マーラー /大地の歌
初版 2023/08/03 14:37
改訂 2023/08/03 18:41
ハンス・ベトゲの「中国の笛」によるテノール、アルト独唱、及びオーケストラのための交響曲(大地の歌)
この演奏はモノラルですが、全曲にドイツ語の下に日本語訳が表示されます。
このオーケストラ伴奏付の交響的作品は人間の肉声を楽器としての位置に置いたものではない。
中華的な死生観と無情を詩を歌い込むことによって表現している。
李白、張籍あるいは張継?王維及び孟浩然及び王維それぞれの詩をかなり思い切った解釈によって並べたハンス・ベトゲの『中国の笛』がモティーフとなっている。
李賀によって名付けられた青春・朱夏・白秋・玄冬、人生の四つの季節のうち、ここで歌われているのは、大陸的な厭世観とそこについて回る青春と酒にまつわる部分。
それをマーラーは晩年の自らの諦念に写し込んで練り上げている。
当時のインテリ層に支持された東洋的無常観とエキゾティズムに支配された異色の作品。
歌曲オンチのボクにとってもさすがに、この作品の中の歌い手の実力というものには圧倒される。
歌詞の内容自体が具体的なので、それをいかに詠唱するか。漢詩を詠ずるようにドイツ語で歌うことに違和感なく、聴くものにその独自の言葉の世界を感じさせる。
当時受け入れられた東洋に対する神秘的概念、そこに代表される死生観をマーラーは自分の楽譜の中に深く刻んでいる。
第1楽章 「大地の憂愁を詠う酒宴の歌」アレグロ・ペザンテ: 『生も暗く、死もまた暗い』と心に深い厭世と諦念を抱きながら心と手の置き所のない焦燥を酒に流す。
何も変わらない無情がテノールの深い艶の中に歌い(詠い)込まれる。
最も能動的でありながら何も生まない焦燥。
第2楽章「秋に独り寂しき者」 ややゆっくりと、弱々しく :悲嘆を隠そうともしない。夏の日の遥か遠のいた晩秋の薄い光からは、ほんのわずかなぬくもりも感じないかのように詠われる。(寂しさを寂しいと詠うところはあまり東洋的ではないね。)
李賀は『白秋』という言葉で全てを言い尽くしているのに。
第3楽章「青春について」 快活に :モネのような世界です。
睡蓮の水面への写り込みのように、モネ自体の東洋性も含めていろんなことを想像させてくれます。
第4楽章「美について」 コモド・ドルティッシモ :これは東洋的でない感性だ。
李白がこのような詩を書いたのだろうか。ハスの花はでかいよ。
羊草(ヒツジグサ)か何か小型のスイレンを指しているんではないかと思う。
どちらにしても摘むには水の中に入らなきゃできないことだ。
漢詩が持つリアリズムとちと違う。
第3楽章、第4楽章は歌の内容が東洋的でない分、支える管弦楽はチャイナ風に装われていて、マーラーのイデオムからは異質な部分が散見されますね。
逆に第5楽章と最後の長大な第6楽章はマーラーです。
第5楽章が交響曲第4番の穏和な響きを思わせ、終楽章『告別』はその重々しさ管弦楽の引きずるようなエンディングは若き日のマーラーの傑作『さすらう若者の歌』の終曲を思い起こさせます。
余談ですが、ボクは今この紹介したYouTubeの全曲演奏を聴きながら書いているわけではありませぬ。今、この文章をモーツアルトの40番のト短調交響曲それも、古ーいブルーノ・ワルターとウィーンフィルのライヴ演奏で聴きながら書いています。(ワルターの唸り声まで鮮明ないい録音です。モノラルだけどよく聴きますね。)
ボクはマーラーの創り上げる世界にどっぷりと浸るのはどうも苦手のようで、何かしら毒抜きが欲しくなるのです。
マーラーに欠けていたもの。同じことを表現するのにモーツァルトや李白は寸鉄で終わらせる。マーラーがやれば長大な美しいアダージェットが必要になる。死の間際。マーラーが発した『OH!Mozart……………』は届かなかった距離の感慨なのだったのかもしれない。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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