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包丁に人生を捧げる日本料理人 橋本幹造

美味しい料理をつくる人はきっと、とっておきの調理道具があるに違いない。そんな期待を胸に今回お話を伺ったのは、ミシュランの星を獲得した日本料理の名店「一凛」のオーナー、橋本幹造さん。さまざまな用途に応じた約400種類の包丁を所有するという橋本さんから飛び出す熱い包丁トークとは?

取材日: 2016年4月20日

取材・文/石原たきび
写真/松本 理加

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料理の極意は適材適所の包丁使いにあり

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東京・外苑前に店を構える日本料理の名店「一凛」。店頭にはオーナー・橋本幹造さんの筆による「穀雨 霜止出苗」の書。日本料理は季節を味わうものという思いから、四季七十二候に応じて言葉を書き変えている。
 京都に生まれた橋本さんは高校卒業後に日本料理店で修行。この時に持たせてもらった包丁が彼にとって「最初の1本」だ。以降、日本料理を作るうえでの繊細な作業に欠かせない包丁に没頭する。
 修行時代は手取り3万円からスタートしたが、やがて給料が上がるにつれて様々な包丁を買えるようになると、その奥深い世界にどんどんハマっていく。現在に至るまで長い研究の日々を経て、現在は約400種類もの包丁を所有するという「包丁オタク」だ。
「日本刀から連綿と続く和包丁の文化は、海外からもわざわざ買いに来る人がいるほどレベルが高いもの。用途に応じて材質やデザインも細分化しているし、僕は食材選びと同じぐらい包丁にもこだわっています」
 一人の客に対して、最低8本の包丁を使い分ける。また、仕込みの際に使う包丁と客前で使う包丁も異なるという。
「ご家庭で切れ味の落ちた包丁を使っている方は、僕から言わせれば切るのではなくちぎっているようなもの。ちぎられた肉や野菜は喜びますか?(笑)」
 橋本さんはそう言いながらミョウガを出してきた。
「ちゃんと切るとね、香りが豊かで甘味と苦味も引き立つ。アクやえぐ味だけを取り除ける。切り方は飛行機が滑走路に着陸するイメージ。包丁の重みで動かすかんじです」

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 こんな面白い話も聞いた。彼がおもに使うのは京都の老舗「有次」の包丁だが、刃に彫られた「有次」という銘が鍛冶職人によって微妙に違うのだという。
「好きな職人さんの銘はすぐにわかる。店で見ていてパッと目に留まったものはたいてい、その人の包丁ですね」
 仕込み、営業、締めの作業などで1日の労働時間は18時間。そのうちの多くは包丁と向き合う時間だ。包丁は手入れも命。毎日研いでいるうちに右腕だけがアスリート並に太くなった。
 そんな橋本さんの包丁コレクション、じつに気になるではないか。「道具は見せるもんやないけどね」と言いながらずらりと並べてくれた。

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入り口には橋本さんの筆による「穀雨」(霜の覆いが取れて健やかに苗が育つ頃を表す頃)の書。壁際に活けられた季節ごとの花を含め、七十二候の季節の変化が日本料理の歴史観に合っているという思いからだ。また、アプローチの飛び石も自作で、酔客が足元に注意するよう、わざと歩幅に合わない間隔で配置してある。

橋本さんのこだわり包丁

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左3本が菜切包丁、次の4本が剥きもの用、上は鰻を割くためのもの、その隣はまぐろをさばく用、さらに右に刺身包丁7本、出刃包丁4本、はもの骨切り包丁、羊羹包丁。すべて刃物店「有次」の製品だ。

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こちら、すべて同じ刺身包丁なんです

上から27年もの、18年もの、7年もの。3本とも購入段階では同じサイズだったが、毎日研ぎ続けるうちに、これほど大きさの違いが出る。ちなみに、一番上は橋本さんが日本料理界の門を叩いた際に持たせてもらった「最初の1本」だ。

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上から鰻包丁、羊羹包丁、はもの骨切り包丁

鰻包丁は表面のぬめりを押さえながら骨を切るため、硬い鋼でできている。羊羹包丁は幅が広く、まっすぐに切りやすいデザイン。鱧(はも)包丁は非常に硬いはもの骨を包丁そのものの重さを利用して切れるように、重く鋭い刃が特長だ。

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自宅で使用している包丁も見せてもらった

いずれも高村刃物製作所の牛刃型包丁で、橋本さんが「世界一切れ味が鋭いんじゃないか」と唸る一品だ。写真右も高村製で、今外国から買いに来る人もいるほど注目を浴びている「ダマスカス加工」の包丁。鋼が硬くてしならないが、刃先はやわらかいという特性を持つ。なお、料理人には自宅でいっさい料理をしないタイプと自宅でも毎日作るタイプがいるが、橋本さんは後者だという。

File

「一凛」オリジナル包丁を貝印と共同開発

国内の包丁シェアトップを誇る貝印と共同開発した「橋本幹造 両刃包丁」(全5種)が販売中。コンセプトは「家庭で日本料理を楽しむ」。写真は6月から発売された剥物包丁(1万800円)、刺身包丁(1万6200円)、片鎬出刃包丁(2万1600円)。日本料理における作業での使いやすさを追求し、操作性を向上させるために重心の位置を刃側に持ってきた。

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