眠れる夜曲

初版 2023/07/12 10:09

改訂 2023/07/12 10:12

ラフマニノフ/交響曲第1番ニ短調op.13

第1楽章 グラーヴェ~アレグロ・マ・ノントロッポ
第2楽章 アレグロ・アニマート
第3楽章 ラルゲット
第4楽章 アレグロ・コン・フォーコ

ラフマニノフの多くの作品の中で、この曲ほど皮肉な運命を辿った曲はなかった。
モスクワ音楽院を卒業後から着手し、持てる音楽手法と耐えざる研究の成果を全て注ぎ込んだ若きラフマニノフの渾身の作品だった。
そしてそれは彼がピアノ協奏曲第2番で復活するまで、彼を音楽家として死の縁にさまよわせるほどの痛烈、酷薄な批判をこれでもかと浴び続けるきっかけとなった初演の大失敗を経て、彼の生前は顧みられることなく眠りについていた。

初演の大失敗は初演のタクトを執った飲んだくれ、アレクサンドル・グラズノフのへべれけの指揮が問題であったと言われている。(バルビローリみたいな感じだったのかなぁ…)


でも、グラズノフが酔っぱらって指揮台に立ったのは本当かも知れないが、事実はこの曲の斬新で先鋭的なラフマニノフの野心的楽曲への理解が不足していて、保守的な彼は混乱の極みのままの指揮台となったのであり、飲まずにはいられなかったのだろうと推察する。
ウォッカを生で引っかけて、この愛すべき飲んだくれは、ラフマニノフを精神疾患に追い込んだ。
ラフマニノフの名誉が彼のピアノ協奏曲によって完全に復活した後も、改訂の意欲を持っていたが、何故か時代はこの曲の再登場を拒んできた。
1945年レニングラードの国立図書館で評論家のオソフスキによって大失敗の初演のパート譜が発見され、それによって総譜の再現が行われた。


闇から蘇ったその曲は全4楽章上行形(音階で音が上に行くときよく使われる音形)3連符ではじまり、後続楽章は先行楽章のモティーフを反映し、第1楽章の重い怒りの序奏は終楽章のコーダに蘇り、全楽章は有機的な統一感を持っている。


第1楽章のフガートに代表される幾重にも張り巡らされた対位法、弦楽と管楽器の絶妙の黄金比率。
何故、この曲がそれほどまでに酷評されたのか、今の時代の耳には不思議としか言いようがない。
当時の音楽学派の絶好の攻撃目標となるには、絶好の難易度を持っていたのだろう。
グラーヴェのあとの重く堂々と響く主題はラフマニノフの最後の作品となった『交響的舞曲』にも聴くことができるが、全体を流れる悠揚迫らない叙情の奔流はクラリネットと低音弦楽の絡む幾筋もの野太い歌の中で、真新しい金管の響きを見事に融和させてみせる。
当時この曲を『地獄の音楽』とさえ酷評したロシア5人組の一人、キュイはこの作品を1世紀以上を経た空の上でどう聴き直しているのだろうか。
深い藍色の海溝から沸き上がった黒い泡がゆっくりと時間を経て水面に沸き上がるような第2楽章の黒のような藍色の世界。
細かな金色の稲妻が低くたれ込めた厚い雲から幾筋も海面を切り裂いて趨る。


第3楽章はラフマニノフ特有の美しい弦楽の旋律がナハト・ムジーク(夜曲)のムードを深く沈殿させる。
息の長い金管の吹奏が柔らかで端正な響きの帯を作り、弦楽だけではない夜曲の陰影を作り出して行く。
とても複雑に設計された抒情。(下に演奏があります。)


第4楽章は堂々としてスケール十分。
ちょっと好きな楽章です。
ラフマニノフの力強さを意外なほど感じます。不思議なほどラフマニノフにはロシアを感じることがないのですが、これほど明確にこの当時の憂鬱で広大な国のイメージを感じさせる楽章はあまりありませんね。
コーダは悲劇的な連音が『怒りの日』の始まりを暗示して閉じて行きます。
これは、後期のチャイコフスキーを継ぐべき傑作でしょうね。

芸術にはその当時の為政者の国の持つ匂いがある。再現芸術家にはそれを忖度し、迎合する人もいればそれを知りつつ気づかないように自分の心を音楽に載せる人もいる。

彼らにはまた今、生きづらい国になりつつあるロシア。

でも、昔から一貫して陰鬱な国のイメージを拭うような為政者は生まれていない。と思うのは比較的わがままが通る国にいるものの世界知らず(世界的な規模の世間知らず( ´艸`))かもしれない。

チェリストのミッシャ・マイスキーが西側のインタビューで自国の言論の自由を聞かれた時、当時のソビエトについてこう言った。

”ソビエトにも言論の自由はある。ただ、言った後の自由がないだけだ”

ロリンマゼール指揮ベルリンフィルP/Oで第3楽章ラルゲットを 全霊で共感しているような演奏より、この曲には無駄がない研磨されたこの演奏がいいような気がします。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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