DVD「アンナ・カレニナ」

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 文学作品『アンナ・カレーニナ』は、レフ・トルストイ原作の小説の中では、おそらく『戦争と平和』に次いで著名で、幾度となく映画、テレビドラマ、演劇、さらにはバレエ化されていますが、ここでは本展示アイテム収録作も含めた映画化作品などについて触れていきます。因みに、『アンナ・カレニナ』と『アンナ・クリスティ』を混同してしまいがちだった、というヨタ話は、このフロアの『アンナ・クリスティ』のDVDの展示の紹介文に記載しました。
 そもそも『アンナ・カレーニナ』は文庫本で上・中・下巻になるほどの長大な文学作品ですから、仮に映画化しても上映時間の制約から「あまり原作に忠実な脚色はできない」だろうことは、想像がつきます。実際、主な映画化作品の上映時間は、
・1927年製作『アンナ・カレニナ』(原題:Love)、サイレント映画、グレタ・ガルボ主演:82分
・1935年製作『アンナ・カレニナ』、グレタ・ガルボ主演:95分
・1948年製作『アンナ・カレニナ』(本展示アイテム収録作)、ヴィヴィアン・リー主演:110分
・1997年製作『アンナ・カレーニナ』、ソフィー・マルソー主演:108分
・2012年製作『アンナ・カレーニナ』、キーラ・ナイトレイ主演:130分
と、いずれも2時間前後であり、原作小説のディテールまでをカバーしているとは言いづらい。因みに、その不備を補っている作品として、1977年BBC製作、ニコラ・パシェット主演のテレビドラマ『アンナ・カレーニナ』が挙げられ、こちらの本編時間は実に6時間5分ということですが、少なくとも日本国内での知名度は、上記映画5作品のそれよりもかなり低いようです。
 さて、上記5作品のうち、私自身は1927及び2012年製作版以外の3作品を観ました。1997年のソフィー・マルソー主演版は論外で、1935年のグレタ・ガルボ版と本展示アイテム収録作のヴィヴィアン・リー版が俎上に上がるのですが、少々語りづらい。正直言って、映画の出来自体はガルボ版の方がいいと思いますが、それはグレタ・ガルボとヴィヴィアン・リーの魅力の差ではなく、演出法の違いによるところが大きいのかな。1935年のグレタ・ガルボ版については別に触れる機会もあるかもしれませんからここでは詳細は申し上げませんが、原作小説の要素の一つであるアンナの心理描写をかなり省略し、あらすじを追うことを主眼とした構成でした。それに対し、本展示アイテム収録作はこう言っては何ですが、ヴィヴィアン・リーのプロモーションフィルムの風情の感を受けました。ヴィヴィアン・リーを美しく見せることで、よりラストの観客の受ける悲劇の度合いを強めようというジュリアン・デュヴィヴィエ監督の意図はそれなりに伝わりましたし、ヴィヴィアン・リーも持ち前の演技力でその期待に応えていたのでしょうが、ではその意図がそもそも本作の出来に反映されたのか、というと、はなはだ疑問であると私には思われました。
https://www.youtube.com/watch?v=xiTXmsJaDkI
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