和紙100%を着る
1500年以上もの歴史を持つ日本の和紙は、古くから人々の暮らしのなかで幅広く重宝されてきた。その一つの例が、日本家屋で使用される障子や襖。吸湿性と保湿性の両方を兼ね揃えた和紙は、蒸し暑い夏には湿気を吸収し、乾燥する冬には湿気を放出する“天然のエアコン”としての働きを持つ。
多孔質な繊維は抗菌性や消臭性にも優れ、家のなかを清潔な状態に保つ効果もみられる。現在では、美術館や博物館で絵画の修復に用いられるなど、世界中で和紙の機能性の高さが認められている。
さらに、和紙の魅力として欠かせないのが“サスティナブル素材”という点だ。原料は、フィリピンやエクアドルを原生とするマニラ麻。年間を通じて栽培が可能なうえ、一度収穫しても2-3年で再生を繰りかえすことから、環境負荷の少ない循環型素材として今注目を集めている。
こうした和紙の持つ力を、衣服として生活に取り入れることができないか?
和紙という素材のポテンシャルの高さを確信しながらも、取り扱いが難しく高価な新素材の製品化に踏み切るのは勇気のいることだった。 実際に、製糸、編みたて、縫製、染色まで、全ての工程において通常の何倍もの手間隙がかかる。
それでも和紙100%にこだわる理由を、『和紙の服』の染色を手がける川合染工場の川合創記男氏はこう語る。
「これまでの服作りの現場では、いかに安く早く正確に作れるかが求められてきた。しかし本来服は工業製品ではない。ひとつひとつ表情があって、そういった不安定さや変化を楽しむのもファッションの醍醐味の一つ。そのために我々生産者は、自分たちが率先してものづくりを楽しみ、その面白さを発信していかなければならない。」
川合社長が語るように、手間隙と真心を費やしたモノヅクリのなかには贅沢さが宿る。『和紙の服』の染色にナチュラルダイ(植物の色素から染料を抽出する染色技法)を採用したのも、できる限り和紙という素材の良さを発揮させるためだ。紙でありながら、柔らかく、なめらかで、しっとりとした着心地は、職人たちの技術の賜物である。
日本における衣服の輸入浸透率が98%に迫る今日、絶滅危惧種といわれる縫製メーカーが『和紙の服』に込める想い。それは服そのものの良さだけではなく、服を愛し共に生きる文化・メイドインジャパンを着る文化なのだ。ぜひ一度『和紙の服』を体験してもらいたい。
【会社概要: 株式会社 和興】
昭和4年、東京・墨田区にて縫製業をスタート。岩手県一関市の自社工場を中心に、100%国内生産の強みをいかした付加価値の高いカットソーウェアの製造に取り組む。アパレルOEM生産事業を主軸に、独自の素材開発や企業ユニフォームの製作等、新たな業態にも積極的に挑戦している。