宴会場は様々な目的で使われ、大人数が一堂に会する場であることから、強い個性をもたせないのが一般的であるが、The Okura Tokyo最大規模の「平安の間」は、一線を画す形となる。それは「大倉集古館」のコレクションのひとつとしてホテルの創業者である大倉喜七郎が蒐集した国宝「古今和歌集序」の唐紙が壁面装飾のモチーフとなるからである。
大宴会場「平安の間」
約2,000㎡、立食スタイルで2,000名をお迎えすることが出来る宴会場「平安の間」。その空間を演出すべく「古今和歌集序」で序文が書かれている唐紙をデザインモチーフに11柄計30種の壁面装飾が屏風型に配置される。
大宴会場「平安の間」TAISEI DESIGN Planners Architects & Engineers
原本の風合いの具現化への挑戦~紙と配置、解析から生まれた発見~
「古今和歌集序」の原本は、1000年以上の時の経過を感じさせないような華麗な唐紙が最大の特徴である。巻子本特有の風合いを表現するために、使用する紙は、和紙産地の中でも長い歴史と最高の品質と技術を誇る福井県越前市の手漉き和紙を採用。和紙は、三大原料である雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)、楮(こうぞ)のうち、光沢が美しい三椏と、繊維が長く強靱な楮を合わせて漉いた紙を選定した。
「古今和歌集序」実物確認風景
壁面装飾の配置については、モチーフである巻子本の雰囲気を崩さないように、原本の料紙の構成を基準とし、宴会場の左右壁面に展開することで受ける視覚的な印象にも配慮した。更に、実際の唐紙は縦長の比率であるが、装飾が施される壁面は横長の比率となっているため、各図柄に対して左右に柄を足す必要性が生じた。
図柄に描かれている文様には連続性のある箇所と、ない箇所が存在する。連続性がない箇所に関しては、図柄の構成を読み取り、繋がり合う部分を確認しながら、補う部分を完成させていった。
図柄の制作の過程で、原本を直接確認する機会を得て、「古今和歌集序」の図録に掲載されている写真では確認出来ない紋様を知る事となった。光を斜めから当てた高解像度の画像を解析することで、見えづらかった白系の背景色に施された文様を読み取っていった。
古今和歌集のモチーフを大宴会場に配する意味
解説:公益財団法人大倉文化財団 大倉集古館 学芸部長 高橋 裕次氏
大宴会場「平安の間」に意匠として採用される文様は、大倉集古館が所蔵する国宝3点のうちのひとつである『古今和歌集序』のものです。和歌の本質を述べた紀貫之の序文が、当時最高の名筆である藤原定実(ふじわらのさだざね)によって書かれたときに使用した華麗な唐紙を、現代の最先端の技術で再現しました。
これらの唐紙は、11世紀ごろに中国から輸入された装飾料紙で、竹紙に布目打ちを行い、白・薄桃・薄縹(はなだ)・薄萌葱(もえぎ)などの具引きをし、さらに多彩な型文様を雲母摺(きらずり)、空摺(からずり)などの技法で表現しています。
平安時代の貴族に珍重され、調度手本という贈答用に装飾された美しい書物の料紙に用いられました。
唐紙の図柄をモチーフにしたデザイン
「古今和歌集序」の唐紙に描かれている文様は、古代エジプトに起源があり、ギリシアを経て伝わった唐草や、正倉院宝物にもみられる宝相華(ほうそうげ)(①)とともに、合生(がっしょう)(②)、雲鶴(うんかく)(③)、獅子(④)、孔雀と牡丹(⑤)、亀甲(⑥)などがみられます。
いずれも幸福、繁栄、長寿、除災などを象徴し、吉祥の意味がこめられています。
① 宝相華…あらゆる美しい花を合わせた空想上の花
宝相華
② 合生唐草…蓮の花と花が向き合って、実を結んでいる
③ 雲鶴…飛翔する鶴とめでたいことの前兆である瑞雲
雲鶴
➃ 獅子唐草…王や仏などを守護する獅子の躍動する姿
獅子唐草
⑤孔雀牡丹唐草…古代インドで吉鳥とされた孔雀と百花の王である牡丹
孔雀牡丹唐草
⑥亀甲…さまざまな種類がある亀甲文様の中でも、亀が中に入っている珍しいもの
亀甲
『古今和歌集序』は、唐紙の色と文様の組み合わせを考えて仕立てられた巻子本です。平安貴族を魅了し、時代を超えて広く受け継がれてきた美しい吉祥文様のある唐紙の料紙は、光を受けて文様の見え方が変化するという優れた特色をもっており、多くの方が集う「平安の間」にふさわしい意匠といえます。
千年以上にわたって人々に愛されている『古今和歌集』とともにその料紙の構成がもつ日本の美意識に思いをはせながら、格式高く華やかなひとときをお過ごしいただければ幸いです。
再現の技術~20倍に拡大してもなお、本物の印象を~
原寸サンプル
「古今和歌集序」の原本は縦横20cm程の小さい巻子本である。制作の最大の難所は小さなデザインを縦3.65m×横4.33mに拡大することであった。視覚で感じる印象が異ならないように、忠実に再現をする努力を重ねた。
制作風景 確認作業
このアートはシルクスクリーンを用いて1版1色を刷り重ねることで制作する為、完成図柄から1色ずつの版に分解するとともに、最大サイズである縦2m×横1mの版に分解し、フィルムを作成、刷っていく。この版に分解する工程で完成図柄にある紙の擦れやよれ、また色の明るさの濃淡の段階をどの様に表現するかが課題となり、2版で構成するものと、柄によって3版まで版を増やすことで細かなテクスチャーを再現出来るようにした。
一壁面の図柄は縦2m×横1mのフィルム10枚で構成され、平安の間全体では、合計300枚が必要になる。
制作風景 シルクスクリーン印刷機
色柄再現への試行錯誤~約500枚の色や柄の発色の試作を繰り返し、たどり着いた30枚~
35cm角サンプル
平安の間、片面15柄、両壁面で30枚の最終決定に至るまでに、11柄の地色と柄の組み合わせを、約2年6ヵ月もの歳月をかけて検証を続けた。初期には、柄の表情と色のバランスを掴むことを目的に、代表的な柄の30cm角の縮小サンプルと、2m角の実寸サンプルを作り比較検証を行った。その後、35cm角の実寸の柄を配したものでの30面すべての検証に移行した。
原寸サンプル確認風景
実寸の柄のものになると、全体をイメージしながら制作するほかなく、色の方向性が決まっても、貼り合わせて大判にしてみると印象が異なることもあり、常に完成形をイメージしながら試作を繰り返す、職人の勘と腕が試される工程であった。柄ごとの調整と並行して、並んだ際の印象を原本に近づけるべく、何度も版と色の調整を繰り返し、30面の方針を決定した。
【大倉集古館】
大倉集古館は明治から大正時代にかけて活躍した実業家・大倉喜八郎が1917年に設立した
日本で最初の財団法人の美術館。
大倉喜八郎が生涯をかけて蒐集した日本・東洋の古美術品と、跡を継いだ息子・喜七郎が蒐集した日本の古美術品と近代絵画を中心として、国宝3件、重要文化財13件及び重要美術品44件をはじめとする美術品約2500件を所蔵する。
大倉集古館は、2014年4月より増改築工事のため休館しており、5年の工事期間を経てThe Okura Tokyo開業と同時にリニュアルオープン予定。1928年に伊東忠太博士の設計した建物は、現在、国の登録有形文化財に登録されている。
<新ホテル「The Okura Tokyo」概要>
開業予定日:2019年9月12日
延床面積:約180,000㎡
客室数:508室
レストラン・バー:レストラン5店舗、バー3店舗
宴会場:19室
ご予約について
宴会、婚礼 : ご予約受付中
宿泊、レストラン:2019年4月開始予定
【ホテルオークラ東京について】
穏やかで安らぎに満ちた、日本ならではのおもてなしのスタイルを表現したロビー。それは、時を越えて輝きを放つ「和の伝統美」の結晶です。伝統を大切にしながらも常に最高の味を求めて前進する料理、癒しや寛ぎを追求した様々なタイプの客室。時代に流されない確かな品位と新しいスタイルが絶妙に交差した本物のオリジナリティが溢れるホテルです。1962年の開業より親しまれてきた本館は2015年8月末に営業を休止し、 現在は、別館で営業を継続しております。新ホテルにつきましては、2019年9月12日に「The Okura Tokyo」として開業予定です。
〒105-0001
東京都港区虎ノ門2-10-4
TEL:03-3582-0111(代表)
アクセス:東京都メトロ日比谷線・神谷町駅、南北線・六本木一丁目駅 ※いずれも徒歩10分以内
webサイトURL:http://www.hotelokura.co.jp/tokyo/
インスタグラム公式アカウント:https://www.instagram.com/hotelokuratokyo/