Brand in-depth 第二回 アナクロノームの「10年着られるデニム」と体験型付加価値への挑戦

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聞き手/成松淳 文/横山博之

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ミューゼオ代表の成松が気になる様々な分野のブランドを担われる方々に、ブランドの歴史やブランドを成すものは何なのかを尋ねる「Brand in-depth」。
第二回は、デニムブランド「アナクロノーム」。
『次なる時代の新たなヴィンテージの創造』というコンセプトを掲げ、一本一本こだわったデニムづくりはどのように誕生し、これからどこへ向かっていくのか。
アナクロノームのディレクターを務める田主智基さんにお話を伺います。

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田主智基さん

1970年、岡山県倉敷市生まれ。1990年に桑沢デザイン研究所ファッションデザイン科を卒業。1996年、岡山市平和町に『バランス岡山』を出店し、オリジナルブランド「バランスウェアデザイン」を設立。同ブランドをディレクションする一方でアパレル業界の消費至上主義に懐疑心を抱き、「残るモノを作りたい」というシンプルな答えに回帰。その想いを形にすべく、2004年にプライベートブランド「アナクロノーム」を設立した。

“消費至上主義”に対する疑念がブランド立ち上げのきっかけに

意識が高まり続けるサステナブル、コロナ禍がもたらしたニューノーマル、紛争に起因する世界経済の変化。激動の時代を迎え、これまでの当たり前が通用しない世界がやってこようとしています。それは、私たちが注目している“ブランド”も同様かもしれません。ブランドの価値や魅力の本質は何なのか? 現状の成功にあぐらをかくことなく、常に模索していかなければなりません。

そうしたことを20年以上も前から実践してきた人がいます。それが、田主智基さんです。ストリートカルチャーが全盛期を迎えた2000年代、時代を捉えたドメスティックブランド「バランスウェアデザイン」のディレクターとしてビジネス的な成功を収めながらも、一方で大量生産・大量消費を前提とするアパレル業界の消費至上主義に早くから疑問をいだき、プライベートブランド「アナクロノーム」を設立。
「時を超えて伝え残すことのできるモノづくり」という業界へのアンチテーゼともいえるコンセプトを打ち立て、強いこだわりを投影した製品をリリースしてきました。

ANR134

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「岡山ではじめたバランスウェアデザインは人気が高まるにつれて全国で認知され、卸も全国へと広がりました。そうしたとき、若いスタッフから『少し名前を変えて、岡山でなく東京発信のブランドにしていきたい』という提案があり、それを了承して再スタートを切りました。
その頃には自分もモノづくりの第一線から少し遠のいていたのですけども、人気のストリートブランドのひとつとして盛り上がりを感じる一方で、毎シーズン何十型も新作をデザインしては展示会を行い、製造してを繰り返すサイクルに、違和感を感じたのです。
一生懸命に心血を注いでデザインを考えても、変な話、サイクルの中で吐き捨てられ、もったいなく感じてしまって。それがファッションでもトレンドでもあるかもしれないのですけど、10年後も残るようなモノを作りたいという想いが芽生えていったのです」

東京と岡山の2地点でファッションへの理解を高めた

どのようにして田主さんが手掛けるブランドが人気を集め、そして転機を迎えることになったのか。「アナクロノーム」が誕生するまでの足跡をたどってみましょう。

MuuseoSquareイメージ


田主さんは岡山県倉敷市で生まれ育ち、DCブームが席巻した80年代に多感な10代を迎えてメンズファッションに興味を持ちはじめます。高校を卒業した後は桑沢デザイン研究所に入学。そこでファッションデザインを専攻したことと東京に移り住んだことが、田主さんに大きな刺激を与えました。

「1988年から1990年までの3年間、日本のファッションシーンが大きな過渡期を迎えていた時代を僕は東京・渋谷で過ごしました。DCブランドが下火になり、イギリスからはストリートファッションがはいってきて。渋谷では渋カジブームが生まれ、それにともないアメリカンヴィンテージが認知されはじめつつあった頃です。
ファッションだけでなく音楽やアートといったカルチャーも含め、東京という最先端の土地でリアルに体感できたことは、僕の中で大きな財産となりました」

岡山に戻って気づいたトラディショナルから得られるデザイン

卒業後は岡山へ帰郷。流行の最先端の地ではないものの、やがて世界に席巻する「岡山デニム」など独自のファッション産業や文化が根付いていました。

「岡山に帰ったら、そこでカジュアル、ヴィンテージ、トラディショナルと、東京のコミュニティで得たものとはまったく違う体験を学ぶことができました。東京で目の当たりにしたストリートカルチャーが自分のベースになっていますけども、何十、何百年にわたる伝統に息づいたトラディショナルなアイテムもとても刺激的に感じた。
それまで僕は、デザインの表現とは自分の内側から発信するものだけがオリジナルだと考えていたのですが、そうした歴史的なものの中にもデザインのヒントは眠っているんだとわかったのですね。
それから岡山の老舗の古着屋さん通い詰めては多彩なジャンルを学ぶようになり、岡山でのファッションコミュニティもできてきました。そうした経験も、アナクロノームにもつながってくる部分だと思います」

ファッションへの想いや知見を深めていくなか、岡山でストリート系セレクトショップの店長を務めることになった田主さん。そこでは海外への買付やトレードショーへの出店などを体験。さらには、自身で手掛けたアイテムの製造・販売も行うことができ、確かな手応えを獲得しました。
オリジナルブランド「バランスウェアデザイン」として展開を始めるとまたたく間に評判を呼び、注目のストリートブランドとして全国で人気を集めることに。

バランス岡山店

バランス岡山店

消費されないモノづくりを目指す、アナクロノームの始まり

しかし、前述したようなアパレル業界特有の問題に疑問を感じるようになった田主さんは、シーズンごとに消費されないモノづくりを志向しはじめるようになります。

「アナクロノームを立ち上げるきっかけとなったのが、岡山・児島のデニム工場であるクロスオーバーの代表と出会ったこと。とても深いこだわりのある、ベーシックでオーセンティックなヴィンテージデニムを作られていて、『ああ、こういうものが10年後もちゃんと残っていくのだ』と確信めいたものを感じました。
それは、リーバイスが100年以上も前に生み出したモノが今でもちゃんと評価されているという、歴史的事実を再確認したことでもあります。
僕がデザインしていたデニムは平面的なアプローチしかできておらず、クロスオーバーが手掛けるデニムはすごくミニマムなのだけど、ミシンを細かくセッティングすることで立体的に仕上がっていました。モノづくりの普遍的な何かに触れた想いがして、クロスオーバーの縫製技術をもとにアレンジを加えた“ANB-001 TYPE-α”がアナクロノームの第一弾の製品になりました。今でも想い出深いアイテムです」

アナクロノーム、初めての製品『ANB-001 TYPE-α』

アナクロノーム、初めての製品『ANB-001 TYPE-α』

ファッションに対する人々の意識も大きく変化

アナクロノームが誕生した2004年は、1990年代に“裏原”を中心に盛り上がったストリートファッションブームが飽和しはじめていた時期。ファッションマーケットは次を模索していて、そのひとつの商材として期待が高まっていたのが、図らずもアナクロノームも手掛けていたデニムでした。
ジーンズの聖地として岡山・児島が世界的な注目を集めはじめ、ハリウッドセレブも加工したデニムを穿き、プレミアムデニムという言葉も誕生。アナクロノームは時代ともリンクして評判を得ていくようになります。

この時代には、ファストファッションの台頭やECビジネスの確立といった変革ももたらされました。すばやく便利にトレンドを取り入れられるようになった反面、早すぎるサイクルに疲弊し、田主さんと同じように消費至上主義への疑念を抱くユーザーを増やす一因にもなったのだと思います。

そして2010代からは、ユニクロが業界を席巻。自分らしさを表現するファッション性よりも着心地や機能といった実用性にウエイトが置かれ、ファッションに対する人々の意識も大きく変化していきます。

「業界にとっては、これらの動きはとても大きな意味がありました。僕たちも『10年以上使い続けられるモノ』という意味で実用性も重視しているのですが、それでもやはり、行き着く先はファッション性へのこだわりなのかなと感じています。
アナクロノームではデニムを中心としたモノづくりがベースですけども、単にヴィンテージデニムをそのまま再現したレプリカをつくろうとしているわけではありません。ちょっとしたエッセンスを加えているのですが、それは僕が10代の頃に東京で体験してきたことや、岡山のセレクトショップ店長時代に古着から学んだことなど、僕というコンテキストがデザインに内包されているのだと考えています。
そのすべてがファッション性なのかというと断言できない部分もあるのですが……そこは常に葛藤しながら、ですね」

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アナクロノームには田主さんのコンテキストが秘められている

ファッション性という側面では、2011年からアナクロノームでは1950~60年代に生きる「Jack」「Neal」「Allen」「William」という4人の架空のキャラクターと個別のストーリーを設定し、彼らの着用をイメージしたアイテムを展開するというユニークなアプローチを実施。やはりそこにも、田主さんご本人が育んできたコンテキストが随所に注入されているといいます。

「ユーザーが抱くファッションの価値基準は、やはり一昔前とは大きく変わっていると思います。ただ『ファッションセンスがある』『実用性がある』だけではなく、『誰が作ったのか?』『どのように作ったのか?』といった点にも高い価値を見出す人が増えているのではないでしょうか。
目に見えないモノづくりのバックストーリーまで重視するのです。もちろん、流行を踏まえたデザイン性や、エクスクルーシブな製品を手にしたことでの優越感といったこともファッションの根底にあるのですが、こうした時代の変化を踏まえ、アナクロノームとして提供できる価値を模索していかなければならないと考えています」

体験型サービスでこれまでにない付加価値を提供していく

“UPCYCLE” on YOUR LIFE

“UPCYCLE” on YOUR LIFE

そうした考えのもと、2020年からはじめた新しい取り組みがアップサイクルサービスです。
過去に購入してもらったアナクロノームの製品に再び加工を実施することで、新たな価値を提供しようという試みです。

“UPCYCLE” on YOUR LIFEとは

ANACHRONORMとして、新たなプロジェクト。
履かなくなったデニムのパンツ、捨てるつもりだったTシャツ、忘れかけていたお気に入りなど、かつて大切だったモノを掘り起こしそれらに少し手を加えることで、新たな「何か」に生まれ変わらせるサービス。
第一弾では、アーティスト守矢 努氏によるステンシルサービス、第二弾では「柿渋染め」を実施。次回、第三弾では「Your own special denim」REMAKE SERVICEを予定している。

また、年に複数回行われるコレクションに「春夏」「秋冬」といった季節名をつけず、ただ「ファースト」「セカンド」と順番で呼んでいるのも、1シーズンで消費されたくないという想いが込められています。

「アップサイクルはまだまだこれからといったサービスなのですが、リメイクの具体的な希望を直接リサーチするなど、お客様と直接やりとりするのが特徴です。
ご存知の通りコロナ禍によってアパレル業界は業績が悪化し、僕たちも少なくない影響を受けましたが、アナクロノームをずっと愛していただいたお客様に支えていただきました。そうした顧客にどのような価値を提供できるのかを突き詰めた結果、このアップサイクルサービスのような体験型の価値をもっと充実させていくべきだと考えたのです。

僕らと直接コミュニケーションを図りながら、自分だけのアイテムを作り上げていく。それほど多くの方とは対応できないかもしれませんが、体験型サービスのアーカイブが蓄積すれば、『自分もリメイクしてみよう』『もっと大切に扱おう』という意識も高まっていくと考えています。
どれだけ体験型価値を広げていけるのか、どれだけそこに価値を感じてもらえるのか。それがこれからのアナクロノームの核になっていくと思いますし、そうしていかなければいけないと決意しています」

MuuseoSquareイメージ

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“UPCYCLE” on YOUR LIFE、第一弾のステンシルサービスと第二弾の柿渋染めサービス

次回予定している第三弾「Your own special denim」REMAKE SERVICEの一例

次回予定している第三弾「Your own special denim」REMAKE SERVICEの一例

また田主さんは、ファッションブランドも顧客との共創・共感が重要な時代になってきたとも話されていました。

ただかっこいい洋服をデザインすればいいのではなく、これまでは隠されていた作り手の表情や想いといった部分も積極的に露出していくことが、ブランドの信頼を高めることにつながっていきます。

「大企業ではなかなかできない施策でも僕らは僕らなりにトライアルしてきて、20年近くが経ちました。
もう52歳になり、次の世代も成長していますので、僕個人としては経営の立場を早々に退いてモノづくりに専念したいというのが本音です(笑)。
10周年を迎えた2014年には、これまでを総括するともにモノづくりの現場から一時期離れていたのですけども、やはり自分が立ち上げたからには自分が第一線で携わるべきものだと再認識しました。これからも、その人にとってずっと残り続けるモノを提供していければと思っています」

アパレル産業が内包する課題にいち早く気づき、「長く愛用できるウエアを提供する」というまさにサステナブルなブランドを生み出した田主さん。常に問題意識を持ち、顧客の真の利益を追求する姿勢に学ぶところは多いのではないでしょうか。

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ANACHRONORM

2004年に創業。『次なる時代の新たなヴィンテージの創造』をコンセプトに、時を超えて伝え残すことのできるモノづくりを目指している。
岡山の地場産業である「デニム」を中心に、加工・エイジング・リメイクの可能性を追求したモノづくりと、そこから派生・発展させたより自由度の高いクリエーションを実現する「AN-LABEL」と、「普遍的なデザイン」「普遍的なもの」を追求しつつ独自の解釈による『New Vintage』を提案し、定番としてリリースする「NORM - LABEL」を展開。

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公開日:2022年4月13日

更新日:2022年5月23日

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