がある。金具部分に入っている線を上にすると、印章が落ちてこないのだとか。これで洋服が汚れることもなくなりそう。

印鑑ケースにも上下がある。金具部分に入っている線を上にすると、印章が落ちてこないのだとか。これで洋服が汚れることもなくなりそう。

以上でオーダーは終了。納期は素材にもよるが平均10日〜14日で仕上がるそうだ。ちなみに、実印の価格は13.5mmの本柘無地で11,000円、同サイズの牛角(白)無地で24900円ほど。(別途消費税、ケースは別売り)

「用途さえ決めてきていただければ、あとはコミュニケーションを取りながら相談して決めていくことが多いです」と金澤さんは最後に付け加えた。実印は「個人の意思を証明する」、たった1本しか持つことができないもの。選択の自由度は高いので、価値観を反映したとっておきの実印をオーダーしてみてはいかがだろうか。

もう少し知りたい!印章に関する素朴な疑問

外国人旅行客の方は、どの印章を注文しているの?

だいたい30分で完成する、スピード印鑑を作る場合が多い。4文字までの制限付きだが、漢字もカタカナもアルファベットも彫ることができる。

「みなさん漢字の意味と読み方を知りたいと思っておられます。恥ずかしいTシャツを着ている人みたいになってしまうので、おかしな漢字は当てないようにしています」と金澤さん。

値段もそこまで高いわけではないので、外国人旅行客の方が店舗まで足を運んでオーダーしに来るのも頷ける。

ーおわりー

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銀座 伊東屋

「買う場所から過ごす場所へ」をテーマに、2棟19フロアからなる銀座本店。
各フロアでBGMとして流れている音楽は、「お客さまにゆったり過ごしていってほしい」とのことで作曲されたオリジナル。また訪れたいと思うような仕掛けが随所に施されている。

文房具を一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

明治37年の創業から東京・銀座で111年、文房具を選び、見極めてきたスペシャリスト、銀座・伊東屋のスーパーセレクション! 

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銀座・伊東屋 文房具BETTER LIFE

ロングセラー、スタンダード、新作の逸品が、発想のスイッチをオンにしてくれます。
銀座・伊東屋の目で選び抜かれた逸品160点は、机上品から空間作りまで、ビジネスシーンをより快適にし、普段の暮らしに喜びや楽しさ、思いがけないヒントを与えてくれるものばかり。

文具マニアのイラストレーターが厳選した80軒!

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東京 わざわざ行きたい街の文具屋さん

昨今の文具ブームを支えるのは個性豊かな文具店。人気の文具屋さんから老舗の画材店、文具セレクトショップ、海外の文具メーカー直営店など、東京に店を構える80軒をオールカラーイラストで紹介します。
著者は文具マニアのイラストレーターとして活躍するハヤテノコウジさん。店の外観や内観はもちろん、お店おすすすめの文房具や地図まで、すべてハヤテノコウジさんによるイラストです。

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公開日:2018年9月4日

更新日:2021年12月3日

Contributor Profile

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佐々木 健人

エディター、プランナー。1993年東京都生まれ。時計メーカーを経てミューゼオに入社。オンラインジャーナル「ミューゼオスクエア」のディレクション、ECサイト「ミューゼオファクトリー」の製品開発などを担当。

終わりに

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インターネット上で印章を注文できるサービスもたくさんありますが、こだわるならば一度実物を見に行くことをおすすめします。石材は光の入り方/反射がそれぞれ異なりますし、印面の大きさが1mm異なるだけで印象は変わるように思いました。個人的に気になったのはシャチハタのネーム印用に作られたレザースタンプカバー。明るいカラーに着せ替えることで、押印する一手間が楽しくなりそうです。ちょっとしたプレゼントにもおすすめです。

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