モンタナの風に抱かれて

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 レッドフォードの監督5作目、監督作に自らが出演するのは本作が初となりました。原題は「The Horse Whisperer」、直訳すれば「馬に囁く人」、実際には「馬を癒す能力を持つ者」ということになりますかね。
 「13歳のグレース(スカーレット・ヨハンセン)は乗馬中の事故で親友と片足を失い深い絶望の淵にいた。ニューヨークで雑誌編集長として活躍する母アニー(クリスティン・スコット・トーマス)は、娘の回復には、事故で狂暴になってしまった愛馬の治療が必要だと悟る。馬の心を理解できるというホース・ウィスパラー(馬に囁く人)の存在を知り、遠くモンタナまでその男、トム(レッドフォード)を訪ねていく。大自然の中で心を癒されていく馬とグレース。アニーもまたトニーの大きな包容力に限りない安らぎを感じ、いつしか許されぬ恋に落ちていた…。」以上がDVDケース記載の本作のあらすじで、ちなみに前々監督作の『リバー・ランズ・スルー・イット』も舞台はモンタナでした。ただ、両作とも小説を脚色しての映画化ですので、それ自体は単なる偶然なのか、レッドフォードの意向があったのか、その辺はわかりません。
 と、ここでにわかに余談になりますが、Muuseoでの映像ソフトの展示に添える文章では、私なりの感想や批評を認めることがあり、その際は他人のその該当作品へのネット上に存在する意見や評判などは度外視しているのですが、本アイテム収録作に関しては覗き見してしまいました。というのも、この作品、1998年のキネマ旬報ベスト・テン第9位だったそうで、順位というのは相対的なものではあるものの、その年のトップテンに入るようなクオリティとはとても思えず、自分との見解との齟齬がどこにあるのかを探るべく、そのような行動をとってしまいました。
 総じて高評価なのがモンタナの大自然の美しさの描写、レッドフォードのカウボーイ姿の見目の良さで、それらについては異論はないのですが、評価が分かれたのは、馬はともかくとして13歳のグレース(スカーレット・ヨハンセン)の精神的な回復の過程の描写の少なさと、トム(レッドフォード)とグレースの母アニー(クリスティン・スコット・トーマス)の恋愛模様の有無の是非ですかね。それと、特に後者があるせいで、167分もの長尺になったのはいかがなものか、というのもありました。
 私も公開当時には前段で掲げた内容と概ね同様の評価だったのですが、今回観直してみて少し考えが変わりました。というのも、仮にトムとアニーの恋愛模様の件を外してしまうと、グレースの精神的な回復の過程の描写に多少厚みを加えたとしても、ストーリーテリングとして中身が薄く、演出も単調になってしまうだろうと考えられるからです。そうなると傍流のストーリーも加味した方が観る側にとって飽きが来ないだろうと考えるのはある意味妥当ではありますが、それに例の恋愛模様が適当だったかどうかは意見の分かれるところです。ただ、キネ旬9位というのは、それだけ映画評論家の評価がそれなりに高かったことの証左で、要するに、プロの評論家というのは作品の内容そのものには注目しても、3時間使い長尺であることを一般観客がどう感じるかにはあまり配慮はないでしょうから、恋愛模様の加味がこの作品のストーリーテリングにそれなりの味付けをして、それがある程度巧くいったと判断したのでしょう。今となっては、私もこの見解に同意です。
 あと、本展示アイテム収録作には上記の俳優以外にも、サム・ニール、クリス・クーパーなどが出演していますが少し驚かされたのがダイアン・ウィーストで、あのウッディ・アレンの映画を彩った都会的とも言えるその女性が、本作では見事に田舎のオバサンに変身、この女優の奥の深さを感じました。
 さて、それ以外ではトーマス・ニューマンの音楽については別の機会に語るとして、言っておきたいのが吹替の件。レッドフォードの担当は広川太一郎氏でも野沢那智氏でもなく磯部勉氏、御本人には申し訳ないですが前述の2氏とは格が違いますし、レッドフォードとしても役不足、というのが個人的印象です。もっとも、吹替版で本作全編を通して観ていないので、私のこの感想はもしかしたら適切ではないのかも…。
https://www.youtube.com/watch?v=W_1dKoCQlxY
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