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062 水流
私が学生の頃、紋様を描きたいと思った理由の一つに加山又造氏の春秋波濤を見た時の衝撃があった。 春秋波濤の画面は大きな山が3つあり、その右側には満月が浮かぶ。 その山には桜や紅葉。その描写から春と秋の季節が感じられる。 その山々の間には激しくうねる波のような線が表現されている。 画面構成の美しさ、モチーフの扱い方、色合い。そのどれもが私の心を揺さぶる物だった。 はじめて見たのは確か画集かポスターか…実物ではない物を見ただけなのにこの力、恐ろしい。 私自身、この作品を見てモチーフの描き方をみて非常に大きな衝撃を受けたがその波、水のうねりだ。 一本一本の線がその透明な水の流れや動きを表していると感じたからだ。ただの線でありながらそれを体感させることが出来るその力に。 そこで次の紋様を描くのを迷ったときにこの水のラインを描きたいと思い始めた。 この紋様はその考えから出来上がったものだが…描き終わった後に気づいた事がある。 それは他人の、春秋波濤のラインを真似して描いたところで得る物は少ないという事だ。 もし私が人に体感させられるほどの水流を描く力を得たいと思うのであれば、実物を観察しその物の動きを捉えなければいつまでたっても上達しないということだった。 あぁ、道は険しく永いのだった…。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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057 デザインリボン
私の両親は何か作ることを生業にしていた人間だった。 母はファッションデザイナーで父はグラフィックデザイナーだったようだ。 だからだろうか、我が家は何かを描いたり作ったりする事が自然で私が選んだ道にも理解を示してくれた。 私が学生の頃に制作で悩んでいた時に母はよく相談にのってくれたし、母が現役の頃に使っていた素材を提供してくれた事もある。 この紋様を見て思い出すのは、作品制作をしていた時の思い出だ。 作品の提出も迫った頃、夜も遅くにリビングで作業をしていた時…作品の見栄えに物足りなさを感じた私は傍にいた母に作品の装飾に使うよい素材はないか?という雑な質問に、 どんなのものがいいのよ?と母が応えてくれたのでイメージを伝えると寝室のクローゼットからくしゃみをしながら色々と素材を取り出してきてくれた。 カラフルな布生地や飾りボタン、宝石のイミテーションと多種多様だ。 出された物に思わず、作業の手を止めて見入ってしまうほどに面白い物ばかりだった。 布生地は色は様々で、生地の素材が違うので手触りはそれぞれ違って好みのものもあれば苦手な物もある。 飾りボタンはそれぞれ違う形で色も違う。オパールのような色合いの貝製ボタンやスワロフスキーのガラスで出来た物もあった。お値段が1つ500円以上のボタンがあると聞いたときは本当に驚いた。ボタンは物によるが本当に高い。 宝石はガラスだが服や小物に使えばとても華やかに見える。これもやはり高い。 私が興味がありそうなものを取り一つ一つ説明してくれた母の顔はなんだか楽しさと懐かしさが混ざっていた事も覚えている。 さて、それを見たり聞いたりしているだけで随分と時間が過ぎてしまった。 私は作業に、母は眠ろうと自室に戻ろうとする間際に「無理しないように、頑張りなさい」と言ってくれた。 その時は気のない返事を返したと思うが、今その場面を思い返すと…母の穏やかな愛情を感じる。 本当に感謝をしている。 この制作の一場面からもう何年もたった。私は母がどのような物をどう作ってきたのかを全く知らない、どう生きてきたかもだ。 聞くのは、何故か恥ずかしい。 ただ…いつかその記憶を、思い出を聞きたいと思っている。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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055 マイ ヒーロー
うーん、アンパンマン。 この紋様を見て出た始めの言葉。 いや、本当はこれトランプの柄か何かをモチーフにした物だと思うのだけど…どうもアンパンマンにみえて仕方がない。何故だろう。 ひし形がみっつ並んで区切られているからだろうか? アンパンマンは私が幼少期の頃に見ていたテレビ番組の中でもトップ10に入ると思う。(他は機関車トーマス、はたらく自動車、おかあさんといっしょ、ディズニー、仮面ライダー、ウルトラマンや戦隊物といった感じ) 当時みていたものは母が私の為に録画しておいてくれたものだった。 VHSに。時代を感じる…。 さて、アンパンマンには色々な思い出がある。 数ある思い出の中でもすぐに出てくるのは「食べ物」に関する思い出。 アンパンマンは自らの顔をあげて人に食べさせたり、他にも食べ物がモチーフのキャラクターがたくさんでてくる。当然、アニメなので実際に食べる事はできないが「もし、食べられたらどんな味なのだろうか?」という事をすごく想像していた。 カツどんマンやてんどんマン、かまめしどん…(よくバイキンマンの餌食になる) そして特に味が気になっていたのはアンパンマンの鼻とほっぺの赤い部分。 アニメ本編には関係ないが他には、アンパンマンのオレンジ味のグミも鮮明に覚えている。 透明なプラスチックのシートにアンパンマンたちのキャラクター達がグミになって並んでいる物だ。グミは当然美味しいが、あれがばらばらにならないようにする為にある(?)食べられる透明なシートも妙に好きだった。あれはなんなのか… そして食べ終わった後もこのグミのプラスチックシートは活躍する。 このプラスチックシートはキャラクターグミ達が入っていたため「型」ができている。 その型に水を入れてもらい冷凍庫へ。そう、翌日にはそのキャラクターの形の氷ができジュースにいれて楽しめるのだ。なんと素晴らしいアンパンマングミ。 と、ここまでアンパンマンの話をしてきたが、私が一番好きなキャラクターは… バイキンマン。
イラスト ワナナキ帝国製 105円紋様採集士ワナナキ
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054 ルール
正直に言うと…。 記憶の紋様なのに、その紋様の作者なのに…大して語れる思い出がない紋様がある。 別にその紋様に思い入れが無いわけではないし価値が低いと思っている訳ではない。 そういうのは大抵は描きたい、腕を動かしたいという衝動に駆られていたり。ある紋様の派生(描くときのルールを少し変えたもの)だったりする。 ただ、私がこういう状態になるときは決まって次に描く紋様が決まっていないとき…つまり紋様を思いつかないときだ。 私は何かに煮詰まると頭の頂点からうなじあたりが熱くなる気がする。皆様はそんな経験はないだろうか? そういった想像の行き止まりの中で考えたこの紋様は…過去に描いた紋様の描くときのルールを変えて派生させることだった。恐らく034、040辺りを参考にしたものだと思う。 更にルールといえば…記憶の紋様(当時:紋様パネル)を作るときに守っているルールがある。 一つのコンセプト(当初は紋様のパターンデータブック)があってその作品群を作るときに守るべきルールを作っておかないと作品の方向は無秩序で多方面に向いてしまいバラバラ…同じ世界観の中で存在できなくなってしまうからだ。 ルールは大きく3つ ①過去に描いた紋様と同じ、あるいは酷似している紋様を作品群に登録しない(このためにカタログを用意している) ②ペンの色は2色で黒と暖灰色。画面の構成に使う色は黒、灰、白とする(デリーターのネオピコマルチライナーを使う) ③パネルに水張りをし作品としての形態をとること この3つを守っている。近いうちに3番目のルールは変わるかもしれないが、1と2はこの作品を作り続けるうちは守ると思う。 何かを創り出す時にルールは邪魔になることが多いが、一度作り始めたらこういう自らを縛りつけるルールは自分にも他者にも爽快感を生み出してくれると思う。 ルールは道標だ。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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053 鱗の線
「記憶の紋様」という名前がつく前、紋様が描かれたパネルのたちの名称はただの「紋様パネル」だった。 味気がない…がそもそもこの作品ははじめ大して深く思考されて作られた訳じゃないからだ。 学生の頃、ペンで細密紋様を活かしイラストレーションを描いていたがA4の紙を埋めて完成させるのにも3週間程かかっていた。骨が折れる…もー大変。 もちろん完成したときの充足感は非常に大きな物だったが…。 そこで考えたのが「紋様」を描きそれをスキャンしデータとして取り込み、イラストの決められた領域に落とし込めば楽じゃないか!という邪ま?な考えがあった。つまりパターンブック、データとしての役割を期待して作り始めたものだった。 結果から言うと…私の内なる作り手の声がそれを許さなかったのでこの計画は成功しなかった。 「一つの世界を描く時。そのペンを握る腕、手、指を動かし、一本一本の線を描くことが作品に魂を吹き込むのだ」 -----内なる作り手の声----- なんてね。そもそもマッチ箱程度の描画領域の紋様サイズでは複製して並べてもすぐにつなぎ目が見えてしまってみっともないからダメ!というのが理由。ずぼらしてはうまくいかないという事だ。 そしてこの文章を書いていて、当時描いていたイラストはデータとして残っているのかと探したところ…ありました。キャプションは「と或る森の行進」だった。 さぁ…新たな森を作るために、いざゆかん。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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046 奥行き
大学へ向かうために私が利用していた交通手段の一つは地下鉄だ。 地下鉄を皆様はどう捉えているだろうか?(質問がかなり大雑把) 私は身近にある異世界に身を浸すアトラクションだと思っている。人が少ない時間帯は特にそうだ。 私はその日、大学へ向かうため(帰るためだったかもしれない)にいつも通り地下鉄の先頭車両に乗り運転席の向こうの景色を見ていた。 ふと、背後を振り返った(なぜあの瞬間に振り返ったのだろう…) その瞬間、驚きで身が固まった。 綺麗に一直線に並んだ車両。 そして、車両と車両をつなぐ扉の小窓から見えるのは、まるで合わせ鏡のように続く後ろの車内の風景だ。 小窓に嵌め込まれたガラスの影響で奥にいけばいくほど薄暗くなっていく車内に人は一人も見えない。 自分が奇妙な時間と空間に入り込んでしまった…と興奮していた。 しかしその奇妙な時間は本当に僅かだった。 駅と駅をつなぐ時間はたったの3分程度、異界にいられるのは本当に少し。 すぐに人が待つホームへ電車は入り、車両には人が乗り込んでくる。 あの体験は大学に在学している間に一度しかなかったが、あの衝撃は忘れられない。
イラスト ワナナキ帝国製 数百円紋様採集士ワナナキ
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044 孔雀の羽
不思議な鱗を持った魚がゆらゆらと空を泳いでいる。その鱗はまるで孔雀の羽のようだった。魚は私の目の前を横切り、遠くへ行こうとした瞬間…目が覚めた。不思議な魚の夢だった。 目が覚めた時はしばらく枕から頭を上げることが出来なかった。私は感動の余韻に浸っていたからだ。特に色彩に。 あぁ、あんな色彩を自由自在に操ることができれば…とも同時に思っていた。私は色彩を扱う能力が不足していてそういったことに苦労する事が多かった。ただあの魚を見てからは苦手な色彩に勇気を持って向かう場面も増えた気がする。もう一度、夢の中で会えたらお礼を言おう。
2009年 ワナナキ帝国製 プライスレス紋様採集士ワナナキ
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042 斜線の糸
描いているときは糸をイメージしていたけど、見ていると湧いてくるイメージが変化する事がある。 紙が大量に積み重なり、紙一枚一枚が映し出す非常に繊細な「影」が想起された。 しかし紙の影はもっと細く、目に見えるかどうかも怪しい…幻視のようなもの。理想の線には程遠い。 それを実感した時にもっと…いやぁもっと繊細な線が描きたいな!と声に出してしまった。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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040 奥行きのある網
錯視のある画面に仕上げたいと思っていた(恐らくエッシャーか何かを見ていたと思う)がうまくいかないなぁ、と出来上がった画面を見ていたら…いやこれはこれでオッケー!うんうん!なんて収蔵。 自分の中でセーフとアウトのライン引きは感覚的に行われている。アウトな紋様は、描き始めてすぐに予感のようなものはある…不思議なものだ。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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038 遺跡の紋様
ケーブルテレビでネイチャーのチャンネルをつけながら紋様を描くことは多く、その中から紋様を採取することもある。その思い出の中の一つで遺跡の特集をしていた時に思いついた紋様。遺跡の岩に掘られた紋様を見てその紋様を掘った人間はその当時何を考えて掘っていたのだろうかと思いを巡らせていた。 お腹すいたなー晩御飯何かなーとか…なんてね。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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037 ラーメンドンブリ
何時からかはわからないが、あんたは老人みたいだと言われている。 大体、食の好みであったりとか言動や老け顔であったりとか理由は様々だ。書いていて悲しくなってきた。 以前はこんなことを言われても気にならなかったが…あるときふと気付いてしまった。脂っこいものを食べられない…体質が原因か老化が原因か。出来れば前者であってほしいとは思う。ラーメンは結構好きだが食べると高確率でお腹をくだす…
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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036 海の波
私が紋様を描きたいと思った動機、影響の一つに加山又造氏の日本画がある。春秋波濤という作品を画集で見たときに非常に大きな衝撃と電撃が心に発生したのを覚えている。色彩、世界観は勿論だが何よりもその線に心と目を奪われた。私にもこんな線が描けたら…と当時の私は思っていた。 ちなみにこれを描いているときにふと頭の中で走った疑問は、この地球が始まって以来、海の波は大地に何回押し寄せただろうか?ということ。わかったらすごいなぁ。
イラスト ワナナキ帝国製 5000円程度紋様採集士ワナナキ
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035 余裕のある布地
祖母の家にダメージパンツを履いて行った時に祖母が私に言ったこと。 祖母「あんた、どうしてそんなボロを着てるの?ルンペンみたいやわぁ…アハハ」 私(えぇー!!) なるほど、これがジェネレーションギャップか…と内心で呟いていたけど結構ショックを受けていた(笑) その頃からか、そのダメパンを履かなくなっていった…影響力は大きい。
イラスト ワナナキ帝国製 5000円程度紋様採集士ワナナキ
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034 立体感の四角
パネルを描き終えた後は心地よい疲労感と達成感に包まれてぼんやりとしてしまう。大体、そういう時にすることというとボーっとそのパネルをみている。その時にふと不思議な立体感を感じるようになっている事に気付いた。 たった3色しか使っていなくても人の目はそういう風に脳に見せるのか…と静かに感動した。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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027 複雑に絡む繊維
祖母の家に以前は竹?かなにかで編まれて作られた椅子がおいてあった。祖母が元気な頃は日がな一日、その椅子に座って大好きな時代劇を見ていた。新浦安にあったその部屋は海が近く、晴れた日は暖かい日差しが差し込みその部屋の穏やかな空気を作っていた。 そこにいる間は普段は見ない時代劇を祖母と見ていた。私はその空間と時間が好きだった。 ただもうそこは引き払ってしまったので、その空間も時間も無い。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ