DVD「バルカン超特急」

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 本展示アイテムのジャケットの裏面に記載されている淀川氏のコメント「見事なる映画の教科書、ヒッチコックのオリジナル」はまさに正鵠を射ていると思われます。すなわち、意図せず事件の渦中に巻き込まれて冒険を余儀なくされ、いくつかの困難を乗り越え、その過程でラブ・ロマンスを折り込み、ハッピーエンドに流れ込む、という手順を本展示アイテム収録作は踏んでいるということで、まさに典型的ヒッチコック作品であると言えます。
 さて、そのような内容的なことはともかく、本作を最初に観たときに気になったことがありました。本編中でマイケル・レッドグレイブが口笛を吹くシーンがあったのですが、そのメロディを聞いて、「これは紛れもなく『クワイ河マーチ』!でも、何で?」と疑問に。というのも、『クワイ河マーチ』は映画『戦場にかける橋』のテーマ曲ですが、製作されたのは1957年、他方で本作は1938年で、なぜ後年の映画のテーマ曲がこの作品の中から聞こえてくるのか、と思ってしまったわけですが、言うまでもなく、これは私の無知が生んだ愚かな疑問でした。『クワイ河マーチ』は、ケネス・ジョゼフ・アルフォードが1914年に作曲の『ボギー大佐』を、マルコム・アーノルドが映画『戦場にかける橋』のテーマ音楽用に編曲した行進曲で、要するに本作の中で聞こえたのは『ボギー大佐』マーチだった、という他愛もない話でした。
 あと、本作の本邦初公開は1976年、製作が上記のとおり1938年で、長らく日本未公開作品だったわけです。そのようなヒッチコック作品は本作に限らず、『第3逃亡者』(1937年)、『海外特派員』(1940年)、『逃走迷路』(1942年)なども同様でしたが、1970〜80年代頃、映画評論家の水野晴郎氏が主催していたインターナショナル・プロモーション(IP)という、リバイバルと未公開映画発掘専門の配給会社により、劇場公開が実現化されました。この辺りの話もいずれは別の機会にしてみたいと思っていますが…。
 最後に、本作は1979年にシビル・シェパード主演の映画『レディ・バニッシュ 暗号を歌う女』としてリメイクされていることを付け加えておきます。
https://www.youtube.com/watch?v=YihbNGUNQmU
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