個性豊かな足のお悩みとぴったり合う靴選び

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取材・文/山本教子
写真/日下部美沙

日本の革靴ブランド「chausser」プレス・山本教子さんによる革靴連載がスタート!

これまで健康靴販売・加工、インソール製作、修理などを経験し、誰かの役に立つ革靴づくりを学んできた山本さん。革靴に携わるさまざまな方のインタビューを通して、革靴を気軽に楽しむ方法から奥深い魅力までをお届けしていきます。

初回は、デザイン豊富で選択肢の多い女性の靴選びについて、実体験を元にさまざまなお悩みを解決する手段を教えていただきました。

靴は「その人らしさ」が現れる特徴的なアイテム

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物心ついた時からなぜか靴が好きでした。

靴にはいろんなデザインがあり、カラフルでその人らしさが現れる特徴的なアイテム。同じ靴でも合わせ方によってイメージがガラリと変わる……それが面白さや魅力に思えるのかもしれません(好きな靴・靴の好きなところについてはたくさん話せるのでまた別の機会があれば是非)。

ただ、靴はメーカーや作りによってサイズ感に差があったり、パンプスやレースアップシューズ、スニーカーなど、靴の種類による適正サイズの違いがあったりして、ポイントが掴めないと苦労するもの。

特に女性の靴は、豊富なデザインやトレンドからなる幅広い選択肢があります。また、お顔が皆さん違うように足自体にもそれぞれ特徴があるため、予想以上に「自分らしさ」が影響するという側面もあり悩みも尽きません。

読者の皆さんの中にも、靴選びに度々悩まされているという方がいるのではないでしょうか。

というのも私自身、昔から足のトラブルが多く、手探りでの靴選びには時間と神経を使っていたうちの1人でした。靴業界に携わっていくうちに、選ぶポイントを知ってしまえば迷子になることも少なくなり、もっと楽しく付き合えるようになることを学びました。

そこで、まずは靴選びについてのお悩みを少しでも軽くすることができればと思い、大切な要点をまとめました。

足の個性と正しい履き方を知ることで、新しい靴と出会える

冒頭で「皆さんお顔が違う」と触れたように、足にも人によって様々な特徴があります。

よく耳にするキーワードは、甲高、甲薄、カカトの小さい方(日本人に多いと言われています)、幅広、幅細など。他にも見た目は細い足でも体重がかかると広がってしまう柔らかい足であったり、筋肉質で硬さのある足だったり……。挙げるとキリがないのですが、ここでは実際にあったお悩みエピソードとその解決方法をご紹介したいと思います。

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CASE 01「幅広・甲高だから、柔らかくてゆったりした靴じゃないと合わない」

これはお店でよく聞くお悩みのひとつです。

実際にこの方の足を測ってJIS規格*のサイズ表に当てはめてみると、ワイズはCとDの間で「幅広」ではないのです。そして、甲もそこまで数値は高くありませんでした。

ご自身の足を「甲高・幅広」と思い込んでしまう理由の多くは、実際の足よりも余分にゆとりのある靴を履いてしまっていることです。大きめの靴を履くと足が固定されず、靴の中で前にすべって圧迫を感じてしまいます。

最近は健康靴店や百貨店など、測定できるところも増えています。実際に測定していただくと、これまで認識していた足の特徴とは誤差があるかもしれません。ご自身の足の個性をきちんと知ることが、足にぴったりの快適な靴を見つける近道です!

*JIS規格……日本工業規格(Japanese Industrial Standards)の略で、さまざまなジャンルで基準が定められていますが靴の場合は足長・足幅・足囲などの計測数値を元に実際の足のワイズを割り出すことができます。

CASE 02「左右差があり片方だけ靴が合わない」

数値の差は皆さんそれぞれですが、ほとんどの方が左右の足の大きさに違いがあります。

私自身も左右に差があるので「左右対称に作られている靴」だからこそ、片方だけ合わないということがあります。

左右の長さを整えるには、サイズそのものを変えるよりインソールやタンパッド(甲に貼るパッド)を用いるのがおすすめです。もし幅だけがタイトに感じる場合は、ストレッチャーで幅にゆとりを出すのも有効です。

CASE03 「市販の靴がなかなか足に合わない」

20代前半の頃に靴工房で測定してもらった際、職人さんから「足自体のバランスから見ると24cmで良いが、足の趾(指)が長いのでつま先にゆとりを取るためには、市販のものでは24.5cmを選ぶしかないかもしれない」と言われました。

私自身も自覚していた足のサイズは24.5cmだったのですが、履いていると必ずというほどサイズが緩くなって履きにくくなり困っていました。まさかそんな足の特徴があるとは思ってもおらず驚きました。

しかしながら、当時私の身近には足の特徴に合う市販品は少なく、新品の時はなんとか履けたもののすぐに緩みが出てインソールの調整が必須ということが多かったのを覚えています。

またその逆もあり、過去の私がまさにそうでしたが、女性はつま先にあまりゆとりがないバレエシューズやパンプスに慣れていることもあるのか、実際の足のサイズに対して小さめの靴を選んでいる傾向が……。幅のないふにゃふにゃ足さんはぴったりの靴を履こうとすると、爪先のゆとりよりも横幅のフィット感を重視してしまうことが多いようです。

当時はまだ「捨て寸(後述します)」なんていうワードは知らなかったのでぴったりなのに足が痛い、でもサイズを上げると緩いというループによく陥っていました。

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左右差や趾の長さに加え、体重がかかると潰れてしまう柔らかいふにゃふにゃな足をしているので、私自身1番安心して履けるのはしっかり固定され、調整ができるレースアップシューズやストラップシューズです。ローファーなども大好きですが、基本的に甲に貼るパッド(タンパッド)をつけています。

CASE04 「しっかり測定して靴を選んでもしっくりこない」

足の特徴を踏まえて選んでもしっくりこない場合は、「履き方」に要因があるかもしれません。サイズをしっかりと確認して購入した靴も、履き方がルーズだと靴の中で足が遊んでしまい、フィット感が損なわれてトラブルにつながる可能性があります(もちろん、履いているうちに靴自体に緩みが出てきたり、消耗して形が変化したりしている場合もあります)。

履き方のポイントは、踵をしっかり合わせること。つま先を上げて踵を床にトントンとするだけで、足が正しい位置にきます。紐靴は、結び目の下に指が入らない程度を目安に結ぶことも大切です。きちんと履いてからお出かけすると、長時間の歩行もより快適さを感じられますよ。

靴を履く際に「踵でトントン♪」を思い出してみてください。

靴の種類ごとに選ぶポイントを押さえよう

ひとくちに「靴」といっても、種類や製法によって選ぶポイントが変わります。今回は、選び方を混同すると厄介な革靴、パンプス、スニーカーの3種類を書き出しました。

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革靴(主にレースアップシューズ)

革靴にはいろんな製法がありますが、共通してよくお伝えしているポイントは2つ。

1つ目は「幅はぴったりめを選ぶこと」。本革でも素材によって伸びにくいものもありますが、基本的に馴染むと横幅はゆとりが出るので新品の時は「横幅ぴったり」で選びます。グッドイヤーウェルテッド製法などで作られている靴は、靴底の中にコルクなどの詰め物が入っていて馴染むと横幅にゆとりが出やすいものもあるので、特に幅はぴったりめがおすすめです。

2つ目は「つま先には最低でも指先が当たらない程度のゆとりがあること」。つま先のゆとりを「捨て寸」と呼びますが、紐をしっかりと結んでも歩く時に足は靴の中でわずかに動きます。そして、歩行時に土踏まずはバネのように伸縮し、足は前後に動くのでそのためのゆとりが必要となります。

ちなみに革靴のサイズは、男女で足の特徴に差がある部分もあり、メーカーによってはそれを木型に反映させて靴の幅や足囲(甲の周径)のバランスを変えていることがあります。心配な方は、お店の方に確認しておくと良いと思います。

パンプス

パンプスは、①親指の付け根、②小指の付け根、③踵の3箇所のホールド感があることがポイント(①②は指の付け根の最も張り出している部分を差します)。

ホールド感と圧迫感の見極めは少し難しいですが、「指が曲がっていないか」「踵が浮かないか」を目安にしてください。

素材により若干の差はありますが、新品時と比べると履き緩みが出てくるので、履いていくうちに変化が出てきた場合はインソールなどを使って靴の中で調整することもできます。

また革靴やパンプスの場合は、いざ履きはじめるときに何度か短時間のお出かけで様子を見る「慣らし履き」をすることもポイントです。数回履いて違和感が残るようであれば、購入したお店やお近くの修理屋さんに相談して微調整してもらいましょう。

スニーカー

つま先に捨て寸をとる、紐やベルトなどの調整具で足を踵側に固定するという基本的なポイントは革靴と同じですが、スニーカーの多くは踵や甲周りにクッションがたっぷりと入っていますよね。革靴やパンプスなどと比べると、サイズ感は1〜1.5cmほど大きめのサイズを履いている場合が多いです。よって、スニーカーと同じサイズで他の靴を選ぶとフィット感が異なることがあるので注意してみてください。

どの靴にも共通して言えますが、靴の種類に合わせてよく履くソックスやストッキングなどを持参されると、よりしっかりと選ぶことができます。

靴や足の個性を知れば、もっと楽しく永く付き合える

今回は改めて足と靴の関係、そして永く付き合える靴選びのポイントについて焦点をあてましたが、選んだ靴を大切にするためのお手入れや修理についても気になりますよね。

次回以降は会いに行きたい、話したいと思う革靴のプロフェッショナルの方々にインタビューし、その方のお仕事や革靴との出会いのエピソードとともに大切にするためのコツなどを教えて頂きます!

どんな方が登場するのか楽しみにしていてください。

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ちなみに冒頭で、「物心ついた時から靴が好きだった」と書きましたが、いまだに革靴を好きな理由がまだはっきりとわかりません。ただ、今につながる最初のきっかけはありました。

もしよかったらこのまま少しお付き合いください。

幼少期、母が通っていた油絵教室のおじいちゃん先生からちょっとしたラクガキを褒められたことをきっかけに「描くこと、作ること」に興味を持ちました。10代になっても「もっと学びたい」という思いは変わらず、デザインの専門高校に進学。

在学中は様々なジャンルのものづくりを経験しました。

立体製作が好きだったことから将来の方向性を絞り、最終的には元々好きだったけど悩みも多かった靴に興味を持ち、「作る」ことにチャレンジしようと決めました。ただ靴を作るだけではなく、せっかくなら誰かの悩みを解消できるような「役に立つ靴作り」を学びたいと思い、整形靴の専門学校へ。

その後は紆余曲折ありながらも、気がつけば靴業界で長くお世話になっています。

長くいても日々新しい発見があったり、そう思えばやはり悩みが尽きなかったりと未だミステリアスな「靴」という存在。それでも(だからこそ?)魅力的な存在である靴と個性豊かな足。その2つが合致することで、気持ちがパッと明るくなる瞬間があります。それはまさに化学反応で、そんな場に立ち会えることが嬉しくて仕方ありません。

そして、その化学反応をもっともっと多くの方に味わってもらいたいと思っています。

ちなみに、連載名に含まれている「シューサークル」という言葉。一部の靴が好きな方はすぐに、愛着を持っている靴を履いてみんなで輪になって片足を出し写真を撮っている光景が目に浮かぶと思います。

そこに集まる人たちには「靴好き」という共通項はありますが、年齢や性別、趣味嗜好も異なります。それぞれの楽しみ方があり、初めての人も気軽に参加できる素敵な空間。

靴は好き、でももっと楽しんで選べるようになりたい。愛着を込めて永く履くことに興味はあるけれど、どうすればよいのかわからない。そんな方でも楽しそうだな、ここから始めてみたいなと1歩踏み出し参加できる機会にしたいという思いを込めました。

今回ご紹介した内容はお店で実際にお客様にもよくお話しする内容ですが、きっとそれ以外にも気になることがありますよね。今まで答えを見つけられず諦めていたことも、この連載を通して解決に近づけられたら嬉しいです。

次回以降も宜しくお願いします!

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公開日:2022年5月18日

更新日:2022年5月27日

Contributor Profile

山本教子

日本の革靴ブランド「chausser」のスタッフ/プレス。小さい頃からものづくりに興味があり、デザインの専門学科高校へ進学。その後誰かの役に立てる靴作りを勉強したいと思い、日本唯一の整形靴の専門学校へ。 卒業後は健康靴販売・加工、インソール製作、修理なども経験したのでより多角的に靴や足の事を考えられるようになりました。 ちょっと興味はあるけど、革靴って難しそう……そんな人達が気軽に、もっと靴のことを好きになれそうな情報をお伝え出来たら良いなと思っています。

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