バリスティクスの塚原さんには、”サバイバル”、“冒険”、“アドベンチャー”をテーマにこだわりの品々を集める癖がある。大切な塚原さんのお宝を全4回の連載で特別公開。2回目はテント。「キャンプの時に張って寝るだけ」。そんなイメージのテントに、“秘密基地”的な魅力があるという塚原さん。そのテント談義は、奥深く愛情に満ちたものでした。実際に張ってもらう様子も必見!
一点一点個性や工夫を手に取って確かめたくて、ついつい購入してしまう。
持参したテントを照れくさそうに抱える塚原さん。ちゃんと数えたことはないが、いまは30張りから40張りぐらい所有しているという。ラインナップは、米軍規格のものから、老舗メーカーのもの、ホームセンターブランドまで様々だ。
「ピーク時は60張りぐらいありましたが、最近、人に譲ることを覚えたんです。『あっ、手放せばそのお金で新しいものが買えるし倉庫も広くなる!』という事に気付いた(笑)」
彼は、なぜテントを集めているのだろうか。そもそも、週末ごとに1張りずつ使ったとしても、1年間でようやく一巡するほどの数だ。
「十代の頃バイクでのツーリング用に手に入れたのがきっかけ。初めて買ったのは、たしかダンロップ製のツーリング用テントで3~4万円ぐらいでしたね」
テントに惹かれる要素はいろいろとある。子どもの頃に瓦礫の中に作っていたという秘密基地は、まさにテントのイメージそのものだ。さらに、ミリタリーファニチャーと同様、実用性と機能性を追求した“プロダクト”だという点も大きい。
組み立て方はメーカーやモデルによってそれぞれ異なる。説明書がなくとも大体なんとかなる場合が多いが、きれいなシルエットになるまで何度も張り直す事もあるという。しかし、こうした苦労でさえもテントと向かい合う楽しさの一つだ。
「基本、使用後はよく乾かしてから畳んで乾燥剤を入れて風通しのよい場所で保管します。とはいえ、これだけあると正直細かくは管理しきれてない(笑)」
気に入ったテントは色違いやサイズ違いで購入してしまう事もあるそうだ。次章では、そんな塚原さんに“お気に入りのテント”を実際に張ってもらう様子をお届けしよう。
晴天の空の下、一からテントを張ってもらった!
テント界のパイオニア的存在。フォルムと機能に惚れ惚れするヴィンテージテント。
こちらは、テントの歴史に深くその足跡を残したアメリカのメーカー、モステントの「サイクロイド」。テント好きでも知る人ぞ知る一品だ。塚原さんは知人から「普段だったら絶対に出さない値段(笑)」で購入した。
「Mossテントの中でも希少性が高いモデルなんです。日本にはおそらく10張りもないんじゃないのかな。しかもこの素材の物は他に見たことがない。僕自身、今日初めて張るのでドキドキです(笑)」
実際に、たまたま通りかかったキャンプ場の管理人が「おお、すごい」と言って足を止めたことからも、マニア垂涎のアイテムだということがわかる。
「僕で3人か4人目のオーナーですが、これほど保存状態がよいのは、代々の所有者がその希少性をわかった上で大事に使ってくれたからでしょう」
また、創業者のビル・モスさんは設計からデザイン、試作までのほとんどの工程に自ら携わる職人気質なデザイナーだったそうだ。なるほど、色使いやフォルムからもそれは伝わってくる。
塚原さんは、「探り探りです」と言いながら少しずつ組み立てていく。途中、前のオーナーに電話をしてフライの方向などを確認するなどして、約20分後、歴史に名を残すテントはみごと組み立てられた。
満を持して中に潜り込む塚原さん。思わずこぼれ出る満足げな笑顔から、このテントへの並々ならぬ愛情を感じた。
MOSSとは
Bill Moss(ビル・モス)が1976年に創設したテントメーカー。「バーガンディー×タン(ベージュ)×クリーム」の組み合わせがモスカラーとして有名。建築物の構造やデザインを初めてテントに持ち込んだとも言われている。曲線美が活かされたフォルムが特徴的で、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の永久収蔵品にもなっている。
広げて5分! 川べりに軽量コンパクトなピラミッド型秘密基地が出来上がり。
続いて、こちらもアメリカのメーカー、MLD(マウンテンローレルデザイン)のフロアレステント「デュオミッドXL」。昨年、知人から安く購入した。
「お気に入りポイントは、組み立てが簡単なのと意外なほど奥行きがあるところ。おもに川辺のキャンプで使うんですが、広いのでパックラフト(インフレータブルカヤック)をそのまま中に入れ、ひっくり返してベッド代わりに使える」
センターポールで高さも自在に調整できるうえ、温かい時期は下部を開ければ風通しも抜群で、自然との一体感がたまらない。
「張るのにかかる時間は5分ぐらいだし、総重量が約500グラムと相当軽いので持ち運びもラク。とにかく使いやすいので、色違いで裾にバグネット(虫除けの網)付きのタイプも買い足しました」
更に別売りのインナーテントもあるというから、これひとつあればオールシーズンで重宝しそうだ。
ーおわりー
終わりに
キャンプ場でテントは、まさに家。家を購入する人が吟味に吟味を重ねるのと同様、塚原さんもテントにその情熱を注いでいるんだなと納得。しかし、「モス」のサイクロイドに足を止めた管理人さんは、「まさか、これにお目にかかれるとは」と感動しつつ、ずいぶん長い間組み立て風景を眺めていました。テントの世界、奥が深い(笑)。