「着こなし」とはパーソナリティであり、表現であり、クリエイティビティだと思います。つまり、How to本を読んだだけでは絶対に獲得できないものです。26歳で製薬会社のMRから転職してファッションの世界に飛び込んだ私は、靴についてはもちろん、その着こなし方についても勉強をする必要がありました。実践的にさまざまなショップへ足を運ぶと同時に、インターネットが無かった当時最も有効な情報収集の方法であった書籍を頼りました。
最初は靴の本を読んでいたのですが、表層的な知識ばかりが蓄積され一向に「こなし」を会得できた実感がありませんでした。「こなし」は知恵であり、マニュアルでつくられるものではなく、あくまでもパーソナリティの発意からくるものだと気づいたのはその時です。
そこで読んだのがこの「MEN’S CLUB BOOKS」シリーズです。しかもスーツや靴についての特集号ではなくその周り。スーツや靴のスタイルを完成する小物(ネクタイ、シャツ、コート、ブレザー、アクセサリー)についての特集号です。これらの小物についての造詣が深くならないことには、スーツや靴の着こなしなど体得出来ないと信じ、本当に隅から隅まで何度も何度も読みつくしました。
素晴らしかったのは「REFERENCE(雑学事典)」の項目です。映画や小説を参照しつつ、先人の洒落者たちの着こなし(パ―ソナリティ)が写真やイラストで紹介されており、想像を掻き立てられました。例えばブレザーであればフレッド・アステアの着こなし。その後写真集を購入しました。
特集号ごとの巻末に纏められた「GLOSSARY(用語事典)」も面白かったです。「事典とは調べ物をするために読むもの」というイメージを覆される構成で、読み物として成立しています。用語というのはただの呼び名ではなく、そのもののエッセンスであることを知りました。
いずれにしろ、このシリーズを通し小物の構造や起源などの本質を理解しました。そのおかげでスーツの着こなしや靴の選び方といった私のパーソナリティ、表現が出来上がり、その先の創造の土台となっています。
—おわり—