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東京いい映画館(こや)みたい映画館(こや) ― 観客の未来のために 丹野達弥編
1999年9月25日発行。著者の丹野氏ですが、その名前を見たことがあったようななかったような曖昧な状態でしたので、改めて検索してみますと『映画論叢』(えいがろんそう)というシリーズ本の編集者として見つけました。このシリーズ本のことは寡聞にして知らなかったので勝手な想像になってしまうのですが、その内容のヘッドラインを眺めてみるに、どうもその時の流行には左右されず、長い映画の歴史の中から抽出したテーマに関しての論説を集めたもののようです。本展示アイテムの著者の紹介欄にも「ただの映画ファン」と謳っていたので、そのスタンスで活動を続けているということなのでしょう。
ということで本書ですが、結論から言うと、少し失望したかな。同じフロアに展示登録した『日本懐かし映画館大全』の東京ローカル版なのかな、という先入観をもって購入した、ということもあり、自分の映画体験の反芻により貢献してくれれば、という期待をかなり裏切られたので、多少がっかりしてしまったわけです。
まず、「まえがき」の冒頭に黒澤明監督の「最近の劇場(こや)は映画を観る環境じゃない。それを改善もしないで〈客が来ない〉と騒いでいるんだ」という言葉がありました。著者はこの言葉を拠り所とすべく、1998年当時に東京とその近郊に存在した主なロードショー館とミニシアターなどの上映環境をチェックし、採点し、星の数で評価する、というのが本書の主な内容です。それ自体については、今となっては消滅してしまった劇場も多く、また残っている劇場もそれなりの改装などは行っている場合もありますし、何よりも私自身が劇場から足が遠のいてしまっているので、論評はできません。ですので、現在の本書の読み方としては、各劇場の上映環境に対する、概ね辛口の論評の行間に垣間見えるその劇場の特徴を懐かしむ、ということですかね。当時にしてみれば苦情の種でしかないことも、時がたてば何やらゆかしく思える、というのはよくあることですが、本書はその呼び水となってくれているわけです。ただ、そのような効用はあるものの、自分の若かりし頃、ある一定の部分を過ごした諸劇場がディスられていることには変わりないので、読むときは事前に心穏やかな状態を心掛けなければならないのが、ささやかな難点ですかね。
あと、本書にも『日本懐かし映画館大全』と同様に、7編のコラムが挿入されており、これも本編同様、賛否相半ばするものが多かったのですが、映画館の看板に関するコラムについては共感しました。特に、本書出版の少し前に閉館してしまった、松竹セントラルの看板が素晴らしかったことに触れていたのは嬉しかったですね。個人的には渋谷の東急文化会館内にあった4劇場の看板も素晴らしかったと思っているので、その記述があればなお良かったかな。
#映画館 #ロードショー館 #ミニシアター #丹野達弥