100年前の子供服デザイン@大正後期の洋裁書

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子供のどこが「職業人」なの? というツッコミが入りそうだが、「子供は遊ぶのが仕事」というくらいだし、まぁ一種の「職業集団」と考えてもいーかな、ということでww

子供のための衣裳というものはそれほど古くからあるものではなく、ヨーロッパなどでもせいぜい18世紀くらいからやっと小さい人たちの身体に合った設計のものが作られるようになったようだが、明治になるまで洋装なんてものはしなかった日本での子供服はさらに後にならないと普及しなかった。需要が少なければ出来合いの製品が商品として成り立つはずもなく、我が子にそういう恰好をさせようとおもうのならば、一着一着仕立てるよりなかった。この本は裁縫学校が洋裁を自らの手でできるようになるためのテクストとして刊行していたシリーズの中の1冊で、材料や作り方のくわしい説明と共にその型紙と、それから完成した服を纏ったモデルの図とが載っている。本格的な洋裁自習書としてはかなり古い部類なのではないかとおもう。
幼児からティーンエイジャーに至るまでに向けての肌着や普段着、他所行きなどのデザインがいろいろ載っていて、眺めているだけでもたのしい。「兒童洋服」というタイトルではあるが、大半は女の子向けで、男の子用は後ろの方にちょこっと載っているのみ。やはりヴァリエーションに圧倒的な差があるからではないかとおもわれる。身体の線を強調しない直線的な仕立て方、四角い襟まわり、幾何学的な切り返しや柄布による装飾、細身のエナメルベルト、細いベルトをあしらったカッチリとしたエナメル靴など、当時欧米で流行していたアール・デコ調モードを採り入れたデザインが目立つ。描かれているモデルの子供たちも顔つきや髪形などが日本人離れしていて、輸入された尖端文化へのあこがれのようなものも感じさせられる気がする。

下着からコートに至るまで手作りする、というのは自らの工夫も盛り込めるたのしみがあるだろうが、もちろん相当に手間暇がかかる。裁縫職人としてではなく、こうした衣裳をいくつも作れたのは当然、「名もなき家事」などは住み込みの女中らに当たり前に任せられる「いいところ」の主婦や令嬢に限られただろう。あるいはその腕をもって上流階級の家に奉公に入れれば、よい条件で傭われるだろうから、そうした途を択ぶために学んだ若い女性もあったに違いない。ネットでポチれば出来合いがたちまち手に入る(けれどもこういう「作るたのしみ」は喪ってしまった)現代の状況とどちらがよいと感じるかは、人それぞれとおもうけれども。

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