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062 水流
私が学生の頃、紋様を描きたいと思った理由の一つに加山又造氏の春秋波濤を見た時の衝撃があった。 春秋波濤の画面は大きな山が3つあり、その右側には満月が浮かぶ。 その山には桜や紅葉。その描写から春と秋の季節が感じられる。 その山々の間には激しくうねる波のような線が表現されている。 画面構成の美しさ、モチーフの扱い方、色合い。そのどれもが私の心を揺さぶる物だった。 はじめて見たのは確か画集かポスターか…実物ではない物を見ただけなのにこの力、恐ろしい。 私自身、この作品を見てモチーフの描き方をみて非常に大きな衝撃を受けたがその波、水のうねりだ。 一本一本の線がその透明な水の流れや動きを表していると感じたからだ。ただの線でありながらそれを体感させることが出来るその力に。 そこで次の紋様を描くのを迷ったときにこの水のラインを描きたいと思い始めた。 この紋様はその考えから出来上がったものだが…描き終わった後に気づいた事がある。 それは他人の、春秋波濤のラインを真似して描いたところで得る物は少ないという事だ。 もし私が人に体感させられるほどの水流を描く力を得たいと思うのであれば、実物を観察しその物の動きを捉えなければいつまでたっても上達しないということだった。 あぁ、道は険しく永いのだった…。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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061 ゲーム画面
この紋様の素になったのは旅番組でみた織物。しかも日本円では相当安かった。 そして、この事に関して思い出は少なくしいて言えばいつかは本物を見たいなぁとか旅をしたいなぁとかその程度の事。 今の私がこの紋様を見て思い出すのは…ゲームの思い出やゲーム画面が映ったブラウン管テレビの思い出だ。ブラウン管(今はもう絶滅危惧種?)の画面に顔を近づけてみると…極細の点線が光り画面を演出しているしている事に気付いたときには本当に感動した。勿論、そんな風にしていると親にその様子をみられて怒られたのは良い思い出。 ところで私が初めてゲームに触ったのは恐らく小学校に入る前の事。父の仕事場にありマックに入っていたファクトリーゲームやミサイル防衛ゲームだったと思う。 やる事は現在のゲームと比べると非常に単純なもの。流れてくる物にタイミングよくボタンを押して物を作ったり、降って来るミサイルにタイミングよく照準を合わせてクリックをするという内容だ。 昔のゲームでゲーム内の景色は非常に単純、それをよく想像し絵に描いていたのを覚えている。 そして、ファミコン(我が家はツインファミコン)、ゲームギア、スーパーファミコン、セガサターン(プレステじゃなかった!)、64、ゲームキューブとPS2…と私のゲーム史は続いていく。 昔はフロッピーディスクなどでゲームをやっていたなんて…今では想像もできないのではないだろうか?昭和から平成にかけてのデジタルゲームの進化はめまぐるしい物があったと思う。 本当に感慨深い。
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059 中華料理店の窓
この紋様を見て、何故か思い出すのは中華料理屋での思い出だ。 何故かとつけたのは、別にこの紋様がその料理店の窓の枠にそのままそっくりという訳じゃないからだ。 だけど不思議と思い出す。雰囲気が似てるのだろうか? ただ中華料理店での思い出はあまり面白い物じゃない。 母が休日に、幼い私をひとり家に残しておくのは不安だからか定期的にいくママさんバレーにつれていかれた。その練習後によく行っていた中華料理店を思い出す。 今なら連れて行かれて物を食べさせてもらえるなら万々歳だが、当時の私は小食でよく周りの大人から「一杯食べろ」とか「元がとれない」とか言われて非常に大変だったし、内心憤慨していた事を覚えている。この大きい人間達はなんて勝手な生き物なんだ!なんて無表情で考えていたものだ。 そんな思い出も、もはや20年以上前の話だ。 私は既にこのお店があった近所から引っ越してしまった。 つい最近(記録の為に日付を記しておく2018年12月の話)に仕事の都合でその近辺に行く事があった。そして、そういえばここはあの中華料理店の近くだ…と思いそこに行ってみた。 果たしてお店はあるのか… あった。 そのお店は古いビルの1階テナントだ。 ビル周辺は開発が進み無機質に新しくなっている中、その古いビルは存在しお店の看板もあった。 ありきたりな表現だが、そこだけは流れる時間から取り残された場所のようだった。 外から様子を見てみると、お店は定休日のようでシャッターが下りていて中をうかがうことはできなかった。 いざビルに入ってみると相変わらず薄暗く少し汚いが色々なお店が入っていた。 ただ記憶と一致するお店は少なかった。あぁ、ここにあった本屋はコンビニにかわったのか…ゲームセンターはクリーニング屋に…と記憶と今を照らし合わせて歩いていると今あるお店と、かつてあったお店の風景がダブって見える。そこには母や大人たちの会話に参加できず暇をもてあました私の姿も見えた。思わず、何も無いのにフフッと笑ってしまったのでいけない!と周りを見てしまったが。誰もいない。 さて、最後にそのお店の食べ物で覚えているお話。 そのお店は中国人の方たちが厨房とホールを回しているお店でおいしかった。 私は常にプレーンなラーメンを食べていたのを覚えている。 スープは恐らく鶏ベースであっさり、千切りされた葱がのっていて傍らには私的に絶対に欠かせないメンマ。 麺はほどよい太さのちぢれ面、チャーシューはそこそこな厚さ。海苔も入っていたはずだ。母が追加で頼んでくれる餃子もまた美味しかった。こうして思い返しながら書いているとお腹がすいてくる…。 それだけ食べればおなか一杯の私は興味が無かったが大人たちは坦々面や水餃子、普通の餃子、チャーハン、卵スープ、レバニラ、ニラ玉とテーブルの上は非常ににぎやかだ。 なんだ、思い出してみるとあのお店での思い出もそう悪くないじゃない。 また近いうちに仕事でお店の近くに行く事がある、今度こそ思い出の味を再び味わえたら嬉しい。 …追記… 2019年1月上旬、付近で仕事を終わらせた私は「さぁ、中華料理店へ」と例の古いビルへと向かった。 現場から歩いて10分程度のビルに入り中華料理店の前に来たが…妙だ、シャッターが閉まっている。 平日なのに?定休日だろうか? 時間は19時、書き入れ時じゃないか… そこで外に回って店の中をのぞいてみると…どうもおかしい。 中は机や椅子等はあるが人が使っている感じがしない。 これは…と思い付近のパン屋の若い女性に聞いたがわからないとの事。 ムム、ならばと思い宝くじ売り場のおば様に中華料理店の現状を聞いたところ… 一年前に閉店したとの事。 タッチの差でしたね…なんて言われしまった。 そうですか、ハハ…ありがとうございました。と 乾いた笑いと共にそこを立ち去る私に、なんともいえない寂しさと空しさが去来した。 そうか、無くなってしまったのか…と近くの横断歩道を渡りながら呟いてしまった。 もう、二度と味わえないのだと。今まで大事にしていなかったのになくなった途端にこれである。 この事は母にも報告をした。 そう…あそこ美味しかったのに残念ね。開発の区画にでも入っているのかもしれないね。 との事。本当の所はどうかわからないが、あそこで働いていた中国人の人達が今でも元気である事を願うばかり。 そして、あの味は思い出の中にのみ残る…幻へ。 あぁ、ラーメン…食べたかったなぁ。
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058 パーティクルボード
木片を圧縮し、一つの木材へと加工したものをパーティクルボードといい、家具にも使われている。 一つの板を無数の木のチップで形作っているので一つ一つの木の紋様が美しくみえる物がある。 この紋様を描いているときはその木の繊維、一本一本を描くつもりで描いていた。 ちなみに、紋様から思い出すのは自宅にある勉強机の事、もうひとつは児童館の工作室の思い出。 どちらにしようか…どちらも忘れられない思い出です。 決めました、墓場まで持っていくつもりだった内緒をお話しましょう…。 さて、あれは小学生の頃。 私は子供部屋に、憧れの立派な勉強机を置いてもらいました。その机の一番上の引き出しには鍵がついています。 そこに大切なものや、秘密にしたいものをいれて隠しておける特別な場所を手に入れた!と少し大人になったつもりでいた私はフィギュアや道具をそこにいれて訳もなく鍵をしていました。 そこに合鍵も入れて…これが悲劇の始まりです。 ある日、引き出しの鍵を開けようとしたら…鍵が無いのです。 結局その後も見つかっていないので外で落としてしまったのでしょう。 それを悟った瞬間、思考が停止し足が棒のように固まってしまったことを覚えています。 中に入っている物と永遠のお別れなのか…なんて大袈裟に考たり。 そうだ、合鍵!閉じ込められている…うわぁ!バカァ! 一つ賢くなりました、合鍵は自分だけが知る別の場所に保管しましょう。 さぁ、ここから親にばれないように引き出しを開け、中身を脱出させるゲームの始まりです。小学生のワナナキくんはどのように引き出しを開けたのでしょうか?ここからは現在のワナナキが当時の私の様子を実況放送させていただきます。 少し時間がたったおかけで落ち着いた様子、机のなかの物を取り出すために引き出しを観察し始めました! 鍵は金属製、スパイ映画のようにピッキングなんてできないし簡単には壊せません。 そもそもそこを壊したら親にばれてしまいます。これは確実に怒られますねー。 部屋に定期的に掃除にくる親にばれないためには机の外見に変化があるのはまずいですからね。 おっと、次は下からのアプローチ。 かがんで引出しの下板をみると材質は柔らかいので穴をあけて壊せそうです…ただ合鍵がどこにあるかがわからないし下板に穴を開けたら引き出しとして役に立ちませんしばれる恐れもあります。 おっと、早くもここで手詰まり万事休すか?!…ワナナキくん、うずくまって引出しを押したり引いたりしています…無情にも時間だけが過ぎていく。 しばらくして… おや、引出しの引っかかりから何かを閃いた模様。 机と引出しの隙間を観察し始めました。 どうやら、この引っかかりがなければいいんじゃない?と考えているようです。 どうやら、隙間から微かに見える金属の板。それが机にあるくぼみにはまり、引き出しがそれ以上開かないようにしていることがわかりました。 この引っかかりさえどうにかすれば外見はなにも損なわずに引き出しを開放できます。正に一石二鳥。 おや、ここでワナナキくん子供部屋からでていきました。どこへいったのでしょう? すぐに戻ってきました。 手に何かを持っていますね…あれはまさか、「ノコギリ」だ!父の書斎の工具箱からノコギリを黙って借りてきたようです。 しかもあれは金属も切ることができるノコギリだ、ちょっと賢い! 早速、隙間に刃が入るかを確かめています。上手い具合に入りました…あとは本当に切れるのか、それが問題です。 刃を金属にあて、数回押したり引いたり…隙間から状況を確認、どうか? 削れている!ぱらぱらと床に落ちる金属の粉末がその証拠、これならいけます! ノコギリの刃に刃こぼれもありません! …という事で、無事?外見になんの変化もなく引き出しを無事開けることが出来て小躍りしたのが懐かしいです。 切り終わったあとにちょっと自分、頭がいいなんて思っていた気がします…完全に自分の予測能力不足が原因なのですが。 勿論、そのあとは鍵をかけられなくなってしまいましたが仕方がありません。 机を傷物にしてしまったなぁ、とガッカリしたのも今ではよい思い出…。 この話を書き終わってから母に。 ねぇ、机の引き出しの鍵…壊れてるの知ってる? 知らない、なんで? なんでもありません、理由は内緒です。
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057 デザインリボン
私の両親は何か作ることを生業にしていた人間だった。 母はファッションデザイナーで父はグラフィックデザイナーだったようだ。 だからだろうか、我が家は何かを描いたり作ったりする事が自然で私が選んだ道にも理解を示してくれた。 私が学生の頃に制作で悩んでいた時に母はよく相談にのってくれたし、母が現役の頃に使っていた素材を提供してくれた事もある。 この紋様を見て思い出すのは、作品制作をしていた時の思い出だ。 作品の提出も迫った頃、夜も遅くにリビングで作業をしていた時…作品の見栄えに物足りなさを感じた私は傍にいた母に作品の装飾に使うよい素材はないか?という雑な質問に、 どんなのものがいいのよ?と母が応えてくれたのでイメージを伝えると寝室のクローゼットからくしゃみをしながら色々と素材を取り出してきてくれた。 カラフルな布生地や飾りボタン、宝石のイミテーションと多種多様だ。 出された物に思わず、作業の手を止めて見入ってしまうほどに面白い物ばかりだった。 布生地は色は様々で、生地の素材が違うので手触りはそれぞれ違って好みのものもあれば苦手な物もある。 飾りボタンはそれぞれ違う形で色も違う。オパールのような色合いの貝製ボタンやスワロフスキーのガラスで出来た物もあった。お値段が1つ500円以上のボタンがあると聞いたときは本当に驚いた。ボタンは物によるが本当に高い。 宝石はガラスだが服や小物に使えばとても華やかに見える。これもやはり高い。 私が興味がありそうなものを取り一つ一つ説明してくれた母の顔はなんだか楽しさと懐かしさが混ざっていた事も覚えている。 さて、それを見たり聞いたりしているだけで随分と時間が過ぎてしまった。 私は作業に、母は眠ろうと自室に戻ろうとする間際に「無理しないように、頑張りなさい」と言ってくれた。 その時は気のない返事を返したと思うが、今その場面を思い返すと…母の穏やかな愛情を感じる。 本当に感謝をしている。 この制作の一場面からもう何年もたった。私は母がどのような物をどう作ってきたのかを全く知らない、どう生きてきたかもだ。 聞くのは、何故か恥ずかしい。 ただ…いつかその記憶を、思い出を聞きたいと思っている。
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056 アソート
色々な円、円の線を配したパネル…円のアソートを描こう と、思い描いた紋様。 この手の紋様は一つのルールに単純な形で手を替え品を替え色々と派生する。 円の次は、四角だ三角だ!と言う具合で。 さて、唐突ですが皆様。 好きな食べ物は何ですか? 明日世界が終わるとしたら最後の晩餐に何を食べるか…なーんてそんな重大?な質問ではなく私生活で普通に食べるもので好きな物です。 私はパッと思い付くのは「たこ焼き、ドーナツ」 たこ焼きのどこをとても愛しいと思っているかは別に機会に…この二つは何故か特別です。 幼少の私の落書き帳には必ず出現するくらいに。理想の形を追求するためにどれだけ円を描いた事か…(もしかしたら001が円なのはそれが原因か?) この紋様で思い出すのは、円とアソートのお話。 小学生の頃、親にミスタードーナツに連れていってもらいトレーとトングを自分で持ちドーナツを選んでいた時。 チョコファッションやフレンチクルーラ、エンゼルフレンチ…自分がいつも食べる物を載せていたらある商品に目が止まりました。 舟に入った玉状のドーナツ…。 え、たこ焼き…?! その正体は「D-ポップ」でした。(2013年8月までの販売の模様) その商品形態に惹かれて即トレーに載せて母の元へ。 買ったらイートインで座りD-ポップを観察。 一口サイズの球状、6個のドーナツはそれぞれが違う装いのアソート。 ①プレーンなオールドファッション玉 ②プレーンに半分程チョコに浸けたチョコファッション玉(作る人によってチョコのついている部分の比率は異なる) ③チョコ生地にココナッツパウダーをまぶした玉 ④チョコ生地に黄色いつぶつぶをまぶした玉 ⑤砂糖がまぶしてあり柔らかいフニャッとした玉(たしかクリーム入り…) ⑥ストロベリーチョコソースがかかった玉 が一舟の中の同席していました。更に脇にはつまようじならぬフタマタ楊枝までますますたこ焼きっぽい!と心のなかで思っていた気がします。 ただ、味は①から④はいつも食べる味だったのではずれなし。 ⑤と⑥は、私の好みではなかった…(だから記憶が曖昧) たこ焼きっぽさに惹かれて買い、食べ終わってから冷静になって…。 あれ、これを買うならもう一個好きなやつを買ったほうがいいんじゃない?と真顔になった思い出があります。 円のアソート紋様を見ながらドーナツアソートを思い出していたら、ドーナツを食べたくなってしまいました。 好きなものを、食べにいこう!
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054 ルール
正直に言うと…。 記憶の紋様なのに、その紋様の作者なのに…大して語れる思い出がない紋様がある。 別にその紋様に思い入れが無いわけではないし価値が低いと思っている訳ではない。 そういうのは大抵は描きたい、腕を動かしたいという衝動に駆られていたり。ある紋様の派生(描くときのルールを少し変えたもの)だったりする。 ただ、私がこういう状態になるときは決まって次に描く紋様が決まっていないとき…つまり紋様を思いつかないときだ。 私は何かに煮詰まると頭の頂点からうなじあたりが熱くなる気がする。皆様はそんな経験はないだろうか? そういった想像の行き止まりの中で考えたこの紋様は…過去に描いた紋様の描くときのルールを変えて派生させることだった。恐らく034、040辺りを参考にしたものだと思う。 更にルールといえば…記憶の紋様(当時:紋様パネル)を作るときに守っているルールがある。 一つのコンセプト(当初は紋様のパターンデータブック)があってその作品群を作るときに守るべきルールを作っておかないと作品の方向は無秩序で多方面に向いてしまいバラバラ…同じ世界観の中で存在できなくなってしまうからだ。 ルールは大きく3つ ①過去に描いた紋様と同じ、あるいは酷似している紋様を作品群に登録しない(このためにカタログを用意している) ②ペンの色は2色で黒と暖灰色。画面の構成に使う色は黒、灰、白とする(デリーターのネオピコマルチライナーを使う) ③パネルに水張りをし作品としての形態をとること この3つを守っている。近いうちに3番目のルールは変わるかもしれないが、1と2はこの作品を作り続けるうちは守ると思う。 何かを創り出す時にルールは邪魔になることが多いが、一度作り始めたらこういう自らを縛りつけるルールは自分にも他者にも爽快感を生み出してくれると思う。 ルールは道標だ。
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053 鱗の線
「記憶の紋様」という名前がつく前、紋様が描かれたパネルのたちの名称はただの「紋様パネル」だった。 味気がない…がそもそもこの作品ははじめ大して深く思考されて作られた訳じゃないからだ。 学生の頃、ペンで細密紋様を活かしイラストレーションを描いていたがA4の紙を埋めて完成させるのにも3週間程かかっていた。骨が折れる…もー大変。 もちろん完成したときの充足感は非常に大きな物だったが…。 そこで考えたのが「紋様」を描きそれをスキャンしデータとして取り込み、イラストの決められた領域に落とし込めば楽じゃないか!という邪ま?な考えがあった。つまりパターンブック、データとしての役割を期待して作り始めたものだった。 結果から言うと…私の内なる作り手の声がそれを許さなかったのでこの計画は成功しなかった。 「一つの世界を描く時。そのペンを握る腕、手、指を動かし、一本一本の線を描くことが作品に魂を吹き込むのだ」 -----内なる作り手の声----- なんてね。そもそもマッチ箱程度の描画領域の紋様サイズでは複製して並べてもすぐにつなぎ目が見えてしまってみっともないからダメ!というのが理由。ずぼらしてはうまくいかないという事だ。 そしてこの文章を書いていて、当時描いていたイラストはデータとして残っているのかと探したところ…ありました。キャプションは「と或る森の行進」だった。 さぁ…新たな森を作るために、いざゆかん。
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052 ぜんまいからリスの尻尾へ
大学の図書館は宝庫。ただ私が学生の頃は一部の学生以外は利用していなかったようだった。 当時はキャンパスが工事中で通行止めが多く図書館に行くのが不便だったから…かもしれない。お陰で人は少なく机はどこでも座れて静かに作業が出来るいい場所だった。作業というのは図鑑などを見てそれを模写する等。この紋様は山菜のぜんまいを意識したものだと思うが…今見るともやしにも見える。 ちなみにモチーフと完成した紋様から喚起される思い出が違うのは良くあることだ。 完成してしばらくおいて、改めてみると…何故か幼少期に見ていたアニメのスカンクやリスのキャラクターを思い出す。特に二匹のリスとアヒルの小競り合いの話だ。 この争いの勝者は大体…リス、うまくいって両成敗。私はアヒルの方が好きだったのでこの結果が納得がいかなかった。アニメの結果は変わらないので妄想でアヒルに勝たせるための作戦を練ってそれを実現するためのガジェットを紙に描いていた。改めてそれらを見てみたいが…果たしてどこへいったのやら。
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049 冷蔵庫内の食品サンプル
この紋様のどこが冷蔵庫内の食品サンプル…? ごもっとも! この紋様は四角い渦巻きを一つずらす度に回転させている紋様で、部分的には雷紋となっている。 雷紋といわれれば…中華食堂のラーメンドンブリのふちを思い出すが… この紋様に対する私の思い出はおいしいラーメンのお話ではない。 そう、食品サンプルのお話だ。 その冷蔵庫の食品サンプルにたどり着くためには、時は20年以上前…自宅から20分程度歩いた場所の住宅展示場へ行かねば! 親に連れられていった住宅展示場で何もする事がなく退屈だった私はキッチンにたどり着き、家の冷蔵庫よりも大きいその冷蔵庫の一番上を何気なく開けた。冷気が流れてくると思っていたが予想に反して冷たくない。 あぁ、展示場だから誰も住んでないし動かす必要が無いのかー…なんて思いつつ冷蔵庫の中を見ると。 中身がある。 卵のパックや麦茶の入ったガラスポッド、見たことの無いブランドの牛乳パック… 常に腐らないように入れ替えているの!?なんて事を考えて手に持つと…軽い。 そう、これが冷蔵庫内の食品サンプルなのだ。 卵は底に穴が開いていて中身はなく、それが10個程度入ったパックがあり。(恐らく黄身と白身をその穴から抜いたのだろう) 麦茶だと思っていたの物は紙に印刷したものがポッドにロールで入っている。 見たことの無いブランドの牛乳パックも展示場の人が作ったのだろうか? 騙された!本物じゃないんだ!という驚きと面白さから退屈さは吹き飛び、次の中段…今で言う野菜室には何が入っているのか?というワクワク感でたまらなかった。 その中段には…やはり入っている。 バナナ一房レタス一玉だ。どっちも嫌いなのでそっと閉じる。 最後は下段、冷凍室だ…中身はなんだろうなー…やはり入っている。 スーパーで普通に売られている冷凍食品だ。恐らく展示場の人が食べてそれを改めて封をし、いれたのだろう。 下の段にいくにつれ情熱の尻すぼみが感じられるが、この冷蔵庫は退屈だった私を本当に驚かせてくれたし、楽しませてくれた。 そもそも展示場の家はどれも人が住んでいる感じがせず楽しくない。 なのにこの冷蔵庫だけは異質だった。人の生活感を出そうとする執着のようなものが見えて、人らしさを感じた。だから覚えているのだ。 展示場の人と話を終えて私を探しに来た両親にこの事を興奮しながら伝えるとそんなに楽しいことか?と呆れられたが …。 あの無機質な家の中で有機的な冷蔵庫を演出した人はどんな考えであれを作ったのだろうか…20年たった私は今、気になっている…。
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048 彫刻刀
紋様のアイデアの素が、実はネイチャー番組なのは作品の最初期ではかなり多い。 これ自体は南の国の文化を紹介する番組の中で木彫りの紋様の意味などを解説している場面だったと思う。 当時、見ていて思ったのは大胆(大雑把だなー気候からくる性質かしら…とも思っていた)な彫りがなされた木の塊も多くの数が集まり、さらにそれを遠くから見れば非常に繊細で美しい物になるのだ!なんて小さな気付きがあったもの。 話は変わるが、記憶の紋様もこれで48個の思い出を皆様に紹介している事になる。 思い出の種類は様々。懐かしさや楽しさからくるもの、美しいもの悲しいもの…色々あって面白い。 このNo.48は「痛覚」の思い出。ちなみに48あるうちで痛覚に関する思い出は2つ、意外と少ないと思った。 痛みの思い出は思い出すと痛みも蘇る…訳ではないけどその傷があった部分を見て少しだけ苦い気持ちになる。 小学生の頃に図工の授業で木版のパートがある。(今はどうだろうか?) その木版で使うのは「彫刻刀」 自分や人に向けて木を彫らない事、刃先に手や腕を置かないこと…等と先生から注意点を教えられると思う。 でもそこに未熟な注意力を向けても事故が起ってしまうのが悲しいところ。 私が使っていた彫刻刀はしまう時に安全の為ビニルのチューブを被せる必要がある。 事件は私が使っていた「平刀」をしまおうとした時に起こった… 彫るという危ない作業を終えて油断していたのだろうか…チューブの穴に刃を入れて奥に差し込んだ瞬間。 左手の親指の腹に激痛が走った。見たら結構な勢いで血が流れている…その痛みで彫刻刀を手放してしまった。 混乱して何が起こったのかその瞬間はわからなかったが、チューブに収まった彫刻刀を良く見てみると… チューブを貫通して刃の部分が斜めに出ていて、そこが私の親指を切り裂いたようだ。(チューブの厚みは2mm以上あったと思う) つまり彫刻刀を斜めに差し入れてしまったようだが…内心、チューブに対して「お前、やられてしまったのか!?」なんて思っていた。まあ十分役割は果たしてくれたと今は思うけど… その後、それを見ていた目の前の女の子が絆創膏を応急処置としてくれたのが嬉しかったが…とにかく痛かった思い出だ。切り傷としては一番深い傷である(2018年10月13日時点) 思い出を記録し、その文を読み返しながらある事に気付き苦笑いをしてしまった。 今も微かに傷が残った親指と人差し指を無意識にこすっている自分がいることに。 ※1 平刀は刃先がまっ平らで横長の彫刻刀
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047 拡がる音
持ち手から二股に広がり真っ直ぐ伸びる鉄の棒。それを何かにぶつけると音が出る…これが何かお分かりだろうか? 音叉である。 音叉を何かにぶつけると震えながら音がでる。その震えを手で感じつつ見えない音が空間に拡がっていくあの感覚は面白い。我が家には音叉があり、それを味わった際の記憶だ。 恐らく多くの家には音叉は無いと思う。何故我が家にあったかというと…私は小学生から中学生の頃までバイオリンを習っていたからだ。ただ正直、音叉を使って調弦(それぞれの弦の音階を合わせること)したことはないが家にあった。ちなみに紋様はその音が拡がっていく様子をイメージしたものだ。 母曰く、私がバイオリンを始めたのは母にねだったからだそうだが…残念ながらそのような記憶はまったく無いし気付いたらバイオリン教室に通っていたようなものだった。 そして私の腕前はどうかというと…たいして上手くなかったし、上達しなかったと思う。母には申し訳ないがやる気がないのが理由だと思う。 結果的にバイオリンは辞めてしまうが、思い出は色々ある。 バイオリンの弓に対し、決まった方向にはしらせつづけた松脂は弓の形にへこんでいくがその様子が面白かったり、バイオリン教室が終わった後に行くレストランが楽しみだったこと、行く最中のバスの中でバイオリンケースを抱えた私のすました表情の内心は非常に憂鬱だったこと…。 文章にしきれないほど多くの思い出はあるが、バイオリンを弾くことに関する充足した思い出がないのは残念だ。 もし、あの頃の私に声をかけることができるのならば…もっと素直に恐れず、母と話し合えということだろうか。 こんなどうしようもない事を考えてしまう程に、今でも心が揺れ動いているという事に私自身が驚いている。 この文を書きながら、バイオリンに関する思い出、あの頃を静かに思い出すが…当時の思い出はいつだって鈍く暗い色で重く心にあり、悔恨の情と共に蘇る。 そして、いつも雨が降っている。
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043 防音壁
小学校の音楽室と言えば皆様は何を思い浮かべるだろう? リコーダー?ピアノ?合唱?様々な思い出があると思う。ちなみに私は音楽家の肖像画だ。 今の学校の音楽室事情はわからないけど、著名な音楽家達の肖像画飾られている学校も多いのではないだろうか?モーツァルトやバッハ、シューベルト他にもたくさん。なんであんなふうに(大体、子供の視線よりもかなり上)飾られているのかいつも不思議だった。私達が歌う歌や演奏する曲は日本の作曲家が作った曲が多いのになぁ…日本人の人物画は飾られていないのは何故か、とかね。 さて、私の思い出はと言うと…今はどうかはわからないけど、音楽室と言えばやはり学校の七不思議の栄えある舞台の一つの筈!肖像画の目が動くとか血を流すとか…ピアノが無人で奏でられているとかね。 恐怖と好奇心の天秤の皿は常に拮抗する。音楽室に一人で最初に入りたくはないし、最後に出たくは無い。けど、そんな不思議な現象をもし本当に見られたら?なんて心のどこかでは思っていた。 夕闇が迫り、合唱の練習が終わる。最後まで残っていた友達と音楽室を後にするとき。 ふと振り返る。何も起こっていない事に確認し、心に残る安堵と退屈さは思い出の一つだ。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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042 斜線の糸
描いているときは糸をイメージしていたけど、見ていると湧いてくるイメージが変化する事がある。 紙が大量に積み重なり、紙一枚一枚が映し出す非常に繊細な「影」が想起された。 しかし紙の影はもっと細く、目に見えるかどうかも怪しい…幻視のようなもの。理想の線には程遠い。 それを実感した時にもっと…いやぁもっと繊細な線が描きたいな!と声に出してしまった。
イラスト ワナナキ帝国製 不明紋様採集士ワナナキ
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041 円柱
思い出すのは石膏の白い円柱。静物(せいぶつ)デッサンのバイプレイヤーだ(ワナナキによると) ちなみに、予備校に入ったばかりの時にせいぶつデッサン?え、生き物を描くの?難しくない?なんてドキドキしていたら真逆なものが出てきて肩透かしをくらったのは良い思い出。 しかし、初めは円柱単体で課題として出てくるが回を追うごとに円柱にどんどん物が加わり難易度が増す。 布や棒、野菜や葉のついた枝など…円柱が机に立っている事を描く事に苦労し物が上に乗っていることに苦労しと… しかし、ここから全ては始まる。
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