DVD「アイアン・ホース」

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 有り体に言えば、ジョン・フォード監督の出世作であり、そういう意味では映画史においてもそれなりに重要な地位を占める作品です。内容的には、アメリカ大陸を横断して東から伸びるユニオン・パシフィック鉄道と西から伸びるセントラル・パシフィック鉄道をひとつのレールで結ぶ横断鉄道建設を巡り、男女の恋、土地売買の陰謀、父の仇討ちなど、さまざまな物語が交錯する、という壮大なスペクタクル、というところですかね。
 もちろん映画ですから、主人公やヒロインが設定され、それらを取り巻く人間模様も描かれていますが、飽くまで主題は、南北戦争後のアメリカ開拓期の一部を切り取り、横断鉄道建設を通じて近代国家へ脱皮する礎を築くのにどのようなドラマがあったのか、ということ。製作されたのが1920年代前半ですから、まだまだ19世紀末の開拓期の原風景が残っており、それを背景にしての撮影、しかもSFXもCGもないわけですから、実物大のセットを製作して撮影した映像の内容はリアリティに溢れ、迫力がありました。
 そして、最も感心させられたのが、撮影時のジョン・フォードの年齢が若干29歳であった、ということで、B級西部劇の撮影のキャリアをそれなりに積み重ねてはいたものの、これほどの大作を任されるには、100年近く経過した現代でも思わざるを得ないわけで、起用したフォックス社の英断はバクチと紙一重のものだったのではないでしょうか。ですが、ジョン・フォードがその英断に応えたのは彼自身の非凡さのなせる業であり、その後の映画人としての成功を予見させる作品の完成度でした。
 ということで、ここからは不満な点ですが、作品の内容についてではなく、本展示アイテム自体のこと。本フロアで掲げる「淀川長治監修『世界クラシック名画』100撰集」シリーズ、というよりも、企画・制作のIVC社自体の問題ですが、不完全な版を臆面もなく世に出しているわけで、本展示アイテムの収録時間は118分、これとは別の会社から発売されている『アイアン・ホース』のDVDは132分で当てつけのように「132分ヴァージョン」をタイトルに付しており、amazonの販売ページには「完全版」の語まで付いています。ただ、これはアメリカ国外向けの版であり、アメリカ国内向けは約150分の版が公開されました。だから、amazonの販売ページの「完全版」の語は正確ではない、とも言えるでしょう。いずれにしても、本作はすでにパブリック・ドメインになっているはずですから、150分版を日本向けに出版する努力はできなかったのか、と思ってしまいます。
https://www.youtube.com/watch?v=wTmWsrHp2nA
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    toy ambulance

    2020/12/24

     29歳という年齢が山中貞雄が戦病死した年齢と同じだったように思ったのですが、あらためて調べてみると、そちらは28歳でした。
     映画の制作費を考えると監督の年齢とキャリアは奥が深いテーマですね。

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      woodstein

      2020/12/27

       toy ambulanceさん、コメント有難うございます。確かに29歳は若いですが、ジョン・フォードは23歳くらいからB級西部劇など40本近くの作品の監督を務めていましたので、それなりにキャリアは積んでいたとも言えるのですが、それでも大抜擢には変わりないようでした。その後は、例えば本フロアでも収録DVDを展示予定の『第七天国』では撮影スタッフを務めるなど、1920年代はまだまだ修行の身という立場で、1930年代になってフォックスフィルム以外の作品を手掛けるようになって、ようやく第一線の映画監督になれたのではないか、というのが、私見です。

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