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 本作はフリッツ・ラング監督初のトーキー作品、犯人の吹く口笛を観客に聴かせるということでその不気味さを際立たせる効果を図ったラングの演出も巧みですが、この映画はピーター・ローレの異相に尽きます。とにかく、画面に登場するだけで不気味で怖い。もちろん、そのように観客に思わせてしまうのは、本作出演前に積み重ねた演劇での経験の裏打ちがあるわけですが、それにしても見事でした。もっとも、その監督と主演俳優はユダヤ人ゆえ、後に揃ってナチスの台頭に伴ってフランスを経由してアメリカに亡命することになるというのは、この時代のなせることだったのでしょう。
 話をピーター・ローレに戻して、とにかく見るからに強面というのは、少なくとも本作とヒッチコックの『暗殺者の家』に関しては大成功でした。ただ、その後の出演作に関しては何かハリウッド擦れしてしまったのか、顔の迫力が薄れてしまったような気がします。もちろん、ピーター・ローレ出演作を数多く観たわけではないので断定的には言えないのですが、それでも『マルタの鷹』『カサブランカ』の登場場面を観ても、本作や『暗殺者の家』で見せた彼本来の異相を生かした演出がなされなかったのは、残念ですね。
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