ルイ・アームストロングの声のこと。
こんにちは、あゆとみです。
https://muuseo.com/k-69/items/1290
ルイ・アームストロングといえば、ジャズの歴史においてあまりに偉大だ。
1900年代の人種差別が苛烈な時代にニューオリンズのどん底の貧困環境に生まれ、波乱万丈な少年時代を経て、コルネット奏者、トランペッター、シンガーとして人気を博し、やがては人種の垣根を、さらには国境を飛び越えて世界的な大成功を成し遂げたパイオニア的存在のミュージシャンなのだ。
彼はサッチモ、またはポップスというニックネームでも知られている。
なぜに??とまず思ってしまうが、これには諸説あるらしい。
当時のガールフレンドがつけたニックネームだとか、通りで歌っているときに投げられたコインを盗まれないように口に入れていたから、Satchel(サッチェル=かばん)Mouth(マウス=口)で、その略語だとか。他にも多数ある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ルイ・アームストロング
ポップス(Pops)の方も不思議だったが、これはわかりやすい説明がすぐに見つかった。
彼は、人の名前を覚えるのが大の苦手で、名前が出てこないときは、「あのPopsがさ」とかこの「Popsがね」とか言っていたそうだ。この場合のポップス(Pops)はおやっさんとかおじさんと訳せる。この癖からいつしか、彼自身のあだ名がポップスになったというのだ。
小さい頃、彼の曲がよく家や車の中で流れていた。父が彼のファンだったのだ。
「ええ声しとるのお〜」
父はよく言ったものだ。
私も子供心に彼の声には感じるものがあった。
声がとても面白いおじさん。
当時から彼の声を聴くのは好きだった。
https://www.youtube.com/watch?v=FKndGinFN5c
あの声を例えるなら、熟成ワインみたいな感じといおうか。
なめし皮や、森の土やキノコのような熟成香、複雑味をました、とても渋くて味わい深い声。
アメリカの記事だと、彼の声を表現するとき、gravelly(ガラガラ)とかgritty(ザラザラ)とかいう単語がよく出てくる。砂を含んでいるような声、という感じだろうか。だが、その「砂利」が、なんともまろやかで濃厚な大波に乗って流れてくるから、耳心地がいいのだと思う。
個性のある声は成功するシンガーには欠かせないものだが、ここまで個性的な声の持ち主も音楽史上、少なかろう!と思わずにはいられない。
そこで気になったのは、生まれつきあんな声だったの?
という点だ。
例えば、声変わりする前は女子より高音出せました、という男性は少なくない。彼の場合はどうだったのだろうか?
歌手を志す人の中には、自分の澄み切った声がコンプレックスで、タバコやお酒で声をわざと潰す人もいると聞いたことがあるが、彼の場合はそうではないらしい。
ジェームズ・コリアーによる伝記によると、1925年の音源では彼の声はすでにあの声だった。だが、当時の彼はまだその気になれば、ざらつかない甘いテノールボイスも出すこともできたらしい。実際に、1928年のWest End Bluesでは、声のざらつきはほとんど聴き取れない。
https://www.youtube.com/watch?v=W232OsTAMo8
だが、1930年8月と10月の収録の間に声に変化が訪れて、甘いテノールボイスは出せなくなったという。確かに1933年の音源では、冒頭の話し声からして、すでにいつもの声だ。
https://www.youtube.com/watch?v=MxxPP8VMk44
ただ、ジェームズ・コリアーは、生まれつき、あの声質だった可能性もある、と指摘している。
https://www.amazon.co.jp/Louis-Armstrong-James-Lincoln-Collier/dp/0195037278/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1517766000&sr=8-1&keywords=Louis+Armstrong%3A+An+American+Genius
また、現存する彼の伝記で極めて高く評価されているPOPS (by Terry Teachout)にもあの声の始まりについてのヒントがある。
1921年のツアー中に風邪をこじらせて、声帯を痛めたのが始まりで、1936年から1937年に声帯を戻すために手術を受けるが、元の声には戻らなかったのだという。
https://www.amazon.co.jp/Pops-Louis-Armstrong-Terry-Teachout/dp/0547386370/ref=sr_1_4?s=english-books&ie=UTF8&qid=1517766037&sr=1-4&keywords=Terry+teachout
となると、あの声は本人が望まずして得た副産物ということになるが、誰もが風邪を引いて声帯を痛めてもあんな声には仕上がらない。元々の声質あってこその結果だろう。
写真に写る彼の笑顔は、酸いも甘いも嚙み分けて前進するエネルギーに満ちている。
時代のアイコンとなったあの声がもし怪我の功名だったとしても、彼の声が音楽史に遺したワンアンドオンリーの刻印はこれからも輝き続けるだろう。
https://muuseo.com/haruo.asano/items/35
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