心惹かれるヴィンテージの万年筆インク瓶|堤 信子さんが語る、受け継がれていくStationery

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取材・文/倉野路凡
写真/新澤遥

「文房具って小さい頃は自分自身を自由に表現できた数少ないアイテムだったと思うんです。それが大人になるにつれ、時計やバッグなど興味を持つものが変わり段々と疎遠になっていく。大多数の人はそうなると思うのですが、私はいまも変わらず文房具にときめいています」と言うのは、エッセイストでありフリーアナウンサーの堤信子さん。

文房具好きは業界でも有名で、海外のアンティークから職人の技を感じられる逸品までさまざまな文房具を集めているそう。当連載では、そんな堤さんが愛用・所有している貴重な文房具たちを、それぞれに繋がる文具愛ストーリーとともにご紹介していきます。

今回は、海外の雑貨屋や蚤の市で見つけたヴィンテージの万年筆インクにまつわるお話を伺いました。

ヴィンテージのインク瓶は文具の中でもとくに“愛でる文具”

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——今回は万年筆の中身の話。インクについてお願いします。

もちろんインクも大好きなのですが、むしろそれを入れているインク瓶(インクボトル)に惹かれます。とくにヴィンテージのインク瓶の佇まいが好きです。形が凝っていますし、ラベルや箱のデザインも素敵ですね。文具のなかでも“愛でる文具”なのかなと。

——お持ちいただいたのは国内製品と海外製品のインク瓶。なかでもモンブランが多いですね。

現在のモンブランは直線を強調したフォルムでモダンな印象ですが、古いものはどこか可愛らしいです。ラベルも黄色ベースに「MONTBLANC」の赤色の印字がよく映えていると思います。モンブランだけではないのですが、昔のインク瓶は小ぶりなものが多いです。旅行の際に持参したのかもしれませんね。

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——モンブランの通称「靴型インク瓶」も、ネクタイのような末広がりの形でユニークですね。国内のものだとプラチナとパイロットに混ざって、丸善があります。丸善と言えばヨーロッパの万年筆をいち早く輸入し、日本に万年筆を広めた老舗ですね。

丸善はオリジナル万年筆のアテナとオノトモデルが人気ですが、インクもファンが多いです。最近、戦前のパッケージを復刻したアテナインキが出ていますが、こちらがそのオリジナル。レトロ感漂うパッケージのロゴと丸みを帯びた瓶が魅力です。

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——とくにお気に入りのインク瓶はありますか?

こちらのエルバンのインク瓶です。ご存知のように、エルバンは1670年パリで創業したインクとシーリングワックスの老舗ブランドです。イタリアで購入したのですが、そのお店は小学生が通うような文具兼雑貨屋さんでした(笑)。ただ店主が古い文具が好きで、このエルバンのインク瓶が4本並んでいたんです。青色が2本、紫色が2本、未開封のデッドストック品のようで、箱の状態も良く、即買うことにしました。正確な製造年代は不明ですが、おそらく1900年代半ばのものかと。

その後、エルバンを取り扱う日本の代理店の社長と会う機会があり、古いエルバンの話をしたところ、興味津々で。というのはパリの本店のショールームを改装中で、それに合わせて古いエルバンのインクを探しているところだったんです。

——たいてい老舗ブランドはアーカイブがありますよね。

そうなんですよね。でも、なぜかエルバンは過去のインクをあまり保管していなかったようです。その話がパリの本社に伝わり「本社まで遊びに来てください」とご連絡をいただき、後日エルバンのインク2本(青色1本、紫色1本)を持って行きました。運良くこのインク瓶は未入手だったため、差し上げることに。4本買ったのも何か運命だったのかもしれません(笑)。そのお礼にと、工場の見学とレターセットをいただきました。私のコレクションが役立つなんて思ってもいなかったです。とても光栄な出来事でした。

蚤の市で見つけたレターセットから当時のことに思いをめぐらす

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——ヴィンテージ文具が好きな堤さんは蚤の市にもよく行かれるそうですが、どんなものを買われるのですか?

パリやロンドンの蚤の市に行くことが多いのですが、文具はお店ごとに少しずつあって、ポツンポツンと点在している感じです。食器の間に隠れていることも。それを根気よく見つけ出すのが楽しみなんです。今日持ってきた小さなトランクはロンドンの蚤の市で買ったもので、ポケットの中にレターセットが入っていました。昔の人たちはここにレターセットやインク瓶などを入れていたのでしょう。

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——古い封筒やハガキも好きなのですね。

もちろんです(笑)。この封筒に記されている消印を見てください。「FIRST DAY OF ISSUE」の文字がありますよね。これは記念切手の発行日にその切手を封筒やハガキに貼り、発行当日の消印を押してもらったものを「FIRST DAY OF ISSUE」あるいは「FIRST DAY COVER」と呼んでいます。世界中の熱心な切手コレクターが集めている珍しいもので、デンマークやオーストリア、ベルギーなど、いろんな国の「FIRST DAY COVER」があって、見ているだけでワクワクしますよ。

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他にもタイプライターの文字や手書きの文字、切手などを見ていると、当時はどんなことを思って書かれたのだろうと想像が広がります。消印が押され誰かに送られた手紙は「エンタイア」と呼ばれ、欧米の骨董市では人気が高いアイテムです。海外の蚤の市で出会ったときには必ず連れて帰る(買う)ようにしています。一期一会ですからね。

——堤さんは、幼少期に目覚めた包み紙から始まって、レターセットやハガキなど、やはり“紙”全般が大好きなのですね。本日はありがとうございました。

堤信子さんの著書はこちら

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旅鞄いっぱいのパリふたたび

フリーアナウンサーとして活躍する著者は、旅好き、そしてステーショナリー好きとしても知られています。そんな堤さんが、かれこれ20年以上通い続けているパリで、大好きな雑貨屋さんやステーショナリーを写真とエッセイでつづる本。パリに出かけるときは必ず立ち寄るというお気に入りのショップや、ゆっくり手紙を書くのにぴったりなカフェ、掘り出し物が見つかるという古紙市場、パリならではのおしゃれなショッピングバッグなどを紹介。また旅の達人・堤信子ならではの、旅土産の活用法なども伝授。

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堤信子のつつみ紙コレクション

人気テレビ番組でその紙マニアぶりをいかんなく発揮し、一躍話題となった紙収集家の堤信子が40年かけて集めた紙1046点を一挙公開!

包み紙、紙袋、パン袋、紙箱、切手、カード、エンタイア、レターセット、ビューバー、古書、アジェンダ、コースター、地図など、国内や海外の旅先で出合った、デザインが秀逸なもの、色がきれいなもの、触り心地がよいもの、国や時代の生活文化を反映するものなど、ありとあらゆる紙もののコレクションをたっぷりと紹介します。

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公開日:2022年3月9日

更新日:2022年4月8日

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倉野路凡

ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。

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