<町田忍コレクション>エチケット袋の世界

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文・写真 / 本多祐斗

飛行機に乗った際、エチケット袋が用意されているのをご存知だろうか?エチケット袋とは乗り物酔いをした際に嘔吐袋として使われる、通称「ゲロ袋」である。
そんな各航空会社が用意しているエチケット袋を集めてきた町田さん。今現在、300種類以上にもなる。前回の歯磨き粉に比べて、飛行機に乗る機会を考えれば、とてつもない数である。きっかけは40年以上前に、初めてヨーロッパに旅行しに行った際、当時はお金がなかったため、お土産代わりに持ち帰ったことから始まった。

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何故エチケット袋を集めるのか?

町田さんは一般の人からしたら、「なんでそんなものを集めてるの?」と思わせるものをいくつものジャンルで集めている。では今回紹介したエチケット袋を集める理由はなんなのか...。まず歯磨き粉の時と同じく、同じパッケージの細かな違いに気づくことの面白さがある。特にANAやJALは何種類も集めているので、デザインの変化が楽しめる。
次にエチケット袋から旅行などの思い出が蘇ることだ。いつ、どこへ、誰となど当時のことを思い出させてくれるものである。1972年、アムステルダムからパリへのチャーター便に乗った際に初めてエチケット袋を集め始めた町田さん。そのような思い出もエチケット袋から思い出が蘇るそうだ。

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上段が全日空のエチケット袋。
左から時計回りに1976年、1980年、1991年、1992年、2001年、2015年と並んでいる。

下段が日本航空のエチケット袋。
左から時計回りに1972年、1992年、2003年、2006年、2009年、2014年、2015年と並んでいる。

各社共に、色の規則性はないが、古いものには上の部分にベロがついていることがわかる。

町田さんは取材中、思い出したように「○○のエチケット袋はどこやったかな」と次々と紹介してくれた。大量の中から1つのエチケット袋を見つけ出すのは大変である。航空会社とデザインが結びついている町田さんでなければ見つけ出せない(笑)。

町田さんは取材中、思い出したように「○○のエチケット袋はどこやったかな」と次々と紹介してくれた。大量の中から1つのエチケット袋を見つけ出すのは大変である。航空会社とデザインが結びついている町田さんでなければ見つけ出せない(笑)。

♦︎ここで、エチケット袋(通称「ゲロ袋」)について解説♦︎

導入にも書いたが、エチケット袋とは乗り物酔いをした際に嘔吐袋として使われる袋である。主に飛行機やバスで手に入れられる。英語表記で一番多いのは「Airsickness bag」で、次に「Waterproof disposal bag」、「For motion disconfort」となっている。他には「Barf bag」や「Sick bag」などといった呼称もある。漢字使用圏では「嘔吐袋」と表記されていることが多い。大韓航空では「嘔吐袋」から「衛生袋」と表記が変わっており、中華航空は以前から「清潔袋」と表記されている。

ロイヤルブルネイ航空(1997年)のエチケット袋。「Airsickness bag」と書かれている。

ロイヤルブルネイ航空(1997年)のエチケット袋。「Airsickness bag」と書かれている。

大韓航空(1993年)のエチケット袋。「衛生袋」と」書かれている。

大韓航空(1993年)のエチケット袋。「衛生袋」と」書かれている。

中華航空(1984年)のエチケット袋。「清潔袋」と書かれている。

中華航空(1984年)のエチケット袋。「清潔袋」と書かれている。

10のうち3は自分で集め、7は知人からもらったもの

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300種類以上あるエチケット袋だが、そのうちの3割は実際に自分が飛行機に乗った際に手に入れたものである。他の7割は知人に集めていることを言っているせいか、旅行した際にもらってきてくれるとのこと。特に漫画家のやくみつるさんは、昆虫採集で海外に行った際に珍しいエチケット袋をくれるのだ。中でもマダガスカルとネパールのエチケット袋は珍しい。
何度も飛行機に乗り、エチケット袋を集めてきたわけだが、町田さんご自身使ったことがなく、また使っている人を見たことがないそうだ。乗り物酔いをする人は持ち物としてエチケット袋を持ち歩く人もいるかもしれないが、もしかしたら「エチケット袋がある」ということが安心感を与えてるのかもしれない。

エアマダガスカルのエチケット袋。非常にシンプルなデザインとなっている。

エアマダガスカルのエチケット袋。非常にシンプルなデザインとなっている。

ブッダエアのエチケット袋。嘔吐している様子が描かれており、刺激的なデザインである。

ブッダエアのエチケット袋。嘔吐している様子が描かれており、刺激的なデザインである。

エールフランスのエチケット袋。デザインこそシンプルだが、口の部分が非常に特徴的である。

エールフランスのエチケット袋。デザインこそシンプルだが、口の部分が非常に特徴的である。

エチケット袋から見る歴史的背景とは。

「エチケット袋の紙の素材からその当時のその国の国情が分かる」と語る町田さん。その意味とは、エチケット袋の紙の素材感やデザインからその国の当時の国情が分かるという。
その例がアエロフロートのエチケット袋だ。ソビエト連邦からロシアになってから、一時経済が不安定になった時があり、その際にエチケット袋の紙質が悪くなり、文字もなくなった。その後、安定してからは元のエチケット袋のように、紙質が良く、美しい文字が入るようになった。
このようなエピソードからも分かるが、町田さんのコレクションのすごいところは数だけでなく、70年代から集めているという、歴史的な見方ができるものを持っていることだ。これはただ集めているだけでなく、長い間続けていないと成しえないことである。

ーおわりー

旧ソ連時代(1976年)のエチケット袋。

旧ソ連時代(1976年)のエチケット袋。

ロシア時代(1996年)のエチケット袋。

ロシア時代(1996年)のエチケット袋。

ロシア時代(2009年)のエチケット袋。

ロシア時代(2009年)のエチケット袋。

比較してみると分かるが、国情が悪い時は非常にシンプルなデザインとなっている。紙質に関しては国情が良い時のものはサラサラしており、悪い時のものはザラつきが感じられる。

公開日:2016年5月13日

更新日:2021年10月20日

Contributor Profile

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本多 祐斗

Muuseoにて1年間、編集部のアシスタントやライター、カメラマンとしての業務に携わる。 現在は、外資系企業にて、車の部品サプライヤーのエンジニアとして活躍。趣味は、カメラとドライブ。

終わりに

本多 祐斗_image

今回、初めて町田さんの取材をさせて頂きましたが、お話をしている時の町田さんの表情がとても楽しそうでした。町田さんは飛行機に乗った際、エチケット袋だけでなく、トランプやシールなども入手してきたそうです。(笑)それも客室乗務員がいるところまで自分で出向き、そこでこそこそっと頼むという。こんなエピソードを町田さんみたいに語れる人はそうそういないでしょう。どんな場所でも「何か集められるものはないか」という探究心から生まれる行動なのでしょうね。

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