NPO伊賀まちかど博物館

取材・文/井本貴明
写真/齋藤創太

NPO伊賀まちかど博物館_image

三重県の伊賀地方に伝わる「へんこ」という方言の意味とは?

代表の辻村さん。伊賀生まれの伊賀育ち。地元を愛する気持ちが伝わってきます

代表の辻村さん。伊賀生まれの伊賀育ち。地元を愛する気持ちが伝わってきます

三重県の伊賀地方には「へんこ」という方言がある。意地っ張りな人、頑固な人を指す時に使われる言葉である。これだけを聞くと、少しネガティブな印象を受けるかもしれない。しかし、裏を返せば、こだわりがあり、自分の信念を曲げずに、己を貫いている、とも言える。

「伊賀には、『へんこ』な人が多い。こだわっている人が多い。そんな、『へんこ』を代表しているのが、まちかど博物館の館長だと思う」

そう語るのは、「伊賀まちかど博物館」推進委員会の代表辻村勝則さんである。
こだわりがある人は面白い。こだわりのある人が集めたコレクションは、もっと面白い。そして、そんなコレクションが並んで展示されている私設博物館は、さらに面白い。

「伊賀まちかど博物館」は、そんな多くの面白い私設博物館の集まり。運営にあたる推進委員会には、伊賀が好きで、こだわりの博物館が好きで、へんこな館長さんがたまらなく好きな市民委員の運営メンバーががいるボランティアの団体だ。彼らは各地へのイベント出展、博物館マップの製作などで伊賀まちかど博物館をPRし、館長さんたちの困りごとに応え、新たな仲間(博物館)を増やしている。

「伊賀まちかど博物館を通して、伊賀との繋がりが強くなった気がする」

取材時には運営メンバー6人が勢ぞろい。「この楽しい仲間がいるから続けられる」

取材時には運営メンバー6人が勢ぞろい。「この楽しい仲間がいるから続けられる」

「伊賀まちかど博物館」の活動が始まったのは、2000年3月。立ち上げ時には行政からの支援があったが、立ち上げ後の運営に関しては、15年間自主的な活動を継続している。

「博物館マップを作ったり、ホームページの作成などにはどうしてもお金が必要になる。その資金を集めるのが大変でした」
運営に必要な資金は、まちかど博物館の館長の協力をいただき、絵はがきの製作・販売や、イベントでの物品販売の収益を当てた。
現在、運営メンバーは6名(2015年8月時点)。代表の辻村さんを中心に、印刷会社勤務、公務員など、異なるバックグラウンドを持った6名が月に1回程度集まり、新しい博物館候補の確認やイベント企画・参加等の打ち合わせを行っている。

運営メンバーの一人はこう語る。
「伊賀まちかど博物館の運営に参加したことで、館長さんと知り合えたことが嬉しい。そしていろいろなイベントで、伊賀まちかど博物館の魅力を紹介することで、伊賀という土地との繋がりが強くなった気がする。何より運営メンバーの6人全員が、心の底から楽しんで活動をしているのが、長続きしている理由だと思う」

まちかど博物館に登録されている館長の変化が嬉しい

立ち上げ時からのメンバーである安保さん。伊賀の魅力について語ってもらいました

立ち上げ時からのメンバーである安保さん。伊賀の魅力について語ってもらいました

「伊賀まちかど博物館」では、116館の私設博物館を紹介している(2015年8月時点)。その116館の中身はバリエーション豊かだ。ブリキのおもちゃ、世界のかえるグッズ、JAZZのレコード、能面、古時計、伊賀焼、アメリカ雑貨など。バリエーションの幅だけで見れば、英国の大英博物館にも勝っているのではないか。
新規館の登録には運営メンバーが全て実際に足を運び、一定の選定基準をクリアし推進委員会の全体会議で承認を受けた館が新たに登録される。
そして、登録された博物館とは随時連絡を取り情報交換をしている。月日を重ねて、まちかど博物館に登録されている館長と付き合う中で、館長の中に嬉しい”変化”を発見したと、辻村さんは言う。

「伊賀のまちかど博物館で紹介することで、興味を持った人が各博物館を訪れてくれます。館長さん自らが、集めてきたコレクション、仕事内容を来館者に説明する事で、その魅力を自身で再認識してもらえる事が嬉しいです。最初の頃は、職人気質で口下手の方が多かったが、来館者に説明をするうちに、工夫を重ねて、今ではプロ並みに説明をされる館長もいます」

筆者も実際に15館ほど回ったが、どの館長も楽しそうに説明をしてくれる。一般の公立博物館の館長は、物静かなイメージがある。しかし、伊賀まちかど博物館の館長はそんなイメージとは反対の”熱い”人が多い。直接話をして、その熱量を本人から感じられるのは、私設博物館ならではの魅力だ。

伊賀から発信する、日本の観光産業の新しい未来

10月に行われる伊賀の上野天神秋祭り。地元の方がこの面を被って、街中を練り歩きます

10月に行われる伊賀の上野天神秋祭り。地元の方がこの面を被って、街中を練り歩きます

それにしても、なぜ伊賀には、これほど面白い博物館の館長が多いのか。

その答えの一つとして”街の大きさ”が、関係しているのではないかと、運営メンバーは考える。
「伊賀という街の大きさが最適なんだと思います。もっと大きい街だと、面白い人は多いがまとまりがなく、目に見える形で出てこない。反対にもっと小さい街だと、そもそもの面白い人の数が少ない。伊賀だと面白い人が数人固まると、その連れの連れの人が面白かったりと、自然的に面白い人が集まってくる」

伊賀の街の規模。盆地に囲まれた独特の地形。そして、忍者や松尾芭蕉といった観光資源があるこの土地には、いろいろな地域から人が訪れる。そんな環境が、面白い人を生み出しているのかもしれない。

最後に、辻村さんから伊賀に興味がある人に対して、メッセージを頂いた。
「伊賀は間違った入り口から入ると、あまり面白くない。伊賀を深く知りたい、関わりたいと思うなら、伊賀まちかど博物館に登録されている博物館を訪れるのがいい。そして、館長さんと話をして欲しい。ぜひ、博物館に興味がある方は、私たちに相談をしてください」

筆者自身、仕事で全国の私設博物館を取材した経験がある。共通して言える事は、どこの館長と話をしても面白い。過去の苦労話なども、楽しそうに包み隠さず話してくれるのだ。

ただし、私設博物館という特性上、探すのが難しい。市役所なども把握していないケースがほとんどで、インターネットを利用して頑張って探すしかない。そして見つけたとしても、地域が離れているため、1日に2館を回ることが難しい。
伊賀の街では、「伊賀まちかど博物館」の活動により、私設博物館が組織されている。彼らが作成したマップを使えば、1日に3館を回ることが可能であり、事前に電話をして開館の確認をすることも出来る。オススメの居酒屋を、館長から聞く事だって可能だ。いつもと違った旅行の楽しみ方を見つけることができる。

「伊賀まちかど博物館」の取り組みが全国に広がり、日本中にいる「へんこ」な人が運営している私設博物館を地域全体でサポートできる仕組みができれば、もっと面白い国になれる。
そして、それは世界に誇れる観光コンテンツになるだろう。

参考:地域の博物館を紹介する「まちかど博物館」という動きは、三重県の各地域に存在する。「伊勢まちかど博物館」から始まり、今では10箇所の地域にまちかど博物館がある。詳しくはこちらから▶︎三重県庁公式サイト まちかど博物館

月に1回集まって、美味しいものを食べるのも重要。この日は中華でした

月に1回集まって、美味しいものを食べるのも重要。この日は中華でした

伊賀の特産である「伊賀牛」で作ったタタキが美味でした

伊賀の特産である「伊賀牛」で作ったタタキが美味でした

運営メンバーの6名。(左上)中山さん(中央上)上田さん(右上)井上さん(左下)安保さん(中央下)辻村さん(右下)廣山さん

運営メンバーの6名。(左上)中山さん(中央上)上田さん(右上)井上さん(左下)安保さん(中央下)辻村さん(右下)廣山さん

伊賀まちかど博物館

まちかど博物館は、新しいかたちの博物館です。いままでの「博物館」のイメージにとらわれることなく、コレクションや伝統の技、手仕事などを、仕事場の一角や個人のお宅で、館長さんの語りとともに見ることができます。

平成12年3月に開館した「伊賀まちかど博物館」は、全部で116館(2015年8月時点)を紹介。貴重なコレクションのほか、伊賀焼などの手仕事、この地域ならではの歴史や技術を見ることができる博物館がずらり。まずはお好みの博物館を、そして興味のわいた博物館をめぐり歩いてみてはいかがですか?


ーおわりー

公開日:2015年6月29日

更新日:2019年9月30日

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井本 貴明

いろいろなWebサービス作っています。 浦和レッズ、ヨーロッパサッカー中心の生活。 何か面白い企画があったら、ぜひ仲間に入れてください! 好きな映画は、「LOST IN TRANSLATION」。

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