- wananakiemperor Museum
- 1F 記憶の紋様
- 057 デザインリボン
057 デザインリボン
私の両親は何か作ることを生業にしていた人間だった。
母はファッションデザイナーで父はグラフィックデザイナーだったようだ。
だからだろうか、我が家は何かを描いたり作ったりする事が自然で私が選んだ道にも理解を示してくれた。
私が学生の頃に制作で悩んでいた時に母はよく相談にのってくれたし、母が現役の頃に使っていた素材を提供してくれた事もある。
この紋様を見て思い出すのは、作品制作をしていた時の思い出だ。
作品の提出も迫った頃、夜も遅くにリビングで作業をしていた時…作品の見栄えに物足りなさを感じた私は傍にいた母に作品の装飾に使うよい素材はないか?という雑な質問に、
どんなのものがいいのよ?と母が応えてくれたのでイメージを伝えると寝室のクローゼットからくしゃみをしながら色々と素材を取り出してきてくれた。
カラフルな布生地や飾りボタン、宝石のイミテーションと多種多様だ。
出された物に思わず、作業の手を止めて見入ってしまうほどに面白い物ばかりだった。
布生地は色は様々で、生地の素材が違うので手触りはそれぞれ違って好みのものもあれば苦手な物もある。
飾りボタンはそれぞれ違う形で色も違う。オパールのような色合いの貝製ボタンやスワロフスキーのガラスで出来た物もあった。お値段が1つ500円以上のボタンがあると聞いたときは本当に驚いた。ボタンは物によるが本当に高い。
宝石はガラスだが服や小物に使えばとても華やかに見える。これもやはり高い。
私が興味がありそうなものを取り一つ一つ説明してくれた母の顔はなんだか楽しさと懐かしさが混ざっていた事も覚えている。
さて、それを見たり聞いたりしているだけで随分と時間が過ぎてしまった。
私は作業に、母は眠ろうと自室に戻ろうとする間際に「無理しないように、頑張りなさい」と言ってくれた。
その時は気のない返事を返したと思うが、今その場面を思い返すと…母の穏やかな愛情を感じる。
本当に感謝をしている。
この制作の一場面からもう何年もたった。私は母がどのような物をどう作ってきたのかを全く知らない、どう生きてきたかもだ。
聞くのは、何故か恥ずかしい。
ただ…いつかその記憶を、思い出を聞きたいと思っている。