雨風を受け流す植物たち@明治後期の博物教科書

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今朝の東京はからっとした青空におおわれていてさわやかだったが、おひるあたりからだんだん蒸し蒸ししてきて、夕方が近づくにつれ雲もひろがってきた。どうやら予報どおり、そろそろ梅雨入りらしい。

今回は雨の季節らしい細密銅版画をご覧に入れることにしよう。降りしきる雨の中の水辺の風景だが、よ〜くみてみるといろいろな生き物が描かれている。画面の上の方は主に陸棲の、そして下の方には水棲のが、顕花植物・隠花植物とりまぜてたくさん生えていて、それぞれのやり方で落ちかかる水を受け流している。そして立ち木の葉蔭では小鳥たちが雨宿りをしているし、水際には嬉しそうにはい出してきたカエルがいる。水の中には魚影もみえる。自然科学の教科書らしくそれぞれの姿形の描写に精確を期しながらも、躍動感とある種の静謐感とがなかよく同居した情趣が丁寧な仕事を通して伝わってくるようにおもう。モノクロなのに、次第にそこに鮮やかな緑が見えはじめ、ついで雨風の物音や匂いまでもが感じられるような気がしてくる。

むりやりはぎ合わせて4ページを3枚にまとめた本文を読んでいただければおわかりになるだろうが、これは雨の季節ならではの身近な自然観察をする際の着目点をわかってもらうために、模式的に1枚の絵に集約した図だ。ヘタをすればごちゃごちゃになるだけで何が何だかわからなくなりそうな要旨を的確に配置しながら、綺麗で味わいある風景画として仕立て上げている。画面を4つに分けて拡大してみると、細かな描き込みによって絵の中の世界に没入させられてしまいそうな奥行きを感じさせつつも、 それぞれの構図はちゃんと巧い塩梅にまとまっていて破綻がないし、しかし眺めているうちにどことなく頬が弛んでくるようなほんのりとしたユーモラスさも漂わせている。原画をお描きになったのが著者なのかどうかはわからないのだが、かなりの描写力と表現力の持ち主だし、それを再現している彫師の腕も相当なものではないかしらん。

しばらく眺めていると、都会であろうとも20世紀初頭あたりにはまだコンクリートで四角く固められた護岸などもなく、水辺には現代では想像もできないくらいさまざまな生き物で溢れていて、日常生活の中でもこうした観察に親しめる環境があったのだろうな、などという考えにふけってしまう。

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