大統領の陰謀
この作品については、触れたいこと、語りたいことが山ほどあるのですが、それらをこの場ですべて吐き出すことはとても出来そうにありません。ただ、この作品については他のアイテム、映画パンフレット、チラシなどを展示する際にも触れる機会はあると思われますので、ここでは展示アイテムであるDVDに収録の内容を中心に述べたいと思います。
本アイテムは2枚のディスクから成り、1枚目は本編ディスク、2枚目は特典ディスクでメイキングやドキュメンタリーなどが収録されていて、これらもそれなりに充実の内容ですが、やはり1枚目の本編ディスクに収録の「ロバート・レッドフォードによる音声解説」がとても興味深かったですね。個々の場面の解説や、本作を製作するに至った経緯、主人公である2人のワシントンポストの記者、ボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインとの交流などのエピソードなどが語られ、より深く本作を理解することが出来ました。このコメンタリーの中で語られた内容のいくつかは別の機会に紹介するとして、特に興味を引いたのは本編中頃のレッドフォードによる長回しのシーンの解説でした。画面の手前、向かって右側の方で電話取材しているレッドフォード扮するボブ・ウッドワードとは対照的に、画面奥の方、向かって左側で他の記者や編集スタッフがテレビ番組を見て盛り上がっているのが、いずれも焦点がズレないで撮影されているのですが、それをいかなる手段で可能にしたのか、またこの約6分間の長回しの演技を行うに際し、レッドフォード自身がどのような心持であったのかが語られており、普通に本編を鑑賞していると思いも致さないことが、実は緻密な事象の積み重ねであったことが思い知らされました。
あと、本アイテムの収録内容で素晴らしいのが吹替ですね。一部キャストを紹介すると、
・ダスティン・ホフマン:野沢那智
・ロバート・レッドフォード:広川太一郎
・ジャック・ウォーデン:雨森雅司
・マーティン・バルサム:緑川稔
・ジェイソン・ロバーツ:小林清志
ですが、洋画の吹替ファンからすると、とてもワクワクするキャスティングです。特に何と言っても、レッドフォードを広川太一郎氏が担当する、というのがたまらないですね。レッドフォードの吹替は本作でホフマンを担当している野沢那智氏が他の作品では演じることが多いのですが、「圧倒的に広川氏の方が合っている」と私は言い切ります。あと、「洋画の吹替の名作」というと、何のことか思われるかもしれませんが、要するにある洋画の日本語吹替の全体的な出来栄えが良い作品、すなわち、まずは声優のキャスティング、次いで各声優の演技力の良い作品であるとする(私の勝手な定義ですが)と、本アイテム収録の『大統領の陰謀』の吹替は、名作中の名作と思い込んでいます。もちろん、異論のある方もおられるでしょうが…。ちなみにもう一作、吹替が名作中の名作だと思い込んでいる作品があるのですが、それはその作品を扱うときに申し上げます。
吹替の話を続けます。本アイテム収録の日本語吹替は、TBSテレビ 『月曜ロードショー』で1980年8月18日初放送の際に制作されたもので、私はリアルタイムで観たのですが、このときの本編開始前の荻昌弘氏のコメントに感心させられました。劇場観賞時は白い文字の字幕がワシントンポストの編集室の天井の白さと重なって(この頃の字幕はまだ縦書き)見にくいことが多かったが、今回は吹替なのでそういう懸念はない、という旨の内容だったのですが、何か目から鱗が落ちた感じがしました。というのも、その頃私は「ロードショー」という映画雑誌を定期購読していたのですが、その誌面に漂っていた雰囲気は、「映画がテレビ放映される際、放送時間の枠内に収めるためにカットされるシーンが生じる、テレビサイズに合わせるために画面左右両端がトリミングされる、そして吹替することで出演俳優本来の声が失われる、これらのことはオリジナル作品に対する冒涜である」という感じのもので、この頃の私も漠然と「そんなものなのか」と思っていたのですが、このロードショー誌面に漂っていた吹替に関する見解とは逆の吹替の効用を荻氏が伝えてくれ、またその後に放映された映画本編の吹替が素晴らしい出来だったこともあり、多少なりともあった吹替に対する偏見はなくなったような気がしました。
以上、長々と紹介文を認めてしまいました。作品内容そのものについては、冒頭で申しあげましたように別に機会に譲ります。
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kyusha_fan
2020/09/08私これまで洋画は与えられた吹き替えで納得してました。私はあまり気にしてませんでしたがwoodsteinさんの話だと吹き替える人で映画に対する心酔度が変わってくると言うわけですね。声優も俳優と同じ様に演じてるわけですね。深いですねぇ。そこから声優さんのファンが出来るわけだ。なるほど。思い返すと私にも素敵な声だなと思う人がいました。それはテリーサバラスの声です。あれは俳優の印象と声がぴったりはまってるなと思いました。
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woodstein
2020/09/08kyusha fanさん、コメント有難うございます。戴いたコメントの内容に対しては応えたいことが沢山あるのですが、それを全部行ってしまうととてつもなく冗長となってしまうので、テリー・サバラスの件に絞って述べさせてもらいます。映画の世界では名バイプレイヤーでしたが、必ずしも演技派という感じではなく、それは主演だったテレビドラマ『刑事コジャック』に関しても同様だったと私は思っているのですが、この辺には異論もあることでしょう。そんなサバラス=コジャックの株を日本国内で大いに上昇させたのが森山周一郎氏の吹替で、正直言ってサバラス=コジャックを完全に乗っ取ってしまいましたね。
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kyusha_fan
2020/09/08私もそう思います。
そうですか。森山周一郎さんという方だったんですね。
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オマハルゲ
2020/09/09 - 編集済みサバラスは「バルジ大作戦」のような豪快な役が多い印象です。怒鳴り散らすシーンでのユーモラスな感じは大平透氏がピッタリだと思っています。その大平氏、コジャックへのオファーがあったそうですが「話題作りでスキンヘッドにしてくれ」と言われて断ったとか。結果的にコジャックは森山氏で正解だったと思います。コジャックの雰囲気は森山氏がハマってます。
森山氏は最近朝ドラの「エール」でちらっと拝見しましたがろれつが回っていない感じでした。それでも(年齢的に吹き替えは引退されてるでしょうが)ご健在なのが嬉しいです。
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