所有ギターは約300本!ギタリスト・野村義男さんが語る「私がギターを集める理由」。

所有ギターは約300本!ギタリスト・野村義男さんが語る「私がギターを集める理由」。_image

取材・文 / 篠原 章公
写真 / 井本 貴明

20世紀の音楽シーンにおいて、欠かせないアイテムのひとつであるエレクトリック・ギター(以下、エレキギター)。プレイヤーの感性をダイレクトに音へ変換する、シンプルかつアトラクティブなこの楽器の虜になっている方も多いはずだ。今回はギター愛好家として名高い野村義男さん(愛称はよっちゃん)に、その魅力を語ってもらった。

コレクション・ダイバー【Collection Diver】とは、広大なモノ世界(ワールド)の奥深くに潜っていき、独自の愛をもってモノを採集する人間(ヒト)を指す。この連載は、モノに魅せられたダイバーたちをピックアップし、彼ら独自の味わいそして楽しみ方を語ってもらう。

「カタログ少年」だった、10代の野村義男。

MuuseoSquareイメージ

野村さんが初めてエレキギターを手にしたのは、中学2年生のころ。

「TVでCharさんが弾いている姿を見て、エレキギターの存在を知りました。それまでアコースティック・ギターは弾いていたものの、姉に無理やり弾かされていただけで全然興味がなかった(笑)。エレキギターがほしいという想いが高まる中、友人が買いに行くというので、それについていく形で楽器店へ。初めて手に入れたエレキギターは、AriaProⅡのストラトキャスター、コピーモデル。確か78年製だったかな?」

「もう無理矢理というか、買ってきてから家族を説得してお金を出してもらうような感じでね。当時の価格24,800円は一般家庭にしてみれば相当な金額ですから、命がけで手に入れた思い出があります。それからはギターにのめりこむと同時に、楽器店にも足繁く通うようになって。置いてある各メーカーの商品カタログをたくさん持って帰ってきては、次はどれがいいかと眺める、典型的なカタログ少年でした」

AriaProⅡ Stagecaster ST-400N(撮影:植田山月、提供:リットーミュージック)

AriaProⅡ Stagecaster ST-400N(撮影:植田山月、提供:リットーミュージック)

Greco EG-800PR(撮影:植田山月、提供:リットーミュージック)

Greco EG-800PR(撮影:植田山月、提供:リットーミュージック)

「2本目に手に入れたのは、Grecoのエース・フレーリーモデル。レスポールのコピーですね。これはお年玉やお小遣い、家業の手伝いなどをして貯めたお金で買ったもの。当時はお金もないですから、手に入るのはコピーモデル。専門誌などを読みながらオリジナルとの違いや、細かいパーツの知識などをつけるうちに、オリジナルへの憧れが芽生えてくるようになりました」

解説:エレクトリック・ギター(electric guitar)とは?

アンプ(音の増幅機)を通し、電気的に音量を増幅できるギターのこと。エレクトリック・ギターの成立については諸説あるが、1920年代から開発が行われ始め、1932年には最初のエレキギターと言われる「フライングパン」などが製品として発売されている。以後、さまざまなメーカーにより改良が重ねられ、1950年代には現在でも生産が続けられている「テレキャスター」「ストラトキャスター」「レスポール」などの代表的なモデルがリリース。日本では1965年のベンチャーズ来日以降、若年層の間で爆発的に人気が高まり、広く一般に認知されるようになった。

購入の動機は音じゃない――。デビューを機にコレクションへ加わっていくギターたち。

野村さんは1983年、「待たせてSorry」でソロレコードデビュー。同年「The Good-Bye」を結成し、音楽活動を本格化させていく。

「現在のようにギターを集めるようになったのは、デビュー以降になります。レコーディングやライブで多くの機材を購入するようになった、というのも一因ではありますが、基本的には色・形・メーカーなどの違いに惹かれ、楽器店で出会い、物欲に忠実な形で購入します」

「理想のサウンドを求めて……とか、そういったミュージシャンらしい理由ではないんですよ。ギター1本ごとに購入の理由はもちろんありますが、欲しいから買うんです(笑)。楽器店でもほとんど試奏はしません。今年に入ってからも20本以上手持ちが増えていますね」

MuuseoSquareイメージ

ギターに注ぐ情熱には並々ならぬものがある野村さん。購入に至るまでの経緯について詳しくうかがった。

「購入の際はインターネットを介することは少なく、実際に楽器店へ足を運びます。数年に1度は多くのギターメーカーの工場がある、ロサンゼルスへ楽器店巡りに行くことも。現地の気候はおおむね一定で日本のようにジメジメしていないため、ギターもよい状態で保管されている傾向にあります。日本国内やニューヨークより、安価で購入できることが多いのも魅力です」

「やはり出会った時の「アッ」という第一印象が重要。見つけたらその場で即買いが望ましい。私が目を付けたものは、ほかの誰かも衝撃を受けていることが多く、明日買おうと思って翌日足を運ぶと、もうそこにはないということが何度もありました。買うかどうか、値段もあるので悩ましいところですが、縁だと思って、見つけたその時購入するのが私のスタイルです」

コレクションは常に入れ替わるもの。野村流の取捨選択。

お話をうかがっていると、コレクションが増えていくばかりで管理が大変なのでは……と不安にもなってくる。しかし、野村さんのコレクションはおおむね200~300本の間を常に保っているそうだ。

「ギターの入れ替わりはかなり激しいものがあります。2015年に、当時所有していたギターをすべて掲載した「野村義男の“思わず検索したくなる”ギター・コレクション(リットーミュージック刊)」を出版したのですが、ここに掲載されているギターも、現在では100本近く私のもとから巣立っています」

写真集のカバーにもなった迫力満点の一枚。ここに写っている膨大なギターのうち、約100本のギターは、ほかの所有者のもとへ。(撮影:植田山月、提供:リットーミュージック)

写真集のカバーにもなった迫力満点の一枚。ここに写っている膨大なギターのうち、約100本のギターは、ほかの所有者のもとへ。(撮影:植田山月、提供:リットーミュージック)

「どのギターを手放すのかという線引きは難しいものがありますが、仕事で使うために買ったギターというのは手放しやすい傾向がある。反対に、希少価値の高いオールドや、特に思い入れの詰まったものはそうそう手放しません。これまで私の手元にやってきたギターは、トータルで700本を数えるでしょうか。所有しているのは、管理が行き届く範囲の200~300本程度になります」

野村さん所有のエレキギターをご紹介

フェンダーUSA カスタムテレキャスター 1967年製

MuuseoSquareイメージ

最近入手した、コレクション内では新しい部類に入る1本。友人の楽器店にてパーツが欠損した状態で発見、当時はギターの体を成していなかったものの、「俺がこいつをギターにしたいんだ」との想いで購入。ボディに施された黒いバインディング(縁取り)はカタログにも載っていない仕様であり、希少価値は非常に高い。同年製のピックガードなど、欠損していたオリジナルのパーツを装着し、野村さんの手で現在の状態にまで復活した。

フェンダーUSA カスタムテレキャスター 1967年製 試奏動画

ヴェレノ オリジナル 1975年製

MuuseoSquareイメージ

アルミ加工技師、ジョン・ヴェレノによって作られた金属製のギター。使用されている素材から特徴的な音がするかと思いきや、野村さんいわく「音は意外と普通」とのこと。グランド・ファンク・レイルロードのマーク・ファーナーをはじめとした著名なミュージシャンに使用されたことで有名。

ヴェレノ トラベラー 1975年製

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

ネック、ボディともにアルミでつくられているため、モデル名に反して重量感のあるギター。見てわかる通り極端なショートスケールとなっている。20年ほど前、コレクションに加わった1本。前所有者はKISSのエース・フレーリー。上記オリジナルと合わせヴェレノ社のギターは非常に希少なため、この2本が同じ場に揃うことはまずないそうだ。

ポール・リード・スミス CE-22 2003年製

MuuseoSquareイメージ

MuuseoSquareイメージ

都内カスタムショップに依頼したという特徴的な外観、通称「ウルトラQ」は日本に1人しかいないという技術を持った職人のもとで塗装された。浜崎あゆみなどのツアーで使用、15年にわたり一線で音を奏でるタフな1本。このギターを偶然見かけたポール・リード・スミス氏は、いたくこの仕様を気に入り、ヘッド裏にサインをしたそうだ。

ジャージー・ガール ESV-850 2008年製

MuuseoSquareイメージ

日本のクラフトギターメーカー、ジャージー・ガールの特注品。野村さんのかつての愛車「ボルボ 850」を、同メーカーのギター職人、後藤氏にプレゼントしたことから、そのお返しとしていただいたというエピソードを持つ1本。ボディのカラーのみならず、細かい点に至るまでかつての愛車を感じさせる装飾が施されている。

バーンズUK フライト6 1975年製

MuuseoSquareイメージ

通称「イカ・ギター」。超音速旅客機「コンコルド」をモチーフにつくられたこの1本も希少だ。マーク・ボラン(1970年代に一世を風靡したグラムロックバンド「T.REX」のフロントマン)がこのギターを持っている映像を見た野村さんが、その翌日楽器店を訪れると偶然にも発見。購入に至った。映像を見返すとマーク・ボランはあてぶりだったというオチも。この日、野村さん自身初の音出しを行ってくれた。

バーンズUK フライト6 1975年製 試奏動画

ギターは個人所有が許される世界遺産。素晴らしいプロダクトを、次の世代へ。

Gibson Les Paul 1959(撮影:植田山月、提供:リットーミュージック)

Gibson Les Paul 1959(撮影:植田山月、提供:リットーミュージック)

数多くのギターを所有する野村さんだが、中でも1960年前後に製造された数本に関しては、特別なこだわりがあるという。

「半世紀以上前のエレキギターの中でも、特に素晴らしいといわれている数本に関しては、格別の想いで保管をしています。指紋のひとつも残らない状態でケースにしまい、普段見ることはない状態。1959年製のギブソン・レスポールや、1961年製のギブソン・SGレスポールがそれにあたります」

「もちろん手に取って弾きたいのはやまやまなのですが、これらは世界遺産とも言える品。決して存在がなくならないよう、よい状態で保管する義務があると思っています。1958年製のレスポールは弾いちゃうのですが(笑)」

「私にとって、ギターは優れた芸術品である壺と一緒。江戸時代、劣化してしまうから壺に水を入れるんじゃないと最初に言った人はすごく偉くて、ギターにも弾き倒していいギターと、そうでないギターがあるというように考えています。決してしまい込んでしまうわけではなく、要望があれば寸法を取らせてあげたり、資料を提供したりといったことは惜しみません。私が保管していることで、次の時代の新しい何かが生み出されるキッカケになれば、オーナー冥利に尽きるといったところでしょうか」

膨大なギターに触れながら、ギタリストとして活動を続けている野村さん。
次の世代のために、優れた製品はよい状態で保管しておくという考え方は、数十年経てばむしろ一般的に近い価値観になっているかもしれない。
「価値あるものを、後世に伝えたい」という野村さんの想いが、近い将来何かの形で花開くことを期待したい。

―おわり―

レコード・オーディオを一層楽しむために。編集部おすすめの書籍

「300本以上のギターを撮りおろし!ギターファン垂涎の一冊がここに」

File

野村義男の“思わず検索したくなる” ギター・コレクション YOSHIO NOMURA GUITAR COLLECTION

野村義男の膨大なギター・コレクションを一冊にまとめた写真集。総数300本以上をA to Z方式で、ブランドごとにファイルします。大のギター好きとして知られる彼のコレクションは世界中のギターをカタログ化したと言えるほどバラエティに富み、とびきりポップ。ギブソン、フェンダー、グレッチなどコレクター垂涎のビンテージはもちろんのこと、ダンエレクトロ、バーンズなどのビザール、伝説のビルダーによるハンドメイドもの、国籍も年代も不明なアヤシイもの、そして自ら改造を施した実戦向きの逸品などなどあらゆるギターを詰め込んだ宝石箱です。そのフタを開けば、仰天すること間違いなし!

バークリーの基礎トレーニングを厳選! 自由にギターを弾くために!!

51neeuaw35l. sl500

ギター・マガジン 耳と感性でギターが弾ける本 (CD付き)

音楽教育の最高峰、米バークリー音楽大学で教鞭を執るトモ藤田が贈る、“耳を訓練し、感性を育て、弾きたい音を自由に弾く”という新しいコンセプトの教則本です。このようなテーマは曖昧な精神論になりがちですが、本書のエクササイズはバークリーでも実際に使われている、とても具体的で効果が実証済みのものです。各エクササイズはとてもシンプルなのですぐに終わってしまうかもしれませんが、目的はパターンを機械的にこなすことではなく、練習を通して耳を鍛え、感性を身につけていくことです。毎日少しずつくり返すことで、 “メロディをカラフルに感じられた”、“今までより細かいリズムまで聴き取れた”、“フィーリングを込めて弾くことができた”などと気づく瞬間が訪れることでしょう!

公開日:2017年7月29日

更新日:2021年9月8日

Contributor Profile

File

篠原 章公

編集者・ライター・カメラマン。日頃より多数のインタビュー取材を担当。近年はスイーツ全般とシガーを勉強中。

終わりに

篠原 章公_image

野村さんの様に楽器店へ足を運び、自分だけの1本を夢見る「カタログ少年」だったというギターファンは多いのではないでしょうか。一線で活躍するプレイヤーだからこそ、本当に価値を感じるものに関しては「触れない」という野村さんならではのこだわりに感服。当日お持ちいただいたギターについて、少年のような笑顔で語ってくれた野村さんの表情がとても印象的でした。

Read 0%