高山大河に囲まれた東西両半球の世界地図@明治中期の地理教科書

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「ドイツ式」に倣ったことを謳う、明治二十年代の地理教科書の彩色世界地図。それまでに出ていた地理書があまりにもつまらないので、もうちちょっと何とかしたい、と考えて新機軸を打ち出したことが、この本の序文に綴られているのだが、巻頭近くにあるこの折り込み地図も「ドイツ式」なのかどうかは不明。

十九世紀の教科書に載っている世界地図は、だいたい例外なく宇宙空間から地球を眺めたような正射図法による、東西両半球が描かれていた。

それは、教える対象となる若者たちが、「地球は円い」というのが決して常識ではなかった世代を親に持っていた、ということもあろうし、これから未知なる広い世界に目を向けるにあたって、我が版図の大きさや海外諸国との位置関係などを把握させることが取り敢えず第一の課題だったから、実際に外洋航海をするに欠かせない海図に使われるメルカトル式正角円筒図法へはなかなか切り換えられなかったのだろうとおもう。

四角い紙に両半球図を描くとなると、どうしても周りには結構な余白が生じることになる。そのまま何もなし、という地図も少なくはないが、この地図のように世界の著名高山の高さ較べ、大河の長さ較べを図解して興味を惹こうと工夫された例もときどき見かける。実際、資料としてもデザインとしても、今日でも魅力ある図版ではないだろうか。色遣いや標題文字の排列など、全体としてなんとなく「たのしさ」や「かわいらしさ」が感じられるような気がする。

東半球の右端のところに「大日本帝國」、そしてその左手には「支那帝國」と書かれている。単に「日本」と国号が書かれているものが多いが、このように「帝國」までくっつけてある例はあまり憶えがない。このころになると、南極大陸はかなりそれらしく描かれるようになる。もう少し古い本になると、海岸線の極く一部だけ描いてあったりする(さらにその前は、何も描かれていなかったりする)。

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