第一回 はじめまして。いち素人ですが、靴を作っています。

文/オダマキミホコ

「革靴をつくってみました」 シリーズ 1 回目。

なんとなく靴作りを始めてみた、いち素人です。この連載では、履ける靴を一足仕上げるまでをドキュメントスタイルでお伝えしていきます。

靴制作の過程を見てもらう中で、靴マニアじゃなくても「なぜ、いい靴はこんなにも高いのか?」の疑問、さらには靴を愛したくなるヒミツがわかってもらえるのではないかと思います。

靴の裏側(というと大げさですが)がわかると、靴を見るのが楽しくなる!(購入に至るか否かはまた別の話…) まずは、僭越ながら、私の自己紹介と靴作りの魅力をお伝えします。

靴は自分の手で作ることができます。作ろうと集まる人は老若男女幅広い

なぜ、靴を作ろうと思ったのか…。今でもなんでだったんだろうなぁとはっきりしないのですが、始めたのは突然で、しかも特別靴が好きだったわけでもありません(おしゃれは好きです)。

革靴にいたっては持っていたのはラクに履けるスリッポン型だけ。そもそも最初は革カバンを作ってみたくて、工房などで開催されている「手作り教室」みたいなところを探していました。

が、どこも作業時間が短いんですね。“1回2時間”(週2回だけど)、なんて何ができるんだろうとブツブツ言いながらながらネットでとにかく探しまくり…。たどり着いたのが靴の専門学校でした。

学校がお休みの土曜日に一般の人に教えてくれるという講座で、時間は朝の10時から夕方4時までみっちり6時間。受講条件は道具を購入して揃えられること。授業料は半年で11万、道具代は1万8000円くらいだったので、趣味というにはそこそこハードルが高いお値段でしたが、迷わず申し込みました。そしてすでに目的がカバンじゃなくなってましたが、なんだかおもしろそうだという予感はあったんです。

工房で教わりながら、初めて自分で作った作品

工房で教わりながら、初めて自分で作った作品

左が外羽根(羽根=紐を通す部分が外側からつけられているもの)、そのあとに右の内羽根(羽根が内側からつけられているもの)を作りました。まずは、基本のスタイルからでした。

ひと工程にひとつ。靴作りにはとにかくたくさんの道具が必要です

初めて工房で道具を見たとき、ズラリと並んだ工具にテンションがあがりました。道具入れも好みのモノ(ですが、いかんせん中の整理整頓がまるでダメ…)。似たような道具もありますが別物です。

柄のあるものは柄を自分でつけて、研ぎ石でひたすら刃を研ぎます。包丁は使えるようになるまでに4時間ほどかかりました。包丁の切れ味は革の切り口に差が出るので今でも作業前に包丁を研ぎます。

ちなみに刃物系の道具は自分で刃を作る必要があるものが多く、いろんな形の鋼素材を研いで研いで研ぎまくって作ります(たまに火であぶって曲げたりします)。砥石とヤスリ、ライターは友達です(笑)。靴そのものを作るのもおもしろいのですが、道具を作ったり手入れをしたりカスタムしてみたりがまた楽しいんです。

靴に限って言えば、いい職人は道具作りの腕も整理整頓も一流です。少なくとも私が出会ったすばらしい靴を作る職人さんはみなそうでした。道具の手入れ、整頓がきちんとしている工房の職人さんは信用できると思います。また同じ道具でも使いやすいようにそれぞれアレンジが加えられていて微妙に違ったりするので、比べてみるとおもしろいですよ。各道具の詳細は、また次回以降で触れていきたいと思います。

道具はこんなに。でも、もっともっとほかにもあります。道具をそろえるのも楽しい。

道具はこんなに。でも、もっともっとほかにもあります。道具をそろえるのも楽しい。

ひたすら研いだ包丁。柄も自分が作業しやすいように部分的に削っています。

ひたすら研いだ包丁。柄も自分が作業しやすいように部分的に削っています。

こんなパーツいるのかな?と思うことも。平面から立体を作っていくプロセスがおもしろい

靴を作るにあたって必要なものは、先に触れた道具類、革、そして木型です。

木型といっても今はほとんどが樹脂製で、見た目にはわかりませんが、中身がギュッと詰まっているのでかなり重いです。自分だけの一足を作るならひと組あれば十分ですが、同じデザインでもサイズを変えて作りたいとなると別の型が必要になります。

靴を作ることを生業としている人たちの場合、それはそれは膨大な数の木型が必要になります。オーダーメイドの場合、まず求めている靴の形に似た木型をチョイスし(もちろんゼロから作る場合もあります)、そこからその人に合わせて削ったり盛ったりして微調整していくのです。

そして、靴はデザインにもよりますが、本当にたくさんのパーツからできています。平面で見ているとなんだこれ?と思う形のモノばかりですが、全パーツを縫い合わせて木型に合わせてみると、ピタッ!とおもしろいようにはまるんですね。もちろん、そのためにはきちんと設計された型紙が必要なのですが…。

その型紙の作り方もいろいろあって、ひとそれぞれ。デザインも含めるととても時間が掛かるし、他の人には教えたくない企業秘密の部分です。

作り方でもっともスタンダードなのが、木型に紙を貼って靴の仕上がり線を描き、その紙を平面に落とし込んで各パーツを作る方法。なので正確には立体→平面→立体という作業になります。それも、今後の連載でもっと詳しく紹介します。

MuuseoSquareイメージ

樹脂製の木型。そのままでも使えますが、デザインや足の形にあわせて木型を削ったり革を張ったりして形作ります。底の革は中底になります。

MuuseoSquareイメージ

型紙を革に写して、包丁で裁断していきます。線の外側を裁断するのか内側を裁断するのかでサイズが変わってしまいます。1ミリでもずれると他のパーツと合わなくなるので、正確(性格も出る)性が問われる作業です。

バラバラにしてみないとわからない。見えないところに手を掛けすぎるのが靴

靴作りの作業は、ざっくりですが、足を包み込んでいるアッパー部分と足裏の底部分に分かれます。

凝っているのが目で見てすぐわかるので、装飾が華美だったりパーツが多かったりする靴が高そうだなと思ってしまいがちですが、底部分のグレードも価格を大きく左右します。

靴の底部分は中底(足裏が当たる部分)、本底(地面が当たる部分)、ウェルト(靴を囲んでいる縁)、かかとで構成されていて、さらに中底と本底の間には中モノ、シャンクと呼ばれる素材が入って(いたりいなかったり)います。

いいところなのか悪いところなのかはさておき、靴は手が掛かっているところほど見えにくいという特徴があります。ある靴の専門誌では、何十万もする有名な革靴をバラバラにして、中身を解説していたりします。バラバラにしてしまうと元には戻せないので、普通だったらそんなことできません。まぁなんと大胆なことをという感じです。

でもそうしないと中底と本底の合体が手縫いなのか接着剤でくっつけただけなのか、そして先に触れた中モノのグレードや有無がわからないんですね。

当然手縫いのものは値段が高くなるし、中モノの素材や量でも値段が変わってきます。アッパーがシンプルでも、靴底にとんでもない手間が掛かっていたりするとやはり高いわけです。(使われている革そのものが上質だからという理由もありますが)と、見えないところに手が掛かっている靴(一般的に高い靴)は履き心地がやっぱり違うんです。

思い起こせば数年前、会社員時代の上司が、ことあるごとに脚を組み、靴をながめながらハンカチでつま先を磨いて(愛でて)いたっけ…。実際に作ってみるとそうしたくなる気持ちも理解ができるようになるんですね(やらないけど)。

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中底の革を付けた状態です。アッパーと中底を合体させるため、縫うための溝を作った状態です。実際にどのように合体させていくのかは、連載で紹介していきます

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靴のガイドライン部分は基本的に折り込みという作業を行います。革の端を薄くすいて折り返す作業です(切りっぱなしのデザインもあります)。飾りもパーツ同士をくっつける前に行います。穴が空いたところの色が何色に見えるかもデザインによります。色を変えたデザインもあったりします。

出来の良し悪しは置いておいて…。素人でもこれだけの靴が作れます

最初に通った講座は1足が完成後、学校の都合で講座がなくなってしまったので、また新たに工房探し。最初同様、1日の作業時間が多いところを探しました。

私の場合、自分だけの一足を作りたい!のではなく、靴の作り方を知りたかったので、続けて長い時間作業できる方がよかったのです。

新しい工房に移って今までに私が作った靴は約3年で13足。第一号は外羽根、次いで内羽根、ストラップ、チャッカーブーツ(くるぶし丈で2~3組の紐穴を持つ革靴)、同じく子ども用、ショートブーツ、同じく子ども用、パンプス、ワンストラップパンプス、縫い割りモカ、フラットシューズ、ワンストラップシューズ、ワンストラップシューズ改良版、内羽根のブーツ、スリッポン。見直してみたことがなかったので、結構な数あってビックリしました。

靴の形で覚えておきたいのが紐付きの左のふたつ。ちなみに木型は一緒です。一番左は外羽根(ブラッチャー)で羽根と呼ばれるパーツの靴紐を通す始まりの部分が、靴紐の下にある甲部分の革の外側に縫われているタイプ。左からふたつ目が内羽根(バルモラル)で、羽根が甲部分の革の下にもぐりこんでいます。内羽根の方がスマートで華奢な印象です。

どちらも基本形で、ビジネスシューズには必ずあるデザイン。これを知るだけでも電車の中でビジネスマンの靴を見るのが楽しくなります。気にして見るようになると、底の付け方が手縫いなのか接着なのか、ひいては高いのか安いのかもわかるようになるんです。

MuuseoSquareイメージ
左はショートブーツと普通のシューズの中間くらいの長さが欲しくて設計した一足。右はストラップが甲の部分にくるようにすることにこだわりました。底付けはどちらもノルベジェーゼという製法です。

左はショートブーツと普通のシューズの中間くらいの長さが欲しくて設計した一足。右はストラップが甲の部分にくるようにすることにこだわりました。底付けはどちらもノルベジェーゼという製法です。

左はチャッカーブーツ。底付けはノルウィージャン製法です。右はショートブーツ、内羽根にすることにすごくこだわったので、アッパーの縫製に手こずりました。底付けはノルベジェーゼという製法です。

左はチャッカーブーツ。底付けはノルウィージャン製法です。右はショートブーツ、内羽根にすることにすごくこだわったので、アッパーの縫製に手こずりました。底付けはノルベジェーゼという製法です。

後々まで愛されるのは丁寧な仕事によって仕上がった一品。基本に戻って新たな1足を作りたい

そして、作り出して気がついたことは、私は「靴が好きなのではなく作ることが好き」だということ。だから作っても作っても満足はなく、あれもこれもやってみたいと思うのですが、そのペースに作業スピードが追いつかない。

さらに作りたい靴、具体的なデザイン案がないので、できるだけアッパーに手が掛からない(パーツが少ない)デザインで作っていました。

でもパーツが少ない靴ほど型紙を作るのが難しいことがわかったりと新たな問題も見えてきて、作業がストップしてしまう時期がありました。そんな時に自分が作った靴を改めて見直してみたら、1足目、2足目の靴の出来がいいことに気がつき、クラシカルなデザインは時を経ても美しいし、基本って大事だなと実感した次第です…。

あれやこれやと書きましたが、素人でも履ける靴は作れるんです!そして私はこれまでの反省も込めて、今年はクラシックなデザインのウィングチップシューズに挑戦してみようと思います。作業工程も含め次の作業は次回に続きます。

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先輩が作ったダブルソールのウィングチップシューズ!美しい!!このくらいの完成度を目指したいところです。

公開日:2015年6月11日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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オダマキミホコ

会社員からフリーのエディターになって3年。雑誌、Webで企画や編集の仕事を行っている。退職をきっかけに社会人1年目からの目標だった“手に職を付ける”ため、編集業と並行して手作り靴の修行中。

終わりに

オダマキミホコ_image

今回の企画で、今までどれだけ自分の作ったものを見返していなかったのかということが明らかになりました。見直しって大事ですね…。靴好きの人に向けてというよりは、「自分では作らないけど、制作の過程を見てみたい」という人にぜひ読んでもらいたいページです。私は、いわゆる“靴マニア”でもないのですが、だからこそ、いいことも悪いことも書けるかなと思っています。また、世の中に出ている製品はピンキリなので、非力ながら「靴の価値」みたいなものもお伝えできたらと思っています。

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