ライカ解剖図@昭和初期の写真術解説書

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写真撮影といえば今やスマートフォン全盛、コンパクトデジカメなどすっかり市場を奪われて風前の灯状態らしいが、その一方でかつてデジタルカメラに追いやられて似たような立ち位置に追い込まれたかにみえたフィルムカメラは、今なお熱烈な愛好家が少なからずおられるばかりか、若い世代にまでファン層がひろがっているようだ。

そうした背景あって、今も高い人気を誇る戦前のカメラのうちにドイツ・ライツ社製のライカがある。図版研はカメラマニアがいるわけではないのでくわしいことは専門の方々におまかせするとして、昭和初期にすてきな装幀の本をたくさん出している出版社・アルスの写真大講座シリーズの本に載っている、ライカの内部構造を示した図版を今回は眺めてみることにしよう。精密機械萌えの方にはたまらん感じだとおもうし、インターネットでちょっと検索してみてもこういう図は意外と引っかかってこないようだから、こういうカメラにご興味がおありの向きにもちょっと面白いかな、ということで。

この本によれば、「十數年前、イーストマンより 3A判と 1A判のロール・フィルムにこの型式を應用したのが、距離計とレンズとを連結させた始祖ではないでせうか。」ということだが、おそらく大正の半ばごろに出たこのカメラは距離計の精度が低い上に、「(おそらく焦点合わせの)見方」が難しく扱いづらかったのだそうだ。1930年代に入って、いずれもドイツのメーカー・ライツとツァイス=イコンがほぼ同時期に製品化したライカとコンタックスで、こちらははるかに使いやすく市場に大歓迎され、ホクトレンデル(フォークトレンダー)社もプロミネントで参戦して、ようやくその仕組みが普及するようになったという。

この本の中ではライカが如何にすぐれているか、その特徴を12箇条にわたって挙げたあと、「今日の寫眞術はこの型式に屬する寫眞器を度外して話をすることが出來ないし,技術問題を述べることも出來ない立場にあります。隨つて,此の型式の寫眞器が在來のものに比べ,如何に完全,如何に精巧,如何に精密に作られてあるかを知つてゐることは,この型式の寫眞器を有〈も〉つてゐる人には無論必要であるし,有つてゐない人にも亦〈また〉必要ですから,更に詳しく述べたいのですが,紙面の都合があるので」ということで、ライカの代表機種として「III型」と呼ばれるものの解剖図を代わりに載せている。1枚目の機体+レンズの写真のうち一番上が初めて距離計連動機構を載せた「II型」、一番下(2枚目がその拡大したもの)はそれに加えて「1/20秒以下の遲速度シヤツター」、つまりスロー・シャッターを採用した上位機種の「III型」、真ん中は両機種に取り付けられる「廣角・大口徑・長焦點距離」などの交換レンズヴァリエーション。

3枚目以降が「斷面圖」、つまり筐体やパーツをまっぷたつにした内部構造図で、4枚目に拡大したのが機体を上下の真ん中で水平に切って上からみたところ、5枚目が同じく前後の真ん中で垂直に切って後ろからみたところ、6枚目が左側からみたところで「遲速度シヤツター目盛輪」のところだけ縦に切ってみせている。丸つき数字で示した各部名称もここにまとめられている。8枚目に拡大したのが「焦點距離7.3cm. f:1.9 ヘクトール・レンズの斷面と距離計への連絡裝置」と、その下が機体上部の距離計を水平に切って上からみたところ。7枚目に以上の図版の説明原文が載っている表裏2ページ分を並べてみたが、小さくてちょっとご覧になりづらいかも。なおその右側にある図版はコンタックス本体と交換レンズヴァリエーション。双方の機械について、「人間のやれる處には自づと限りがあるためか,ライカとコンタックスとの同格品を比較すれば,その能力は殆ど同等。差異は,極めて難かしい細かい問題。簡單に片附けられません。/普通一般の用途に對しては,/ライカで出來ることなら,コンタックスでも出來ます。/CONTAXで出來ることなら,ライカでも出來ます。/ライカならではとかコンタックスなるが故に,……などといふ言葉をウカツに使ふことが出來ないほど,兩者は,極めて接近したものであります。」と評してある。

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