1万点以上のカメラを収蔵
Muuseo(以下mso):最初の質問ですが、日本カメラ博物館の成り立ちを教えてください。
インタビューに答えて頂いた、日本カメラ博物館、学芸員の石王さん
日本カメラ博物館(以下JCII):日本カメラ博物館は、一般財団法人の「日本カメラ財団」が運営しています。この日本カメラ財団というのは、戦後まだ日本のカメラが認められていない時代に、輸出するカメラを検査する場所が必要だと言うことで作られた「日本写真機検査協会」という組織でした。
日本から輸出するカメラを検査していくなかで、徐々に日本のカメラが世界で認められていき、平成に入る前には輸出するカメラに対して検査をする必要がなくなりまして、検査協会としての使命は終わりました。その後、今まで培った物をどのように活かしていくべきか話し合った時に、カメラの博物館として文化的事業に移行しようと言うことで、日本カメラ博物館が1989年に開館しました。
mso:カメラ博物館で展示している、コレクションの特徴を教えてもらえますか?
JCII:系統的に集めているのが、日本のカメラメーカーが作った”日本のカメラ”であり、展示の中心になっています。
それに加えて、国内外問わず名品と呼ばれるカメラも収集しています。
さらに、カメラとは別に、写真自体や写真関係の書籍も収集しています。
カメラ博物館ではカメラを、併設しているフォトサロンでは写真を、ライブラリーでは写真の関連書籍を見る事ができます。
mso:カメラは合計で何点ほど収蔵してあるのですか?
JCII:1万点以上です。
mso:1万点以上のカメラは、どのようにして集めたのですか?
JCII:前身の検査協会時代に検査していたカメラであったり、カメラコレクターのご寄贈、カメラメーカーからのご寄贈ですね。
それとは別に、展示によってはオークションなどで購入する事もあります。
基本的には、検査時代から保存していたカメラと、ご寄贈で成り立っています。
「日本のカメラの歴史」を語る上で重要なカメラを中心に展示しています。
国産で初めてアマチュア向けに量産された「チェリー手提暗函」
mso:展示方法に関して、気を配ってる部分はありますか?
JCII:常設展として、日本の歴史的カメラというテーマを設けています。
それ以外には、海外のカメラで「写真史」的に大事なカメラ(世界で最初のカメラなど)は常設展として出していますが、やはり「日本のカメラの歴史」を語る上で重要なカメラを中心に展示しています。
また特別展としては、その年の流行だったり、皆さんが関心のあるテーマを決めて、国内外のカメラを問わず展示しています。
mso:珍しい特別展で言うと、「レンズ付フィルム(= 使い捨てカメラ)展」を開催していましたが、どのような経緯から生まれたのですか?
JCII:もともと歴史的な展示をする中で、一部分を「レンズ付フィルム」が占めていましたが、レンズ付フィルムを中心とした展示はありませんでした。
しかし、レンズ付フィルムのコレクターの方がたくさんいまして、当博物館にて相当の台数を所有していたのでしたが、今まで日の目を見る事がありませんでした。
過去に展示しても「歴史的に最初の機種」だったりを展示していたのですが、レンズ付フィルムって面白いパッケージの物があったりするので、これを世の中に出さないのはもったいないという話になりました。さらに、時代がデジタル中心になってきたので、レンズ付フィルムを展示するなら今しかないという流れがありまして、本展示を企画しました。
さらに、本展示が決まった際に「みなさんにどのようにアプローチしようかな?」って考えていた時に、国立科学博物館の方で選定する「未来技術遺産」にレンズ付フィルムが決定されまして、とてもいい流れに乗れたと思いました。
2015年も、気になる企画展が盛りだくさん!
2014年に開催された「レンズ付フィルム展」の展示様子
mso:2015年の展開を教えてもらえますか?
JCII:2月3日からは、「クラシックカメラ少女展」をやります。フィルムのカメラと少女のイラストを組み合わせた展示ですね。「クラシックカメラ少女」というイラスト集があり、静かなブームになっていまして、同人誌だったものが一般の書籍として買えるようになりました。そのような人気のイラスト集がありまして、そちらの皆さんとコラボしまして、”イラスト”と”少女が持っているカメラの実機”を並べて展示するようにします。4月19日まで開催します。
5月から9月までは、詳細は決まってないのですが、GW、夏休みを挟むと言う事もあり、初心者の方や一般の方が楽しめる展示を開催しようと思っています。どちらかというと、小学生の夏休みの課題向けだったりもするので、カメラの歴史や仕組みを分かりやすく説明できる展示が出来ればと思います。
9月からは、少しマニアックな展示になるのですが「イギリスのカメラ展」をやります。カメラはフランスが発祥なのですが、写真技術的にはイギリスも同じように発達していまして、カメラの歴史において初期の頃は木製の美しいカメラなどを出していました。その後、ドイツの方にカメラの生産の中心が移行してしまうのですが、初期の頃のイギリスに注目したカメラの展示を予定しています。
5月以降の展示に関しては、詳しい日程は決まっていないので、決まり次第ホームページで告知をしていきます。
mso:常設展以外の、企画展やワークショップの情報はどこから入手できますか?
JCII:基本的には、ホームページを見るのが一番ですね。
ワークショップには席が埋まるような人気のものもあるので、特に夏休み前にはこまめにチェックして頂けると助かります。
カメラは、世界に対して”日本が頑張ってきた時代の流れ”が読み取れるのも楽しいと思います。
石王さんお勧めの「ジェムフレックス」。見た目が可愛い。
mso:カメラ博物館が半蔵門にある理由はなぜですか?
JCII:前身の日本写真機検査協会が半蔵門にあったのが理由ですね。
日本のカメラが開発された初期の時代は、船の長旅や、飛行機の長旅など、日本の気候でない場所での利用はあまり保証されていませんでした。なので、検査の内容としては、継続的にカメラへ振動を与えたり、何万回もシャッターを切ったり、熱い所、寒い所を想定した検査などをしていました。この検査を通らないと輸出が出来なかったのです。
検査を通り、輸出がOKになりますと、JCII(検査協会の略称)のシールが張られます。ですので、今でも海外の中古カメラ屋などに行きますと、JCIIシールを見る事がありますね。
mso:これから「日本カメラ博物館」を訪れたいと思う人に対して、メッセージがあればお願いします。
JCII:日本の歴史的カメラの観点で言うと、一般向けに発売された最初のカメラの時代から、ほぼ毎年の発売されたカメラを展示しています。ですので、自分が生まれた年に発売されたカメラ、人気があったカメラなどが見つかります。そういった自分の歴史と紐づける見方も楽しめると思います。
また、日本の産業製品の中で、ここまで世界的にシェアを占めている物は珍しいです。そういう意味で、世界に対して”日本が頑張ってきた時代の流れ”が読み取れるので、そういった楽しみ方も出来ると思います。
昔のカメラのデザインは、今でもハッとするような素敵な物があります。また、8mmのムービーなど実際に手で触れるコーナーもあるので、そちらも楽しめると思います。
mso:最後に、石王さんのお勧めのカメラは何ですか?
JCII:ジェムフレックスですね。小さい2眼カメラなんですけど、見た目が可愛く、見れば”ときめく”感じです。
ーおわりー
カメラの種類や仕組みなども、分かりやすく説明
個人的に一番好きな「コニフレックス Ⅱ」
トイカメラのコーナーでは、クスッと笑えるカメラが多い
日本カメラ博物館
「日本カメラ博物館」では、日本のカメラの発展史を系統的に展示されている。
「常設展」に加え、「特別展」では、機能別、国別など、カメラの魅力をあらゆる角度から掘り下げ、余すところなく展示してある。
もちろん、世界中から集まった歴史カメラの名機、名作、珍品も。
「日本カメラ博物館」は来館するたびに新しい発見を見つけることができる博物館である。
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それぞれの写真・フィルム・カメラ・人生に迫ります。
また、写真家藤田一咲氏の作品で見るコマ続きで楽しむ「ハーフ判カメラ」、
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終わりに
皇居の近くの半蔵門にある日本カメラ博物館。
展示されている数百点のカメラの中には、自分の父親が持っていたカメラだったり、僕が初めて買ったカメラなども発見でき、とても懐かしい気持ちになりました。そのカメラを見るだけで、当時の思い出などが蘇ってくるので、不思議な気分になりますね。
そして、「スパイカメラ」、クスッと笑える「トイカメラ」などもあり、カメラコレクターでなくても楽しめる空間ですね。
各種ワークショップや、実際に触れる8mmフィルムなどもあるので、お子様連れのご家族全員で楽しめると思います。
都心のど真ん中にある「日本カメラ博物館」、ぜひ足を運んでみてください。