Holger Hiller “Ein Bündel Fäulnis In Der Grube”

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今回は、独Palais Schaumburgの初代Vo/Gとしても有名なHolger Hillerの完全なソロとしては、ファースト・アルバムに当たる“Ein Bündel Fäulnis In Der Grube”がめでたく独レーベルBeau Bから再発されましたので、紹介していきたいと思います。Palais Schaumburgについては、以前にもバイオグラフィーは書いてありますが、Holger Hillerについては、今回が初めてなので、彼のバイオグラフィーをちょっとだけ書いていきます。Hillerは1956年12月26日、独Hamburg生まれで、ハンブルク造形芸術大学に通っていた時に、Walter ThielschとThomas Fehlmannとに出会い、3人で初めて録音をしています。HillerとThielschで、”Konzentration der Kräfte”EPを、また、HillerとFehlmannで、”Das ist Schönheit”と言う曲を2枚組のコンピLPに提供し、1980年にリリースされています。その後、Fehlmannと共に、1980年にPalais Schaumburgを結成し、そこでVoを担当します。1979年に、Palais Schaumburgとしてのデビュー・シングル”Träneninvasion”をZickZack Recordsから出して、その後も、他に2枚のシングルをZickZackより出して、1981年に、セルフ・タイトルのデビュー・アルバムを大手のPhonogram Recordsから出しています。と同時に、Hillerはソロ活動も開始しており、欧州で初めて、メインの楽器としてサンプラーを使ったミュージシャンの一人と言われています。ソロとしてのデビューシングル”Holger Hiller”を1980年にAta Takよりリリースしており、1983年には、本作品でもあるソロとしてのデビュー・アルバム”Ein Bündel Fäulnis in der Grube”をAtaTakから出しています。1984年に、彼は渡英し、LondonでMute Recordsのプロデューサーとして働き始めます。その間にも、1985年には、Hillerは、独のミュージシャンAndreas DorauとのコラボEP”Guten Morgen Hose”をAtatakから出しており、翌年には、Hillerは、ソロアルバム”Oben Im Eck”をMute Recordsから出しています。その後、1988年には、ビデオ・アーティストの羽田明子と共に、Ohi Ho Bang Bangと言うパンドと言うかプロジェクトを始め、”The Three”と言う作品を12㌅シングルとCD Video (CDV)と言う2つのフォーマットでMute Recordsからリリースしています。そのCDVでは、HillerとKarl Bonnieは、一つの部屋でそれぞれのモノを使って、異なる音を出し、それらを羽田が編集して、一連のビデオの流れの中で、その音の鳴らし方が自然になるようにして作ったと言う映像と音楽が収録されています。彼等は、音楽からビデオへのサンプリング・テクニックの先駆者になりましたが、ほんの10年後には、カスタマイズされたソフトウェアで出来るようになり、すっかり普通の技法となっています。1995年頃まではアルバムもコンスタントに出していましたが、その後はリリースは途絶え、2000年に、アルバム”holger hiller”をMute Recordsから出したのが最後となっています。なお、2003年以降、HillerはBerlinに居を構え、英語講師として働いているとのことです。
 以上が、Holger Hillerの遍歴となります。それで、今回、ご使用するアルバムは、ジャケが変わったりして、3回程再発されていますが、今回のが4回目再発となります。それで、本作品に参加したメンツは、Holger Hiller (Sampler?, Mix, Produce)以外に、Catherine Lienert (Emulator), Jürgen Keller (B), Moritz von Oswald (Drs)もいます。Hillerが実際には何をやっているのかは良くわかりませんが、、、。また、Hiller本人の考察によると、本作品がリリースされたのが、1983年と言うこともあって、同時に、George Orwellの小説”1984”やそれを元にした映画”Blade Runner”には、人々は暗澹たる気持ちに支配されており、それらの中では、救いようない世界しかないと描かれています。そして、未来は決してクリアカットではなく、ディストピアのイメージがポップ・カルチャーに巧妙に混ざり込んでいますが、それ自身が希望の素となるように仕込んでおいたとのこと。また、彼は、サンプリング・テクニックと言うのは、彼自身や他の人にとって画期的な音楽的手法であって、カットアップとか自動書記とかに馴染んでいるWillam Burroughsの世代及び彼を興奮させたものであり、以上のようなコンセプトやテクニックを、「ポップ」の文脈で使い、欧州における「新しい音楽」に影響を与えたのが、このアルバムであるとのこと。要するに、画期的であったと言うことらしいです。まぁそれは別として、本作品(A面6曲/B面5曲)の各曲をご紹介していきましょう。
★A1 “Liebe Beamtinnen Und Beamte” (1:56)では、何とも異形のポップ・ミュージックを披露しています。確かにサンプラーをふんだんに使って、ビートに合わせている為か、カクカクしたリズムになっており、それにVoを乗せています。
★A2 “Blass Schlafen Rabe...” (3:17)では、「骨折具合」は多少マシですが、ピアノの単音弾きとBとサンプラーの混合物が、骨折しかけたリズム隊の上で踊っていますが、時にノリの良い部分も。
★A3 “Budapest - Bukarest” (2:12)は、小動物のような音と鐘の音で始まり、やがて反復するサンプリング音も加わり、一種のアンビエンスさえ感じますね。
★A4 “Jonny (Du Lump)” (3:35)は、彼の代表曲で、割とノリの良い曲で、それ程「骨折」も無く、Drsは一定のリズムは刻んでいます。HillerのVoも良いです。
★A5 “Akt Mit Feile (Für A. O.)” (1:54)は、一定のパタンを取るリズム隊と思ったのですが、やがてインダストリアルな硬質な音へ変換されたり、戻ったりします。
★A6 “Hosen, Die Nicht Aneinander Passen” (1:06)では、点在する電子音をバックに、Hillerが飄々と歌っています。
★B1 “Chemische Und Physikalische Entdeckungen” (2:57)は、犬の鳴き声らしき音から始まり、割と短いパタンを繰り返して、更に人声のサンプリングを挿入したり、弄ったりして、全然落ち着きません(褒め言葉です)。
★B2 “Mütter Der Fröhlichkeit” (3:48)でも、やや落ち着いたリズム隊に、Voやサンプリング電子音や物音等を挿入している曲で、Hillerのポップネス全開です。空間の使い方が素晴らしい!
★B3 “Ein Bündel Fäulnis In Der Grube” (2:47)では、エフェクトを掛けたフィードバック音とガチャガチャした音、囁くVo、工場の音等等がリズミックにコラージュされています。
★B4 “Das Feuer” (3:40)は、ディスコチックなDrsに、ドライブするBと囁き声での反復Voが絡み、時にサンプリング音や重層化されたVoが挿入される曲で、後半には多幸感溢れるシンセ音も!
★B5 “Ein Hoch Auf Das Bügeln” (2:00)は、これまたリズムを無視したようなサンプリング音の断片から成る曲で、ここに無理やり歌を入れると言う、Hillerらしい曲ですね。

 私がこれを聴いて思ったのは、 Hillerは、自分だけの時間軸を持って曲を作り、独自の空間性を持って音を配置しているのではないかと言うことです。しかも、それをポップ・ミュージックの範疇に納めようとしている所が、Hillerの最大の特徴だと言うことです。なので、通常のポップ・ミュージックからは溢れてしまいそうになり、そのギリギリのコーナーポストを狙っているような音楽が、結果的に生まれてしまったような気がします。まぁ、そんなミュージシャンがサンプラーを使うと言うのは、当然と言えば当然な訳です。そして、Hillerはいつも自分なりの「ポップネス」をこちらに投げかけてきます❗️そんな特異なポップ・ミュージックを是非とも体験してみては如何でしょう。

A4 “Jonny (Du Lump)”
https://youtu.be/xr0l_Yi7QtU?si=oI8MaPmNZ08UarXq

[full album]
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_mf5lSwtr5vRWDT-L7uOOLMO0G8GnZSpxg&si=yewGTQiIbLTTFbxw

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