DVD「最後の人」

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 本展示アイテムの裏ジャケットの説明文に「そこへただ1度だけの字幕が挿入される」とありますが、その字幕を表記すると、
「実生活なら物語はこれで終わりである。孤独な年老いた老人は死を迎えるのだ。しかし彼を哀れに思った脚本家はとてもありそうにない終幕を加えたのである。」
次いで新聞記事の画像の字幕:
「A.G.マネー氏の遺産の驚くべき相続人 先頃、ホテルの化粧室で急死した億万長者のマネー氏の遺書が発見された。なんと彼の全財産は最期を看取った男が受け取ったのである。」

 本展示アイテム収録作は「1926年キネマ旬報外国映画ベストテン第2位」だそうで、それだけ誉れ高い作品なのですが、私自身は本展示アイテムを入手するまで本作を観る機会はありませんでした。ただ、さすがに世評は何度か目にしたことがあり、特に本作はアルフレッド・ヒッチコックの「無字幕で完全な映像化に成功した唯一のサイレント映画は、エミール・ヤニングスが主演した『最後の人』だけだと思う。」という言葉は、頭の中に刻み込まれましたね。
 そこで、本紹介文冒頭の字幕表記の件です。要するにF・W・ムルトウ監督は2種類のエンディングを用意したわけで、解説の淀川氏はその両方が好きだと収録ビデオで語っておられましたが、この発言はどのような意図だったのでしょう。「孤独な年老いた老人は死を迎える」という結末は、この作品全体の内容を踏襲したものですから、極めて妥当ですし、それならば映画史に占める比率ももっと大きかったのでは妄想してしまいます。それに対し、「とてもありそうにない終幕」といういかにも雑なエンディングを付け足した是非はどうなのか。救いようのない結末のまま観客を劇場から帰宅させるのは忍びない、ということもあったのでしょうが、ドアマンの象徴である「金モールの制服」を身に付けるのとそれ以外の場合の差というものを皮肉った、という意図も感じられ、その辺りの細やかな深謀遠慮も捨てがたいと淀川氏は思ったのかな、とこちらも妄想してしまいます。
 最後に、本展示アイテムに収録されている版は「アメリカバージョン」とのことで、要するに1時間ちょっとのショートバージョン。本来は添付画像を確認すればわかるとおり、約1時間半の作品であり、この「淀川長治総監修『世界クラシック名画100撰集』」に散見される情けない側面ですが、このことは他のアイテムの紹介文でも散々批判したので、もういいでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=W7yiZM-SlwI
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