19世紀の邦訳世界地図@明治初期の世界地理教科書

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明治10年代に文部省が出した地理の教科書に載っている、細密に描かれた木口木版画の世界地図の中から、いくつか紹介しよう。この時代のハードカヴァーの教科書の用紙は厚手の上質なもので、刊行から130〜140年ほども経ていても、紙質は腰があってしっかりしている。紙焼けによる褐変がむしろよい雰囲気の古味になっているくらいだ。

1枚目は地中海や黒海をかこむ、中欧・西アジア・北アフリカの山脈図。上が西になっているので、ぱっと見で「どこだこれ?」とおもってしまうかもしれない。2枚目は世界の火山帯・地震帯を示したもの。3枚目は北極海、グリーンランドとエルズミーア島とをへだてるバフィン湾のあたりを描いたもの。4枚目は潮汐図。5枚目は各地の特徴的な動物、6枚目は同じく鳥類や魚介類の分布を示す。そして7枚目は18世紀後期にドイツの医師ヨハン・F・ブルーメンバッハが提唱した「コーカシア(白色)」「モンゴリカ(黄色)」「エチオピカ(黒色)」「アメリカナ(赤色)」「マライカ(茶色)」の5大人種という分け方にもとづき、それぞれの分布をあらわしたものだ。

当時は西洋の地理学が日本に入ってきたばかりのころで、教科書も洋書を邦訳したものしかなかったのだが、訳語も試行錯誤の段階だったため、今日一般に使われている用語や外国地名の表記などもだいぶ違うし、本によってもバラつきがあった。そのへんが今の人々にとってはわかりにくいといえばその通りだし、一方でそこが面白いともいえる。

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